郡風華は掴みたい。
レティセンスコミュニケート
k第10話k
郡風華は掴みたい。
いつもの様に部室に向かう途中、立ち止まって考えてみた。
「……?」
「……?」
二人の視線がアタシに集まる。
「……こっちから行ってみませんか?」
正面の廊下を指差して言ってみる。
いつも部室に行く際は、階段を降りてから二階の廊下を進むのだけど。
今日は正面の廊下を進んでみたいと思った。
「……」
「……」
二人が頷くのを見ると、よしっと気合を入れる。
先日アタシ達は部活動の活動調査を御願いされた。
いつでも良いと言われたけれど、後回しにしてばかりも居られない。
それなら初めから思い切ってチャレンジしたいと思ったのだ。
その第一歩がいつもと違う道順を辿る事。
この先には知らない部活が幾つもあるから。
「……行きましょう!」
二人と一緒に。
前へ前へと進んで行くのだった。
「……」
「……」
「……?」
――ふら~。
「……」
「……!?」
――あわわ。
アタシが振り返った時。
「……?」
気が付けば誰も居なかった。
「……???」
えぇ、なんでぇ!?
アタシ一人しか居ない事実に驚きを隠せない。
「……ど、何処へ行ったんですかぁ……」
怖い、怖いですよこれは!?
ホラーの世界に迷い込んでしまったよう。
震えた声で二人を探しながら来た道を引き返すと。
近くに部室から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「はい! はいやー! ほい!!」
何の掛け声なのか見当も付かない。
その部室を覗き込んでみると、困った様にあわあわしている切ちゃんが居た。
「……!」
泣きながらゾンビの様に駆け寄るアタシ達。
ガシッとその手を握った。
「……急に居なくなってビックリしました」
アタシがそう言うと、切ちゃんは震えながら日和ちゃんを指差す。
「はい! はいやー! ほい!!」
其処には掛け声の主、そしてそれを見つめている日和ちゃんが居た。
一体何を……。
見ていると女性の先輩達が、箸を卓球のラケットの様に激しく振り回していた。
その様子は何かの儀式の様でおどろおどろしく映る。
「……ここは一体……」
切ちゃんに訊ねてみるが首を横に振った。
「……日和ちゃんが……」
どうやら日和ちゃんがこの怪しい儀式に吸い込まれてしまったらしい。
「……」
日和ちゃんはこちらに気付く事もなく先輩達を見つめていた。
「はい! はいやー! ほい!!」
再び謎の掛け声が聞こえ始める。
「……お、恐ろしい!?」
恐怖しかなかった。
「んお? いつの間にかいっぱいおるよー?」
「あんれまぁー、いっぱいおるのー」
「せやなせやなー」
先輩達が遂にこちらに気付いた!!
「……!?」
アタシは気付かれたくなかった自分自身に気付いた!
「皆ようこそなー」
「見学かいねー」
「せやなせやなー」
「……み、皆さんは……?」
「ここは流しソーメン部さー!」
「……流し」
「……ソーメン」
「……部?」
謎の部活だった。
よく見ると先輩達が居た場所には、竹を切って作った水の道がある。
しかし初めて聞く部活ですね……。
「うちらぁ、流しソーメンで全国狙ってるさー」
まさかの全国規模だった!?
「丁度三人いるさー」
「せやなせやなー」
先輩達はこちらを見て何かを思いついたようだ。
アタシ達が首を傾げていると。
「勝負やー!!」
そう言って割り箸を差し出してくる。
「……えぇ!?」
叫ばずにはいられなかった。
アタシ達は、流しソーメンの台?に立つ。
名称が分からない……。
「ソーメンは疑似ソーメンさぁー」
疑似ソーメン!?
よく見ると流れているのはソーメンっぽい何かだった。
「勝敗は簡単さー」
「流れてきたソーメンの掬った本数が多い方の勝ちさぁ」
「せやなせやなー」
あ、食べないんだ。
「……食べないんだ」
日和ちゃんも同じことを思った様だった。
「以前は食べた数で勝負してたんだけどぉ」
「最近は衛生面が厳しいんさぁー」
「せやなせやなー」
どうやらルールが変わったらしい。
元のルールすら知らないのに!
「取り合えずやってみるさぁ!」
そして、流しソーメン部vs.新生レティセンスガールズの何もかかっていない闘いが始まった!!
「今回はストレートでやるさぁー」
「……ストレート?」
「真っすぐな流しソーメン台、NSDさぁー!」
N(流し)SD(台)!?
「せやなせやなー」
勝手に名前を付けているのだろうという事だけは分かった。
「ちなみに四角で循環するバトルロイヤルNSDもあるさぁ!」
それは遠慮したいです……。
「じゃあ、ルールを説明するさぁ」
「一人が相手にソーメン投入を担当するさ!」
「せやなせやなー」
「残った二人が流れてきたソーメンを掬った本数で勝負さぁ!」
思ったよりも簡単なルールだった。
「……セツが」
どうやら切ちゃんがソーメン投入を担当してくれるらしい。
ありがとう切ちゃん!
先行はアタシ達が行う事になった。
手には器と割り箸。
後は流れてきたソーメンを掬うだけ。
割り箸を先に水につけておけばある程度は掬えるはず。
「いくさぁー!!」
先輩が振り被ってソーメンを投げる!!
「……今!」
思い切って箸を持ち上げた!
そぉあ……。
「……そんな!?」
謎の擬音と共にソーメンはすり抜けていく。
「……私の、番!」
そぉあ……。
日和ちゃんの前もソーメンはすり抜けていき、終点の丸い桶に入っていく。
「……む、難しい」
アタシと日和ちゃんは顔を見合わせた。
これは、勝ち目が無さそうですね!
「二球目いくさぁー!!」
二球目!?
流されてきたソーメン。
先程は一本一本が綺麗に真っすぐだったのですり抜けてしまった。
だが今度は少し丸みがある!
「……これなら!」
そぉあ……。
「……変化した!?」
ソーメンが直前で軌道を変えて箸の横をすり抜けていく。
「ソーメンはストレートだけじゃないんさぁ」
「四倍に薄めるんさぁ」
「せやなせやなー」
濃さの話じゃないと思いますが!?
あとは後ろに控えた日和ちゃんに任せるしかない。
きっとこんな時、日和ちゃんなら何とかしてくれる!
「……狙い撃つ!」
カッコいい台詞が出ました!
期待度は最高潮ですよ!!
「……ここ!」
そぉあ……。
ソーメンは日和ちゃんの横をすり抜けていった!
「……無念」
「……日和ちゃん!?」
日和ちゃんは崩れ落ちてしまった。
「レティセンスガールズは0ポイントさぁ」
「あーし達の勝ちさぁー」
「せやなせやなー」
「……まだ、です!」
切ちゃん?
「……まだ、できます!」
アタシ達の奮戦を見て切ちゃんが熱くなっている。
切ちゃんはまだ諦めていないんだ!
「……が、頑張って切ちゃん!」
アタシが応援すると頑張るって感じのポーズをする切ちゃん。
もう全てを彼女に託すしかない。
「じゃ今度はうちらぁのバッティングさぁー」
バッティング!?
「ホームラン狙うさぁ!」
「せやなせやなー」
やっぱり野球だこれ!?
「……い、いきます」
切ちゃんは思い切ってソーメンを流す。
そのソーメンは、途中で軌道を変えた!
「……そうか!」
切ちゃんは相手投手の投げ方を見て変化球を覚えたんだ。
あの瞬間にそこまで考えて……。
普段から人の事をしっかり見ている切ちゃんならではの発想だ。
これならあるいは!
「はい! はいやー! ほい!!」
先輩は変化に対応してソーメンを掬う。
「……これかぁ」
聞き覚えのある掛け声に思わず声が漏れる。
一本残らず掬い上げられたソーメンを見て納得を覚えた。
「うちらの勝ちさぁ」
「あんたぁらも強かったさぁ」
「せやなせやなー」
敗北を認めるしかない。
もうこの場所に戦える人は居ない。
「……お、おのれー」
再起を誓う日和ちゃんと。
「……あわわわ」
涙目であわあわしている切ちゃんしか居ないのだから。
……うん、帰ろう。
「……じゃあ、部室に行きましょうか」
何故だろうか、何もかけてなかったはずなのに少し悔しい。
「……次は、勝つ」
「……本気になってる!?」
捨て台詞を吐くと、アタシ達は流しソーメン部を飛び出した。
「またくるさぁ」
「なんくるないさぁ」
「せやなせやなー」
あの先輩、結局せやなしか言ってない……。
部室に着くと、棚に置いてある活動報告書を取り出した。
ペラッペラっと捲って流しソーメン部の名前を見つけると。
「……」
「……」
「……」
アタシ達は互いに頷いて、〇を書いてから。
横に注釈を書き記すのだった。
活動調査記録
流しソーメン部 〇(野球)
。本日の向き合いポイント
心にささやかな競争心が芽生えた!
まだまだ成長途中!
。次回予告
奥手切は奏でたい。
ありがとうございます!
今月も投稿できました、わーい!
コメディ色が強くなってきましたが大丈夫でしょうか。
少し心配です笑
元々前作である『レティセンスガールズ』では変わった部活動の変わった部員達を優しい人達として描いてきたので、そういう面を新生レティセンスガールズの視点でも紡いでいけれたらなって思っております。
最近書くスピードが少し早くなってきました。
なので今回もちょっと長めだったりします笑
自作『枯れた世界で未来を紡ぐオートマタ』が良い感じに面白くなってきましたので、その流れに引き上げられている感もありますね!
相乗効果でしょうか。
高め合って行きたいですね!
ではまた来月も御願い致します><




