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今でもあの頃を夢を見る。
酷く生臭いニオイがする裏路地に私はボロボロの貫頭衣の様な物を纏って立っている。そして、私はどこに行けばいいのかと回りをキョロキョロと見渡している。ふと、通路の先を見ると建物と建物の合間から賑やかな街並が視界に映った。
だけど、何故だかそっちには行ってはいけないような気がした。だから、私はその景色に背を向けた。その先に目を向けると真っ暗で生臭いニオイが更に強くなったように感じた。
不意にその暗闇の中から人間の手が姿を表した。
その手は所々に吹き出物があり、土なのか、泥なのか、わからないがとても汚れていた。その手は私の頬を優しく撫でる。その手は生暖かく、気持ちの悪い湿り気を帯びていて。そして、それと同時にひときわ生臭いニオイが鼻を襲ってきた。その瞬間。私は恐怖とも、嗚咽ともつかない物が腹の奥からせりあがって来た。
「アルル…… 起きろ、アルル!!」
どこからか私の名前を呼ぶ声がする。そうだ、思い出した。私の名前はアルルだ。そして、これは夢だ。
それも飛びっきりの悪夢だ。
まだ物心ついて間もない過去の出来事。そして、自分に前世の記憶があることにやっと気づき始めた切っ掛けとなった出来事だ。そして、二度と思い出したくない恐怖の出来事だ。
「アルル!! 起きろ起きるんだ!!」
はっきりと私の名前を呼ぶ声がする。私はその声を頼りに瞳を開き、夢から覚めた。




