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 私は黒の師団が嫌いだ。そして、正直言ってしまえば白の師団も嫌いだ。


 勝手に戦って。勝手に人を傷つけて。勝手に奪っていく。勝手に戦争を起こして、自分こそ正義の使者だと言わんばかりの正義面で戦火を振り撒く。


 だから、私は白の師団も黒の師団も嫌いだ。


 だけど、師範やアレクくんやメイちゃんや候補生の仲間達は好きだ。たとえ彼等が白の師団側の人間だとしても、私は皆が好きだ。


 守りたいって、素直に思える。


 そう、私は白の師団の為に戦うんじゃない。大切な人達を守る為に戦うんだ。そう……


 それなら、私は戦える。


 視線の先にいる黒の師団の軍勢を見詰める。その距離は少しずつ縮まっている。


 その軍勢を見据えて私は呪文をゆっくりと間違えないように唱えていく。


《怒れる雄牛よ、その角に宿る雷よ、車輪を鳴らす夜の嵐よ、彼方より轟音を鳴り響かせ、罪人をその雷の元に裁け》


 間違えないようにゆっくりとその言霊の一つ一つに魔力を込めて……


《雷の書、第三十一章。ガルバディアスの戦車刑》


 その言葉を唱えた瞬間。私の身体から稲光が発せられその光が一匹の雄牛と戦車を型どり、黒の師団の軍勢へと凄まじい勢いで突撃して行った。


 まだだ……


《雷の書、第三十一章。ガルバディアスの戦車刑》


 再び同じ魔術を発動させる。


 詠唱を省略した為、先程より威力は落ちるがそれでも十二分。稲光で牛戦車を型どり、黒の師団の軍勢へとけしかける。


 私の放った魔術の第一波が黒の師団の軍勢へと襲い掛かる。

 

 大木が張り裂けるような音と共に凄まじい轟音が響き渡る。恐らく、あの集団に命中したのだろう。そして、すかさず第二派が彼等を襲う。


 再び、凄まじい轟音が辺りに響き渡る。その惨劇の場を見ると黒の師団の軍勢は地に伏しているように見える。


 よし、やったみたいだ。


 ……いや、この目で直に確認する必要るべきだろう。

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 その場所は凄まじい惨劇が広がっていた。


 黒い鎧が煙をあげ、その鎧達は焼死したかのように身体を強張らせたような生き絶えている。不意にこべりつくような嫌な臭いが鼻をついた。


 爪や髪を燃やした時の臭い。それを何百倍にも濃縮したような臭いが辺りに立ち込めている。自分がやった惨事にも関わらず思わず吐き気が込み上げてくる。そして、忌まわしい記憶が甦る。


 これで二度目だ、それも今度は故意にやった。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。まだ、生き残りがいるかもしれない。油断すればこうなるのは私の方なんだ。


 私は脳裏に浮かんだ記憶を振り払うように頭を振った。その瞬間、凄まじいほの寒気と悪寒が背筋を走った。


 咄嗟に頭の中でも呪文を唱える。


(《雷の書、第三章。アッガイの衣》)


 その瞬間、身体から青白い光が現れ、私の身体に纏わりついた。しかし、それとほぼ同時に私の首に激痛が走り、私は気づけば宙を舞っていた。


 そして、気が付けば私は空を仰いでいた。


「なるほどね。呪文も唱えないで魔術を発動できるって事はアナタ、中々出来る魔術師ってことね?」


 声のする方向へ直ぐ様、視線を向けた。


 そこには黒い革のジャケットに同じく革のズボンを纏った、痩せ形の男がひとり立っていた。

 撫で付けたような黒髪をしており、その顔は非常に奇っ怪な風体をしていた。その肌は病的な程に白く、唇は何か塗っているのだろうか真っ黒に染色している。そして、その手には長く黒い棒が握られていた。


 棍と言う奴だろうか。棍棒と言うには余りにも細く、棒と言うには少しばかり重々しい。強いて言うなら、槍や斧から刃の部分を取った物体と言った感じたろうか。


 思わず、首を押さえる。

 なるほど、あれで私はぶん殴られたのか。


 なら、あの衝撃も納得出来る。最低限の防御呪文ではあるが《アッガイの衣》を纏っていなかったら首が折れていたかもしれない。いや、確実に折れていた。


 それにしてもこの男、私の《ガルバディアスの戦車刑》を避けたのか? 不意打ちの形になっていたはずなのに避けたと言うのか。もし、そうだとしたら、この男かなり出来るぞ。


「アタシは黒の師団。第九師団所属。陸戦部隊隊長、フランソワ・ロベスピエールよ」


 そう言って、男が鉄の棒の先端をこちらに向けた。なんでオカマ口調なのかは、私と同様でセンシティブな話になりそうなので無視するが。問題なのは、この男が隊長格であると言うことだ。


 完全に相手の方が格上だ。


「さあ、アナタの名前を教えてちょうだい。可愛らしい魔術師さん」


 そう言って、男は黒い唇を歪め不適に笑ってみせた。

 いや、弱気になるな。この男の体つきや体裁きからして明らかに戦士だ魔術師ではない。ならこちらの魔術を上手く使い不意を突けば勝てる可能は十分にある。


「私は白の師団。候補生のアルルです」


 僅かに声が上擦る。自分自身が緊張しているのが感じ取れる。そんな私の言葉と言動を見て男が目を丸くした。


「あらまあ。じゃあ、私の隊は候補生ごときに壊滅させられちゃったってこと? やだ~ あり得な~い」


 その瞬間、顔面に激痛が走り。視界が真っ赤に染まった。《アッガイの衣》の効果がまだ残っていたお陰で致命傷には至らなかった様だが目に手痛い一撃を貰ったらしい。


 見ると男は先程いた場所から一歩も動いていない。いや、動いていない様に見えるだけで間違いなく動いたんだ。


 凄まじ勢いでこちらに踏み込み。私の顔面に突きを御見舞いし。そして、凄まじ勢いで元の位置へと戻ったのだ。

 油断した、危うく早々に視野を半分持っていかれる所だった。そうなっていたら、かなり敗色濃厚になっていた。


 やはり、この男強い。


「その魔術の鎧、結構厄介ね。先ずはそれをひん剥いてやりましょうか」


 男が強く足を踏み込み、凄まじ勢いでこちらへと向かって来た。出し惜しみなんてしてる場合ではない。最初っから全力、私のとっておきを出して勝つしかない。


《術式展開 専権磁界》


 私がそう呟いた瞬間、青白い稲光が私の周囲を包んだ。

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