8話 調教師の世界も厳しい
千早 → 千歳、早来にある牧場… この物語はフィクションですw
「ところで、この馬の買い手と入厩先はもう決まっているのですか?」
「まだ入厩先は決まってませんけど、ヒメは、ああヒメとは、この馬のことですけど、ヒメはオーナーの庭野さんが自分の持ち馬として走らせる予定です」
そういえば、ワイの入厩先とか、まだワイも耳にしてなかったな。
入厩先が中央なのか? それとも地方なのか? それすらも分からんしな。
それで、このオッチャンは、中央と地方どっちの調教師なんだろう?
「そういえばさっき、オーナーブリーダーとか仰ってましたし、テニスの女王様が日高さんの牧場を買い取ったのでしたか」
「借金で首が回らなくなって、廃業寸前の所に救いの手を差し伸べてくれたのが、庭野さんでした」
「零細牧場はどこも大変ですからね……」
零細牧場でも堅実経営な牧場もあると思うで?
まあ、そんな優等生の零細牧場は、極少数だとは思うけどな。
「ええ、それで、先生がこの馬の入厩先をお聞きになるということは、先生が育てて走らせてみたいということでしょうか?」
「身体は小さいですけど、そこそこ走りそうですから、入厩先が決まってないのでしたら、お願いしたいですね」
「それでしたら、預託先の第一候補が見つかったと、そう先生のことをオーナーに伝えておきます」
「頼みました」
どうやら、ワイの入厩先が決まったみたいやな。
というか、このオッチャンは中央と地方どっちの調教師なのか、まだ判別してませんやん。
まあ、ワイからすれば、中央で一流の強豪馬を相手にひいこらひいこらするよりも、地方の二流馬を相手にして走った方が楽できそうで、気も楽なんやけどな!
地方でも南関東の賞金はそこそこ以上に高いレベルだし、ダート交流重賞を勝つのは厳しいとしても、南関東限定の重賞であるSシリーズであれば、頑張ればワイでもなんとか勝てそうな気がするしな。
SⅠの東京ダービーなんて、優勝賞金が6000万でっせ! 中央の重賞であるGⅢよりもかなり高額な賞金で、GⅡと同じぐらいの賞金なのに、中央の馬は出走できないという素晴らしさ!
もうね、ワイの入厩先は地方競馬でもいい気がしてきたわ。
ワイは血統的にも、芝だけでなくダートも走れそうな血統をしているのだから、潰しの効きそうな配合に感謝やね。
「しかし、千早の馬に比べると、どうしても見劣りしますよ?」
「千早グループ一強の時代ですからね。彼らに逆らったら千早系の素質がある馬を入厩させることは出来ません」
「だから、先生は小さな牧場を回って素質のありそうな馬を探していると?」
「千早グループさんもボクの所に何頭かは預けてくれてますけど、正直に言わせてもらえれば、精々が一流半といった感じの馬が大半なんですよ」
それって、オッチャンの調教師の腕も一流半なのだと、そう馬主に受け止められているから、預けられる馬も一流半までになってしまっているのでは?
というか話の流れ的には、どうやらこのオッチャンは中央の調教師みたいやな。
地方で楽をするというプランは、ものの一分でご臨終になってしまったとは。
世の中、そんなに甘い話は転がってないということでしたか。
「そうでしたか、世知辛いですね。そういえば、大手の牧場の生産馬は、外厩で調教して仕上げるのが流行ってますよね」
「大手の牧場は、自分のところの設備とホースマンに自信を持っているということなのでしょう」
それって逆説的に言えば、大手の牧場が調教師の腕を信用しきれてないとも取れるわけでして。
「我々零細牧場からすれば、大手の立派な設備の整っている育成牧場というのは、垂涎の的で羨ましい限りです」
「下手しなくても、彼らにはトレセンに無い設備すらありますからね。まあ、我々にもメリットがあるので、お互いに持ちつ持たれつではあるのですが」
「メリットですか?」
「ええ、厩舎の経営を安定させるには、数多くの馬を出走させる必要があります。そのためには、馬房の回転率を上げる必要がありますので、必然的にレースの一週前までは、外厩に頼らざるを得なくなるという寸法ですね」
へぇ~、いまの競馬界はそんな風になっていたのね。全然知らなかったよ。
「なるほど。経営者の視点が求められるのだから、調教師の世界も厳しいのですね」
「昔の調教師に比べて現在の調教師というのは、外厩のおかげで馬一頭一頭に掛ける手間も時間も少なくなって、単なるレースへの出走代行屋みたいなモノですよ」
「それはなんと言えばいいのか、ご愁傷様としか言いようがありません」
出走するレースを決めるのもさること、鞍上の騎手の選定にまで、事細かく口を挟んでくる馬主が増えたということなのかな?
昔に比べたら、調教師と馬主の力関係が逆転したということなのかも知れんね。
まあ、馬主からすれば、勝てそうなレースに勝てる一流の騎手を乗せて、少しでも勝てる確率を上げてからレースに臨みたいだけなのだと思うけど。
だからこそ、事細かく口を挟んでくるようになったのだろうなぁ。
でも、大レースに勝ちたいとか、一つでも上の着順に入って賞金を稼ぎたいという、その馬主の気持ちは理解できるしね。
「しかし、彼らのおかげで日本の馬が海外でも通用するほど強くなったのも、また紛れもない事実なんですよ」
「それは確かに、先生がおっしゃる通りですね」
「まあこれも、時代の流れなのかも知れません」
オッチャンの背中から哀愁が漂ってきちゃったよ。
はぁ~、仕方ない、慰めてあげるか。
ワイはこれでも元人間やから、オッチャンの気持ちは、よ~分かるで。
「ぶるぅ」
カミカミ…… ハムハム……
「なんだ? ワシを慰めてくれるのか? よしよし可愛いヤツめ」
「この仔は人間の言葉を理解しているフシがあるんですよ」
「まさか? 賢い馬の中には人間の感情を読み取るのが上手い馬はいますけど」
「まあ、なんとなくなのですがね」
ちゃんと理解してまっせ。
美浦の中堅以下の厩舎には、馬房に空きがあるそうです…
あと、現在の東京ダービーの賞金は4200万ですけど、物語の中の賞金が6000万というのは、近未来のお話だからです。
まあ、10年後でも、そこまで上がってはなさそうですが、フィクションですのでw