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《術式展開 専権磁界》
私がそう呟いた瞬間、青白い稲光が私の周囲を包み込んだ。
この世界。いや、魔術の世界には術式と言うものがある。それは例えるならば算数の数式と同じだと言っていい。
例えば1+1=2と言う式がある。
この1がひとつの魔術、あるいは呪文であり、その1が2つ合わさり2と言う魔術が発動する。この場合は単純に1と言う魔術が二回発動する、あるいは二連続で発動するとなる。
しかし、これを私達は術式とは言わない。単純に式、つまりただの魔術の初歩の領域として扱う。
術式とは少なくとも20か50。多くて100や200或いはそれ以上の魔術を式に組み込み。更にはそれを術式として成り立たせ。頭の中で詠唱し続け。お互いにお互いの魔術が補完、あるいは相互補助し合い。最終的な解となし。魔術の効力を何倍にも膨れ上がらせる技術の事を言う。
それを私達魔術師は術式と言う。そして、その難易度故にこの術式と言う物を所有している魔術師と言うのは非常に少ない。そして、その反面この術式と言うのは編み出すことさえ出来れば、凄まじく強力な武器となる技術なのだ。
そして、私の編み出した術式は《専権磁界》
この世界の知識だけでは到底辿り着かなかったであろう、術式。私の前世と私の魔術の属性が奇妙にも混線し産み出された術式。
僅か20から30の魔術で組み立てられ。その大半を自然の摂理や物理法則に頼っている術式だ。これを術式と言うのはあまりにはばかられる程ら不格好で不出来な代物だ。
そして、その頼る自然の摂理とは磁力である。
いま、私を中心とし歩幅にして三歩分の範囲が磁力の渦に覆われている。傍目からは、私が青白い稲光を纏っている様に見えるだけだが、事実それよりも僅かに広い範囲が私の術式の支配空間にある。
この支配空間で私の魔術を帯びた物体は磁力を帯び。私はその磁力の強さ及びプラスとマイナスの権限を自由に支配出来るようになる。
そして、私は常時発動する魔術にこの術式の一部を組み込んでる。
その組み込んだ魔術とは、私の魔術に触れた物に磁力を帯びさせると言う物だ。これにより、普段から使う魔術のコストはやや増えるがその反面莫大なメリットがある。それがこれだ。
術式に集中していた頭を現実の世界へとより戻す。すると今まさに目の前に黒い鉄の棒が迫り来ようとしていた。
しかし。次の瞬間、甲高い金属音が辺りに響き渡った。
「な、なによ。今の?」
フランソワ・ロベスピエール。
彼が驚きの声をあげた。
驚くのも無理はない。なんせ彼自慢の鉄棍が凄まじい勢いで飛んで来た何かに弾き返されたのだ。そして、彼がその何かを見て目を丸くする。
その何かとは黒い剣だった。しかも、それがまるで何者かが持っているかのように宙に浮かんでいるのだ。
そう先程、私が倒した黒の師団の団員が装備していた黒い剣だ。これがメリットのひとつ、私の魔術を受けた者の装備が私の支配下になるのだ。
ただ流石に生きてる相手の手から武器を奪い取れる等と言った芸当はまだ出来ない。だが死んでる相手からなら問題無しだ。そして、彼等は私の魔術をもろに受けている。条件はバッチリ揃っている。
そして、2つ目のメリットが先程起きた現象の正体だ。
私がこの剣に磁力を纏わせ支配するのはいいが、この磁力を纏った剣の向かう先がない。的が必要だ、同じく磁力を纏った的が……
プラスならばマイナス。マイナスならばプラス。と言った引かれ合う的が……
実はそれがあるのだ目の前に。
先程から私をボカスカと殴る鉄棍。それは私の《アッガイの衣》に触れている。勿論、この《アッガイの衣》も私の術式の一部が組み込まれており。これに触れた物は磁力を帯びて私の術式の支配下へと入る。
そう、つまり私の術式が生きる条件は幸運にも揃っている。
私は宙に浮いていた剣を手に取り、強く握り締め剣に魔力を込める。正しくは剣に宿った磁力に魔力を込めているのだが、この際どちらでもよい。
すると、剣はひとりでに男が持つ鉄棍目掛けて飛んで行く。私もその剣に引っ張られる様にして男の懐へと潜り込む。
しかし、男もただ突っ立ている訳もなく。私の握った剣を反射的に弾いてみせた。
「甘いわよ! 魔術師がアタシら戦士に勝てると思ってるの!? 舐めないでちょうだい!」
彼は先ほど私の剣を弾いた鉄棍を直ぐ様ひるがえし、凄まじい勢いで私に向かって振り下ろして来た。
舐めてもらって困るのはこちらの方だ。
私は自分の握る剣にもう一度魔力を流し込む。
すると剣は凄まじい勢いで鉄棍へと向かって行き、その勢いのまま衝突し甲高い金属音を響かせた。そして、瞬時に剣へと魔力を流し込むの止め後ろへと下がる。
こうしないと磁石同士でくっついてしまう。それにくっつたら力押しで潰されるかもしれないので瞬時に引き下がる必要がある。あと、こうしないと私が何をしてるかバレる可能性がある。
ぶっちゃけ、バレた所でこの術式は汎用性が売りの術式だから大して問題ではない。
傍目からは見たら、魔術師である私がこの男と剣で互角に渡り合っているような見えるだろう。当の男本人は若干の違和感が有るかもしれないがそれは仕方がない。それに先程も言ったように汎用性が売りなのでバレても関係ない。
「驚いたわね。アナタ魔術師にしておくには惜しいわね」
よし、どうやらバレてないみたいだ。いいぞ、術式も上手く起動してる。魔力のオンオフも強弱の調節も悪くない。これならば戦える、勝てるかもしれない。
よし、行くぞ!
剣に魔力を流し込み。私はもう一度、磁石の勢いに身を任せたまま男の懐へと飛び込んだ。




