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18

 幌馬車の中は以外と立派なひとつ部屋のようになっていた。


 入って手前側には小さな机に小さな椅子が二つあり、その片方にはアレク君が腰掛けている。入って向かい、御者側にはハンモックが設置されている。そのハンモックの下を見ると、同じ様なハンモックの布が何セットか畳まれて置かれている。ふと、キャンピングカーと言う言葉が脳裏に浮かんだ。


 そう、まるでキャンピングカーなんだ。


 しかも、ハンモックとは乙だね。ハンモックは揺れる場所での寝具としては有能なんだよね、馬車自体が斜めになっても水平を保てるからずり落ちたりするのを防いでくれる。

 そう考えると馬車の中の寝具がハンモックと言うのは中々に物理法則に乗っ取っていると言えるだろう。


 うん、なんか少しワクワクして来たな。

 冒険っぽくていいではないか。


「どうしたんだ、アルル。落ち着きがないじゃないか。まだ、出発もしてないぞ」


 そんな私のそわそわした様子を椅子に腰掛けたアレクくんが少し呆れたように眺めている。まあ、呆れてしまうのも無理はない。今の私は少し落ち着きが無さ過ぎるのだろう。でも、これも無理もない事なんだ。


「だって、私は産まれてこのかたホワイト・ロック以外の街を見たことがないんですよ。そりゃ、そわそわもしますよ」


 実際は名前も知らない街の名前も知らない裏路地で生活していた事はあるが、それ以外は本当に未知の世界なんだ。そう思うと自然と表情が綻ぶ。


 あれ? そう言えばいくつか疑問がある。


「アレクくんはなんで私と一緒にいるんですか? 私の任務に同行してくれるんですか?」


 そう言いながら、私はアレクくんの向かい側の椅子に腰を下ろした。その様子を見たアレクくんが一度頷いて説明してくれた。


「僕は君の隊に志願したんだ。まあ、普通なら候補生のこんなワガママは通らないが、この前の戦いで君と一緒に候補生達の隊長役をやっていたし。君との付き合いも長い。僕が君の隊の副官に最適だろうとパウル師範が上に掛け合ってくれたんだ」


 なるほど、確かにアレクくんが副官なら色々とやり易い。

 

「なら、この隊は隊長である私とアレクくんだけなんですか。少し寂しくないですか?」


 寂しいと言うか、心もとない。

 言ってしまえば新兵二人だ。


「いや、隊員は全員で四名らしい。他の二人も直ぐに来るだろう」


 アレクくんがそう言うと御者側から声がした。


「三人目は俺だぜ隊長殿。名前はカーターって言うんだ。こう見えても師団には三年いる。あんたらと比べるとお遊びみたいなもんだろうが魔術もちっとばかし使える」


 そう言ったのはまさに御者の彼だった。


 カーターさんと言うのか。なるほど彼が三人目の仲間か、師団に三年も要ると言うことはかなり先輩だな。私の方が上司だけど彼の方が先輩とは。これまたこじれた上下関係になりそうだな。


 彼の言葉にアレクくんが素早く反応する。


「魔術が使えるとは具体的にどのくらいだ?」


 確かにカーターさんがどれくらいの実力を持っているか、知っておいて損はないな。でも、アレクくんカーターさんに向かってその態度は如何なものかと思うぞ…… 一応、敬語くらい使ったらどうなのだろうか?


 まあ、アレクくんも一応家名持ちの魔術師だからね。そこら辺の威厳は保たなければいけないのかもしれないな。


 うーん。これは更に上下関係がねじれて行きそうだな。


「安定して唱えられるのは各書の二十章までだ、それ以上は安定しない、不発になったりする。それに二十章までの魔術もあんたら本職と比べたら屁みたいなもんだ。期待しないでくれ」


 いや、でも各書を二十章まで修めているのは普通に心強い。

 十章までが基本呪文だから、それだけ修めているなら大抵の自体には対応できるはずだ。しかし、そんな私の考えとは裏腹にアレクくんが冷たい返答を投げ掛ける。


「なるほど術者としては戦力にならないことはよくわかった。出来ればだが、どの書でもいいから五十章までを修めておいてくれ」


 な、なんでそんな酷いことを言うの?


「ちょっ!! な、なんでそんなことを言うんですか!?」


 余りの出来事に思っていたことがほぼそのまま口に出ていた。

 そんな私の言葉にアレクくんは一度鼻を鳴らし答えた。


「彼も言っているが本職の魔術師である僕達の魔術と、副職的な彼らの魔術では文字通り天と地程に精度にも威力にも差がある。それを鑑みると、最低で四十章以降の呪文でないと術者としては戦力にならない。だから、出来れば五十章までを修めておいてくれと言ったんだ」


 いやいやいや、それはわかるけども。十章とか二十章の呪文にも使える呪文はあるから《アッガイの衣》とか目茶苦茶使えるから。


 なんでそんなにアレクくんは喧嘩腰なの? もう少し、仲良く出来ないのかな? これから、背中とか命とか色々と預け合う仲間なんだよ?


「しゅ、すいません!! お、遅れみゃした!!」


 その時、馬車の荷台に飛ぶ込んで来るようにして、一人の少女が現れた。と言うより、飛び込んできた。


 腰の辺りまで伸びた綺麗な長い髪。そして、その髪は薄い緑色の混じった様な金色をしており。白の師団の配給品である白いベレー帽に白いローブを纏っている。


 彼女は見たことがある。前回の戦いで私の隊にいた候補生だ。ああ、なるほど。彼女が四人目の仲間か。


 新兵が三人か……

 これは、かなり終わってる編成なのではないか?

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