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 私は確かに子供っぽい体型をしているかもしれないけれども。こう見えて結構鍛えてる。なんて言ったって、白の師団の候補生なんだ。普通の人よりかは遥かに鍛えている。座学は苦手だけど身体を動かすのは得意なんだ。多分、中身が男だと言うのもあるのかもしれない。それでも、女性とは言え大の大人を担いで歩くのは骨が折れる。


「お姉ちゃん大丈夫?」


 メイちゃんが心配そうな表情でこちらを見上げる。

 まあ、そうだろう。


 大して背も高くなくて、恰幅がいい訳でもない。いや、むしろ細っこくて身体も小さい少女が自分よりも少しばかり重そうな、しかも気を失っている大人の女性を担いでいるんだ。いささか無理がある。


 メイちゃんの目には私が今にも潰れそうに見えるのだろう。でも、大丈夫。まだ行ける。それにもう少しなんだ。もう少しで候補生達が避難誘導している地域まで辿り着く。


「アルルさん!! 大丈夫ですか!?」


 ほら、噂をすればなんとやら。

 何人かの候補生が私の姿を見て駆け寄って来てくれた。


 周りの様子を見ると、あらかた避難誘導は完了した様子だ。残りは老人や怪我人と言った移動に時間が掛かる人達のみのようだ。

 それも候補生達がふたりがかり等で肩を貸したり、手伝っているのでじきに終わるだろう。


「この人を頼みます。頭を強く打ったみたいなんで出来るだけ丁寧に運んであげてください。それと、この子はこの人の娘さんみたいです一緒にホワイト・ロックへ連れていって下さい」


 そう言って候補生にメイちゃんとその母親を預けた。


「アルルさん。血が出てますよ!」 

 

 候補生の中の一人が私に駆け寄り、ローブへと視線を移した。その視線の先を見ると肩の辺りが拳台程度の範囲ではあるが血で赤くなっていた。


「大丈夫です。私の血じゃありません」


 恐らく、メイちゃんの母親の血だ。

 頭の血は結構派手に流れるから、これぐらいは普通だろう。恐らく問題無いはずだ。しかし、私に付いた血を見た候補生は、血の気が引いてように顔が真っ青になっている。まあ、確かにそうなるのは仕方がない。


 見ると、その候補生は女の子のようだ。


 腰の辺りまで伸びた綺麗な長い髪。その髪は薄い緑色の混じった様な金色をしていた。そして、私と同様に白の師団の配給品である白いベレー帽に白いローブを纏っている。


「ほら、私達女は月のものでいつも血を流すじゃないですか。これくらいで顔を真っ青にしないで下さいよ!」


 そう言って、彼女を励ます。まあ、中身が男の私からすれば、今のはただのセクハラだが見た目が女なのでこれくらいは言っても大丈夫だろう。

 それにこれくらいで顔を真っ青にして貰っていては話にならないのは本当だしね。


「は、はい! そ、そうですね。そうですよね」


 相も変わらず、彼女の顔は真っ青だが。なんとか気張ろうと言う気概はうかがえる。よし、いいぞ。


「ええ、それじゃあ。あの女の子とお母さんを頼みますよ。避難誘導もひと通り終わったようですし。私もここをひと通り見て民間人が居ないのを確認したらホワイト・ロックに戻ります。皆さんは先にホワイト・ロックへと戻って下さい」


 そう言って彼女の背中を押す。


 彼女は一度にこちらを見ると小さく頷いて、候補生の集団へと戻り彼等と一緒にホワイト・ロックの方へと向かった。よし、これで後はここら一帯を回って民間人がいないのを確認したら、私もさっさとホワイト・ロックに戻るか……


 そう思いながら、不意に前線の方へと視線を移した。

 その時、私は信じられない物を見た。


 街道の遥か先に集団が見えたのだ。


 黒いプレートアーマーを纏った集団。数は二十人前後。その手に漆黒の剣や槍や斧と言った物々しい物体が握られている。


 前線を抜けてきたのか、それとも前線が崩れたのか!?

 どちらにしろ不味い、逃げなければ……


 いや、駄目だ逃げられない。さっきの女の子やその母親。それに候補生の皆が後ろにいる。なら、私も彼等の所まで後退して一緒に戦うか?

 いや、駄目だ怪我人や老人や子供を抱えて戦える程、私達候補生の練度は高くない。一瞬でやられてしまう。


 なら、私がここで止めるしかない。不意に先程の女の子の顔が脳裏に過る。名前はメイちゃんて言ったっけ。


 路地裏で弱々しくても健気に一生懸命に灯る小さな命の灯火。なんとなく過去の私を見ている気がした。いや過去の私と重ねるにして。メイちゃんは少し可愛らし過ぎるか。

 

 でも、それでも昔の私と似ていると感じたんだ。あの時、私の事を守ってくれる人はひとりもいなかった。


 だから、せめて。


 私はあの娘を守って上げる人になりたい。そうだ、さっきも思ってたじゃないか。その為に白の師団に入ったんだ。


 私は腹をくくり、正面からやってくる軍勢に視線を向けた。

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