入れるだの、入れないだのうるせぇな!!どっちも出来れば最高だろ!?二度とそんな事、言うんじゃねぇぞ!!ところで、入れて貰うことって出来るか?
入れるだの、入れないだの、と言う勘違いが勘違いであるとわかるとシャルロットは大人しくハウンズの話を聞く気になった。
そして、ハウンズがシャルロットを捕まえるつもりは無いと言う旨の話をした。しかし、上層部はその旨の範疇から出ているかもしれない、と言う話もした。
そして、上層部が最近少しおかしいと言うことも口走ったを
因みに、ハウンズはシャルロットが実は(男)であることを知らない。
そんなことを他所に、シャルロットはハウンズに向かって疑問を口にした。
「最近、上層部の様子がおかしいってどういう事ですか?」
その言葉を聞くとハウンズは少し身を仰け反らし、部屋の外や屋根裏に耳を傾け、何かの気配が無いか探ってみせた。
そして、気配を感じない事を確認すると、その硬そうな口を開いた。
「最近、上層部はやけに治癒だの、白魔術だの、ポーションに霊薬だの、と言った類いの検挙に躍起にやっているんだ」
「へえ。だから、私の所にも貴方が来たんですね」
シャルロットは自分がどんな立場に立たされているか、知っているのか知らないのか、わからないが、呑気な顔をしてハウンズに答えてみせた。
その様子にハウンズが思わず口を開いた。
「これは君が活動しにくいと言うことだぞ? 意味をわかっているのか?」
「わかってますよ。最悪、治癒の力を使わなければ良いだけじゃないですか? 問題有りませんよ。それに、私の目的は他にありますし……」
そう、シャルロットに取って、人々を治癒の奇跡で治すことは目的でも何でもない。
ただ金になりそうだからやってはみたものの、一銭にもならなかったし、犯罪者に成りかけもしたので、シャルロットはもうやらないでおこうと思っていたのだ。
「他の目的?」
ハウンズがシャルロットの呟きに興味を惹かれたのか、眉を吊り上げシャルロットを見詰めてみせた。
シャルロットはその視線に答えようか、答えまいか一瞬だけ迷ったが。冷静に考えると、どう説明したら良いのかわからないので、はぐらかす事に決めた。
「秘密です♡」
そう言うとシャルロットは可愛らしくウィンクをしてみせた。
普通の男性ならここでドキドキの一つでもするのだが、明らかに話をはぐらかされたハウンズはドキドキなんてするはずもなく、少しイライラしていた。
具体的に言うと、イラッ! ぐらいな感じである。
そして、そのイラッ! と言う感情を飲み込むと、溜め息を一度だけ吐いた。
「まあ、いいさ。兎に角、君の力を実際には見たことないが、それが本物なら、気を付けるんだな。捕まった者達にも少し気に掛かる事が起きてるしな……」
「気に掛かる事って何ですか?」
シャルロットはハウンズの言葉に素早く反応し、質問を叩きつけた。ハウンズはそのシャルロットの様子を見て、呆れた様に眉を吊り上げた。
そして、少しばかり不機嫌な様子で口を開いた。
「自分の事は話さずに、コチラの話は聞こうとする。少し調子の良いの話だな……」
「あはは、いや。これはこれは、申し訳ありません……」
シャルロットは後頭部を擦ると申し訳なさそうに首を傾げた。そして、シャルロットはどうしたものかと頭を抱えてしまった。
ここで、「自分が女神メティアナの生まれ変わりなんです~」と言えば、頭のおかしい人認定されることは待った無しである。それを上手く避けて、協力して貰うことは出来るか。と、問われるとシャルロットにそんな交渉力も話術もない。
「まあ、仕方ないですね。ですが、今回の件はハウンズさんの御厚意に感謝します。本当にありがとうございました。この恩は何時かきっとお返しします」
シャルロットは頭を下げると部屋を後にしようとドアノブに手を掛けた。
その様子を見ていたハウンズが、立ち去ろうとするシャルロットの背中に声を掛けた。
「……待て、少しは事情を話したらどうだ? そうすれば。こちらだって出来る限りの事はするぞ」
そのハウンズの声は心根しか優しさを帯びており、シャルロットの事を考えて言葉を紡いでいる様に感じる。
シャルロットもそれを感じ取ったのか、振り向くと笑顔を作りハウンズに語り掛けた。
「その言葉は嬉しいです、ありがとうございます。でも、私自身が事情を良くわかってないんです。何もかもがわからないんです。私が私で有ることさえ。私が誰で有るかさえ。そして、私が何をすべきかも……」
そう言うと、シャルロットは少し悲しげな笑顔をハウンズに向けた。
「きっと、これは私が私に成る為の試練なんです。私は私にならなければ、きっと何も出来ない。私はいち早く、私にならなければならない。そんな気がするんです……」
ハウンズはその答えに疑問を持ちながらも、シャルロットが誤魔化しや詭弁で喋っているわけではないと理解出来た。
自分でも事情がわからないと言っていたが、きっとそれが真実なのだろうとハウンズは勝手に理解した。そして、それでもと、絞り出した彼女の言葉にハウンズは心を動かされた。「私が私になる」、その意味する事の確信はわからない。
だが、きっとその道は酷く困難で厳しい道のりなのだろう。
そう、感じさせるだけの面構えをシャルロットはしていたっぽい。
そう思うと、ハウンズは一度腕を組み、難しそうな顔をして唸ってみせた。そして、力強く頷くと、今まさに部屋を立ち去ろうとするシャルロットに向かって「待ってくれと」声を掛けた。




