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はあ、身体も痛いし。胃も痛い。そんな、色々な意味で重い身体を引きずるように会議室から出ると、二人の人物が私を迎えてくれた。
そのひとりはパウル師範だった。
「アルルや、よくぞ生きて戻った。本当によかった」
私の姿を見るとパウル師範がこちらに駆け寄り、勢いよく私を抱き寄せた。孤児院にいた頃から世話になっているパウル師範は、今にして思えば私にとっては父の様な存在だ。術式だって、パウル師範にだけは見せていた。
これは希望的観測ではあるけれども、パウル師範も私のことを娘とは行かないまでも世話の掛かる弟子程度に思ってくれているのだろう。
そう思うと少し心が暖かくなる。
「それはこちらの台詞ですよ師範。黒の師団の軍勢が見えた時、もしかしたら師範の身に何かあったのかと思いましたよ」
師範の優しい言葉に少し皮肉を混ぜた返しをする。
でも、実際のところ本当に心配した。
「ああ、私も前線を離れる訳には行かなくてな。取り逃した部隊を追うことが出来なかったんだ。すまなかったな。私が不甲斐ないばかりに……」
そう言って、パウル師範が申し訳なさそうな顔をする。でも、それなら納得できる。正直、隊長格とは言え私がまともに戦える相手に師範が遅れを取るはずがない。単純に手が回らなかっただだったんだ。
「全く、君には驚かされるばかりだよ……」
そう言って、私の元にもう一人の人物が駆け寄ってきた。
アレクくんだ。見る限り怪我もなく元気そうだ。
「アレクくんは怪我はないようですね。無事でよかったです」
私がそう言うと、彼は呆れたように笑って見せた。
「まったく、ボロボロの君には言われてちゃ世話ないな」
ああ、確かにこの中で一番ボロボロのなのは私か……
そう思って自分の頭に手を置く。その様子を待て師範もアレクくんが同時に声を上げで笑いだした。
いや。とにかくよかった。無事に終わって本当によかった。
また、皆と笑い合えて本当によかった。
ああ、そう言えば査問会で結構生意気なこと言っちゃったけど。大丈夫かな? まあ、どうでもいいかな。元々、成り上がろうなんて思ってもないし。干されたり、左遷されたりするなら望むところかな。左遷されたら左遷されたらでサボれそうだし。それはそれでいいかな。
て言うか、私はまだ候補生だしそう言った物とは無縁だろうな。
取り敢えず、色々あった事だし、今日は部屋に戻ってゆっくり休むか……
そう思った瞬間、緊張の糸が切れたのか、あるいは気が抜けたからなのか足から力が抜けて、私は床へとへたり込んで立てなくなってしまった。
そんな様子の私を見てアレクくんが目を丸くしながら口を開いた。
「おい。どうしたアルル。何をやってるんだ? 床になんか座り込んで、だらしないぞ」
いやいや、少しは察して頂戴な。腰が抜けちゃってるんだよ。あの戦いでの緊張感と査問会での御歴々との謁見で……
アレクくんよりも先に師範が私のことを察して口を開いた。
「ははは。今頃、緊張の糸が切れたのかアルルや。まあ、無理もない。初めての実践で隊長格との戦闘に査問会での謁見。少し荷が勝ち過ぎたのだろう。どれおぶってやろう」
全くその通りだ。
私は大人しく、師範の首に手を回しおぶってもらうことにした。
私を持ち上げる時に師範が「重くなった」だの「昔もこうやっておぶった」だのと口にする。そんなのちゃんと覚えてるか言わなくていいのに。
そんなことを思いながらも師範の揺れる背中に頬を預ける。
心地よい揺れに揺られ、いつのまにかに私は眠りついていた。




