5話 む? なんやなんや
サブタイを付けるのが一番悩むという…
ダウンザライン!と おおそといっき!って両方とも外をストレートでドーンだから似ているよね?(白目
北海道 日高門別町 日高ニワノファーム
「オーナー、ようこそいらっしゃいました」
「環希さん、こんにちは!」
「日高さん、おひさしぶりです。皐月ちゃんは相変わらず元気だね」
「えへへ、あたしは元気だけが取り柄ですから。環希さんも赤ちゃん生まれたんですね。おめでとうございます!」
「わかばって名前の女の子だよ」
「わかばちゃん! 可愛らしい名前ですね!」
「ありがとう。それで、ヨーコの仔が生まれたとか?」
「はい、栃栗毛で四白流星の可愛い女の子ですよ」
「ほー、四白流星とか走りそうな感じがするね」
「見た目も気品があるような、良い雰囲気を感じさせますよ」
「それは楽しみです」
「ご案内しますので、ぜひ見てやってください」
※※※※※※
む? なんやなんや、人間どもがゾロゾロとやってきおってからに。
ここは、ワイと母ちゃんの縄張りなんやで。
ん? おー、アレはテニスの庭野環希やん。
本当にこの牧場のオーナーやったんやな。
庭野選手、ニワカだけど貴女のファンです。だから、サイン下さい。
「あの栗毛の母馬がヨーコで、その隣りにいるのが先月に生まれた仔馬です」
「栃栗毛というと、ファニーウォーの母父のトップロードのそのまた父である、サッカーボーイの先祖返りなのかな?」
「その可能性はありますね」
そういえば、栃栗毛の発生メカニズムって謎だよな。
「わかばー、ほらーお馬さんが一杯だよー」
そんなに一杯の馬はいないけどな。
「あぅ、きゃっきゃっ」
「ヒン(わかばちゃん、よろしゅーたのんま)」
ワイも生後一か月程度の赤ん坊みたいなものやから、この赤ちゃんとは仲良くしたろか。
というか、庭野がベビーカーを押しているということは、庭野環希の娘ということなのか?
だけど、ワイの生前に、庭野環希が結婚したとか引退したとかいう、そんなニュースを聞いた記憶はないぞ?
庭野みたいなビッグネームの話題ならば、ニュースになるのが普通だもんな。
もしかして、ワイが転生するまでにタイムラグがあったということなのか?
どうやら、それが正解のような気がするな。
ワイが死んだのが五月の最後で、生まれ変わったのが四月っぽかったもんな。
まあ、どうでもいいことだったか。
「ノーザンダンサーの5×5と、ブラッシンググルームの5×5が入ってるから、ほんの少しだけ心配していたんだけど、見た感じでは元気そうだね」
「はい、繋ぎの形も理想的ですし、蹄も丈夫で身体のバランスも良さそうです」
ほうほう、それを聞いて一安心したよ。まあ、神さまのチートか加護のおかげなのかも知れないけど。
「それを聞いて一安心といったところですね」
庭野環希と被った。ということは、彼女もワイのことを気に掛けてくれているということみたいだな。
まあ、この牧場のオーナーだし、当然といえば当然のことなのかも知れない。
「ヒメは健康で丈夫そうな身体をしていますので、このまま順調にいけば、そこそこ以上の活躍はしてくれる気がします」
「それは、二年後が楽しみですね。それはそうと、ヒメ?」
ワイのことでっせ。
「牧場で付けた、この仔馬の幼名です。お姫様みたいに気品があるので、ピンときて娘の皐月が命名しました」
「なるほど。つまり君は、この牧場のお姫さまというわけだ。ヒメ、よろしくね」
「ヒン」
こちらこそ、よろしゅーたのんます。どうか、肉にだけはしないでください。
「ちなみに、この牧場の女王は、オーナーであるこの私だぞ、ヒメ?」
「ヒン?」
へいへい、わかってますがな。オーナー様には逆らいませんとも。日高牧場のお買い上げありがとうございました。
でも、本当に女王様だしね。まあ、テニスのなんだけどさ。
というか、普通の馬だったら、そんなこと言われても馬耳東風か馬の耳に念仏ですがな。
それに、馬と張り合ってナニを言ってるんでしょうかね、この人は?
馬に話し掛けて、自分がボスだと主張するだなんて、さすがは芸人枠のテニス選手なだけはある。コメディアン庭野環希の面目躍如だな!
「たまちゃん、馬に言っても理解してないと思うよ?」
「ひなちゃん、誰が上位者なのかを分からせるには、最初が肝心なんだよ」
「確かに馬に一度舐められた人間は、下に見られたままのような気もしますね」
ワイは世話をしてくれる人間に対しては、ちゃんと従順な振りをしときまっせ。
それにしても、馬の世界にもヒエラルキーというのが、ちゃんとあるんだな。
ワイも他の馬に舐められないように気を付けねば。
畜生なんかには負けへん。
「そういえば、麻生さんは乗馬をやっているんだっけ?」
「ええ、乗馬用の愛馬を一頭所有していましたよ」
自分で馬を所有していたとは、それは何気に凄くね?
「その経験則ってことなのね。でも、過去形なの?」
「環希ちゃんに付く前の、十数年も昔のことですので」
「ブルジョアめ。これだから本物の金持ちは」
いや、オーナーも十分に金持ちだと思いまっせ。
庭野環希の資産って、最低でも数百億の規模はありそうだもんなぁ。
「今の貴女は、私よりも資産が多いですよ」
「それはそうと、幼名はヒメだけど、競走馬として登録する馬名も考えないとね」
「それは、まだ少し早くないですか?」
庭野環希はせっかちなんやな。まあ、ワイの名前になるんやから、ワイも気にならないと言えば、それは嘘になるけれども。
「麻生さん、こういうのはインスピレーションというか、タイミングが大事なんだよ」
「まあ、それはそうかも知れませんが」
「よし、馬名の後ろには、皐月ちゃん命名のヒメかプリンセスを入れよう」
「環希さん、いいんですか?」
○○○○ヒメや○○○○プリンセス?
ダサくはないと思うけど、うーん…… どうなんだろ?
どうやら、ワイに命名のセンスはなさそうやな。
「皐月ちゃんがヒメと付けてくれたから、ティンときたからね」
「ありがとうございます!」
「たまちゃん、クイーンは使わないの?」
おおっ! クイーンの方が似合っていると、ワイもそう思うぞ。
「ひなちゃんには、この子がGⅠを何勝もするような、そんなクイーンに成るような風格があるように見える?」
庭野って存外に失礼なヤツだな。
「栗毛で可愛いし、気品もある感じはするけどなぁ」
「クイーンを付けるならば、もっと確実に勝てそうな馬にクイーンの名を付けるよ」
ひなちゃんとやらは、オーナーのクソとは違って物事の本質を見極める目があるな!
「裏返せば、ヒメは確実ではないってことなの?」
「90年代の半ば頃までに、その時代にヒメが生まれていたのならば、GⅠを勝てる器だと自信を持って言い切れる血統だったんだけどね」
90年代の半ばだったら、ワイの先祖にあたるトップガンもジャンポケもトップロードもまだ走ってない時代ですやん。
いや、トップガンはギリギリ走っていたのか? でも、ジャンポケとトップロードはまだ生まれてすらなかったはずだ。
つまり、たらればのおとぎ話ということだな。
「それって、ヒメが時代遅れの血統ということ?」
「現在の主流からは外れている血統なのは確かだよ」
「そうだったんだ」
まあ、ワイの血統がこの時代では零細血統というのは、まぎれもない事実なので否定できないわな。
「でもね? サラブレッドというのは、その非主流派に属する系統の血がいつかは絶対に必要になる時が来るのよ」
「血の偏りと血の飽和というやつですね」
血の偏りと血の飽和か……
サンデーやトニービンにブライアンズタイムが猛威を振るう前は、ノーザンテーストやパーソロンにテスコボーイとかの産駒が、ブイブイいわしていた時代だったもんなぁ。
過去に主流派だった血脈というのは、血が飽和しすぎるとそのうち活力を失ってしまい、新興の血が活躍し始めると、非主流派に追いやられてしまうってことだな。
つまり、サラブレッドの歴史というのは、血の淘汰の歴史でもあるのだ。
「さすがは麻生さん、正解だね」
「現在でも、サンデーサイレンスにディープインパクトやキングカメハメハの血が入った馬が多すぎて、既にかなり危険な水準だと思います」
「それらの血が入ってない馬を探すのが逆に苦労するぐらいだと思うよ」
現在主流派で多数を占めている、サンデー系やキンカメ系というのも時代の流れで、そのうち新興勢力に下剋上されて非主流派に転落する可能性が高いのである。
まあだからこそ、ワイの母ちゃんみたいな零細血統が生かされているのだろうね。
つまり、ワイにも復権のチャンスがあると言えるわけなのである。
「へー、そうなんだ」
「まあ、良血馬と良血馬を種付けしたところで、駄馬が生まれる確率も高いけどね」
あー、それは分かるわ。でも、アベレージが高いのは、やっぱ良血馬を種付けする方が高いと思うぞ。
種付け料という、結構いい加減だけど一応のバロメーターはあるわけだし。
「馬産って、ハイリスクローリターンなんだ」
「そうだね。ぶっちゃけて言えば、この子の血統って現代では、とても良血馬とは言えない血統なんだよね」
庭野って本当に失礼なヤツだな。まあ、ワイも自分を良血馬とは思わんがな!
「デュークオブヨーコにファニーウォーを付けるのを決めた、貴女がそれを言いますか」
麻生さんとやら、いいぞ! もっと言ったれ!
というか、ワイの種を決めたの庭野環希だったんや。
まあ、配合を決める権利はオーナーの権利だから、当然だったか。
「この子には、次世代以降に期待しているからね」
「この馬の場合、繁殖に上がった時に種付けする種牡馬を選ぶのに苦労しないのが、最大のメリットですよね」
つまり、逆ハーレム状態ということでっか?
なんだろう、ちっとも心躍らないし嬉しくもないのだけど?
「まあ、ヒメが走ってくれれば、それに越したことはないけど、走れば儲けものっていうのが、半分本音ではあるかな?」
「環希さん、じゃあもう半分は?」
「もしかしたら、化けるかも知れないと期待しているよ」
「ヒメは走る可能性があるんですね!」
うむ、サツキの心配は無用だと思うぞ。
神さま謹製の一億八千万円分のチートがあるはずだから、期待してもいいでっせ!
たぶん、おそらく、きっと、めいびー。
「そうでなければ、ファニーウォーなんて付けないで、安直にサンデー系かキンカメ系を付けているよ」
最後に良いこと言って締めくくったつもりか?
ワイがそんなエサに釣られるとでも?
釣られたクマー!
うん、先ほどの無礼な言葉は、許す!
そういえば、サツキのオヤジさん途中から空気やったな。
空気だけに、空気を読んだってことなのか?
おかしい、馬名を決定するまで行かなかったよ…
会話文を書いていると、なぜだか勝手に会話ががどんどん増えて行くんだよなぁ。