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6

 教室の前の人だかりは先程の様子と変わりなかった。


 しかし、彼等は師範の姿を目にした瞬間、人だかりごと師範の元へと雪崩れ込ん出来た。先程と状態は変わらないと思ったが、どうやら先程よりもパニック状態は酷くなっている様だ。


「鎮まらんか!!」


 その候補生達の雪崩を師範が声で沈めてみせた。


「君達も候補生とは言え、白の師団の一員なんだ。こう言う時だからこそ冷静になりなさい!」


 師範の声に候補生達の中の何人かが我に返り。師範へとその視線を向けた。顔を下げていた者は顔を上げ。キョロキョロと視点の定まらない者は師範へと視線を向けた。

 そう言った、冷静さを取り戻した候補生達の態度は伝染して行き候補生達全体が直ぐに冷静さを取り戻した。


 その様子を見届けると師範が声を発した。


「今、ここにいる候補生は二個の隊に分けて民間人の避難誘導に向かってもらう。いいか!?」


 師範の問い掛けに候補生達一同が勢いよく返事を返した。明らかに士気を取り戻しはじめている。やはり、彼等も師団の一員と言う自覚があるのだろう。師範の問い掛けを聞いてから明らかに皆の目の色が違う。

 

「よし!! いいか、団員番号が奇数の者と偶数の者で隊を分け。そして、ここのアレックスとアルルに指揮を取ってもらう。アレックスの元に偶数番号の者。アルルの元に奇数番号だ。さあ、並べ」


 候補生達が少しばかりざわつきを見せたが、直ぐ様師範が言ったように列が作られた。


 私の前には三十人程度の候補生が並んだ。


「よし、君達は各々アレックスとアルルの指示に従うように。それと私に何人か着いて来て欲しい。そうだな、そこの君と君と……」


 そう言って師範が候補生を私達の隊の中から交互に選んでいった。てきとうに選んでるように見えるが、恐らく師範は最初に冷静さを取り戻した何人かを選別しているようだ。


「君達は私達と一緒に前線まで向かい、そこで民間人の避難誘導をしてもらう。そして、それが終わり次第、前線を離脱しアレックスとアルルの隊に合流しろ」


 なるほど、そう言うことか。とにかく師範は徹底して候補生達に交戦させないつもりらしい。とにかく民間人の避難を最優先にと言うことだろう。


「よし、では戦況はアレックスとアルルに既に伝えてある。私は直ぐに前線へと向かう。先程の指名した者達は私に着いて来い」


 そう言うと師範がローブを翻し、颯爽と歩き出した。

 よし、私達も行くか……


「私達も行きますよ。途中まで師範達と共に行きますが前線に入ったら直ぐに民間人の避難に回ります。民間人達にはこのホワイト・ロックまで避難するように伝えてください。戦況は歩きながら話します。ちゃんと聞いててくださいね!」


 そう言って、私もローブを翻し歩き出す。その私の後をぞろぞろと着いてくる足音がする。この土壇場で私が指揮を執ることに駄々をこねる者は流石にいないか…… 


 とにかく第一に民間人の避難。第二に戦闘は極力避ける。これだけは皆に伝えなくては。きっと、これだけ伝えれば皆もある程度動いてくれるはずだ。大丈夫、最前線では師範が敵を塞き止めてくれるはず。よし、それも皆に伝えよう。そしたらきっと皆の士気も上がるはずだ。


「いいですか皆さん!!」


 声を張り上げ僅かに後ろを振り向く。

 皆、着いて来てくれているし、私の声に耳を傾けている。


「黒の師団は郊外の外れに出没し、白の師団が現在は迎撃しています。黒の師団の勢力は中隊規模、およそ二百。これに対して本部の団員、五百が迎撃に出ました。地の利もこちらに有りますし、こちら側が負ける可能性は低いとの事です」


 私の声を聞いて、明らかに何人かの候補生が胸を撫で下ろした。

 

「私達の任務は先程言ったように民間人の避難誘導です。師範自身が最前線で黒の師団を塞き止めてくれるはずですから、黒の師団との交戦の可能性は限りなく低いはずです。なので我々は民間人の避難誘導に集中して動きまますよ」


 戦況がこちらに有利であるとわかったからか明らかに表情に余裕が出てきている。かといって油断していると言った感じでもない。恐らく、これがいい塩梅だろう。


「よし、大丈夫」


 そう小さく呟いて、私は戦場へと一歩踏み出した。

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