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 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、と言うより。私は全然胸を撫で下ろす事が出来なかった。因みにこれは私に胸が無いからそういう事が出来なかった、とか言う話ではない。胸が無くても胸を撫で下ろすことは出来るからね。まあ、つまりる所、私はまだ安心できなかったと言うことだ。


 その時、不意にパウル師範と目が合う。私の不安を察してか師範が優しく語り掛けて来てくれた。


「大丈夫。君達が戦う事にはまずならないと思う」


 やっぱり、安心出来ない。「まず」と言うことは僅かでも戦闘になるかもしれないという意味だ。それならば、それで一層気を引き閉めなければ。

 

「それでは私達は何をすればいいんですか?」


 パウル師範の気遣いの言葉に「大丈夫ですよ」と意味合いも込めて返答をする。師範もそれを感じ取ったのか優しく微笑み前を向き直した。


「うむ。君達候補生には、交戦している地域付近に住む、民間人の避難誘導をしてもらいたい。私が前線の近くの避難指揮を執る。君達二人はその後方で指揮を執って欲しい」


 思わず驚きの声が飛び出す。


 いきなり指揮を執る? そんなこと出来る訳ない。師範は頭がおかしくなってしまったのだろうか?


「師範! 指揮を執るなんて無理ですよ。僕には出来ません!」


 アレクくんが声を挙げる。私もそれに同意するように小さく頷く。しかし、そんな私達の様子を見ても師範は態度を変える様子を見せなかった。


「大丈夫。今の戦況報告を他の候補生達にし。その後、候補生達と共に民間人にホワイト・ロックまで走るようにと言えばいいだけだ。君達なら出来る。それに他の団員達は皆出払ってるか、本部の守りに回ってしまっている。だから君達、候補生達がやるしかないんだ。それに……」


 その時、師範の背中から僅かに湯気に似た青紫色の煙が滲み出した。そして、その背中の向こうから力強い声が私達に届いた。


「黒の師団は私が絶対に近付けさせない」


 あの湯気は魔力だ、しかも目を見える程の高濃度の魔力だ。呪文を唱えてる訳でも無いのに高濃度の魔力が肉体から溢れ出ている。今の師範の肉体の中には凄まじい程、高濃度の魔力が充満しているのだろう。


 なんと、心強いことか。大丈夫、この人がそう言うのなら。そう思える。実際にアレクくんの表情も僅かな不安は残っているようだが、かなりリラックスしているように見える。かくゆう私もかなり安堵した。巨大な魔力を有する魔術師が味方にいる。それほど安心出来る事はない。


 例えるなら、非常に身軽な戦艦が一隻味方側にいるような物だろうか。


 それは大層心強かろう。しかも、それが守るって言ってくれているのだから、安心せざるおえない。それに師範にここまで言わせてしまったのだ、ここで私達が使命を投げ出す訳にはいかない。なんて言ったって一番の危険地帯には師範本人が行くと行ってるんだ。その心意気を無下にすることは絶対に出来ない。


 腹をくくるしかないようだ。

 

 アレクくんを見ると彼も腹をくくったのか、真っ直ぐと進行方向を見詰めている。私も腹を決める。

 そんな私達の様子を肌で感じ取ったのか、師範が私達に声を掛けて来てくれた。


「頼めるかい」


 私とアレクくんは黙って頷いてみせた。

 それを見た師範も黙って頷いた。

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