56話 GⅠ ヴェルメイユ賞 その2
フランス ロンシャン競馬場 晴れ 良
GⅠ ヴェルメイユ賞 3歳以上牝馬限定 芝2400メートル
ふむふむ…… なるほどね。ロンシャン競馬場の馬場もエーグル調教場の芝と似たり寄ったりといった感じで安心したわ。
これが、府中と札幌ぐらい馬場が違っていたら、さすがのワイでも戸惑ってしまっただろうけど、そんなことはなかった。
「ムッシュ、ポール」
「ハイ、ナンデショウカ?」
「じゅとぅるれぃ!(任せました)」
「? オー、je te le laisseネ! ウィ! ガンバリマス!」
どうやら、田中さんの拙いフランス語でもポールには通じたみたいだな。
田中さんが何を言ったのか意味までは分からないけど、ニュアンスから察するにおそらくは、後は頼んだとか後は任せたとか、そういった意味のフランス語を言ったのだろうね。
理解したポールも嬉しそうに答えていたから、外国人である田中さんがカタコトでも自分の母国語を喋ってくれたのが嬉しかったのだろうね。
「ヒメ、今日は絶対に一着とまでは言わないけど、凱旋門賞に繋がる競馬をしておいでよ!」
「ひん!」
銭ゲバで守銭奴でもある田中さんから、勝ってこいという激励という名の命令がないということは、オーナーの庭野だけじゃなくて厩舎サイドも、あくまでも今日のレースは勝ちに拘らない前哨戦、ステップレースという位置付けなんやね。
でもまあ、そんなに苦労しないで一着になれそうな感じであれば、優勝を狙っていきましょーかね? 無理をしない範囲内でだけれども。
『ヴェルメイユ賞の発走の時刻が近づいてまいりました。先程のフォワ賞でスカイファントムは二着と好走しました。
ミストラルプリンセスにはスカイファントム以上の結果を残してもらい、胸を張って堂々と凱旋門賞に挑んでもらいたいところです。
そして、今日のミストラルプリンセスの鞍上は、騎乗停止中の牧村美雪に代わって、地元フランスのポール・ルフェーヴルが手綱を取ります。
この乗り換わりが、はたしてどうレースに影響するのか? 注目してみることにいたしましょう。
……各馬のゲート入りは順調のようです。ミストラルプリンセスもすんなりとゲートに収まりました。
最後に、リズローズがゲートに収まりまして……
凱旋門賞へと向かう試金石の一戦となりますヴェルメイユ賞、いまスタートを切りました!
ミストラルプリンセスはあまり良いスタートではありません。どうやら、後方からの競馬になりそうです。
他の馬もややバラついた感じのスタートとなりました!』
「Oups」
ウッってなんやねん。
【凱旋門賞】ヴェルメイユ賞&フォワ賞&ニエル賞その2【前哨戦】
106 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
(ノ∀`)アチャー
107 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
ミスプリは後方からの競馬か
108 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
名手ルフェーヴルでもミスプリは出遅れるのかw
109 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
やはり宝塚記念の好スタートはまぐれだったんだなw
110 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
まあルフェーヴルとはいってもテン乗りだから仕方ない面はあるよ
111 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
この程度のスタートならミスプリ的には問題ないでしょ
112 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
ミスプリのスタートが悪いのはデフォだからなw
113 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
大きな出遅れをしなかっただけでもマシだと思っておこう
もっそりとスタートして、ワイの基本的な定位置である馬群の後方に陣取ったまでは良かったのだけど……
う~ん…… なんかペースが遅くないかい?
『各馬が位置取りを済ませて隊列も整いました。コースが交わる地点を斜めに横断して、ここから高低差が10メートルもある上り坂へと徐々に入っていきます。
先頭はコンコルディアプラッツ、2馬身離れてリズローズと続きまして……
……無敗の欧州最強3歳牝馬ルルドはここにいました。さらにその後方には……
……ミストラルプリンセスはこの位置にいました。ミストラルプリンセスは後方から二番手を追走しています』
これって、やっぱ完全にスローペースだよなぁ。マジかよ。欧州の中長距離のレースって、こんなにもスローな流れになるのかよ。これは知らんかったわ。
でも、このかなりキツい上り坂があるから、お馬さんのスタミナを考えて前半はスローペースになりやすいのだろうな。
なるほどね。ぶっつけ本番で凱旋門賞に出走しなかった理由が、なんとなく分かったような気がするわ。
それと、過去の凱旋門賞で日本馬が好走まではできても勝てなかった理由もね。
そう、調教じゃなくてレースで坂の高低差が10メートルもあるコースなど、日本の競馬場には一つも存在しないのである。
いくら、日本馬がトレセンの坂路で鍛えているとはいっても、それはあくまでも調教であってレース本番ではないのだ。
それに、坂路を上り切ったら走り終わるトレセンの調教とは違って、このロンシャン競馬場のコースは、坂を上り終わってからも、ゴールまで後1400メートルぐらい残っているのが、日本馬にとっては未知の領域になるのだろうね。
慣れない深い芝と長くて高い坂でスタミナを消耗しているのに、残り1400メートルもほぼ全力で走るだなんて、これは普通の日本馬にとってはキツいですわ。
『1000メートルの通過が66秒前後と、ややゆったりとした流れでレースの前半が進んでいます。しかし、ここから下り坂でスピードも徐々に上がって行きます。
残り1200を通過。ミストラルプリンセスは相変わらず後方から二番手を追走しています。はたして、ここからどういった競馬を見せてくれるのでしょうか?』
この下り坂もスピードを出し過ぎないように注意して走らないとね。
いまここでスピードを出して余分に脚を使ってしまったら、最後の直線で末脚が鈍くなりそうだもんな。
131 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
ルルドを見ながら競馬ができる位置にいるのは好材料だな
132 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
ロンシャンの2400って差し追い込みが有利なイメージがあるよね
133 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
ディープもオルフェも早仕掛けで後ろから差されたからなあ
134 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
末脚が鬼なミスプリにはロンシャンの最後の直線は合っているということだな
135 名前:名無しさん@競馬実況板[sage]
どこでミスプリが仕掛けるのかルフェーヴルの手綱さばきが見物だな
『偽りの直線フォルスストレートに入りまして、残り800を通過!』
なるほどね。このロンシャンのコース形態では、日本馬だと4コーナーを回って最後の直線に入ったと、そら、お馬さんも勘違いするわな。
4コーナーを回って直線が見えたら頑張って走る。インプリンティングというのか、レースで何回も最後の直線は全力で走るように躾けられているから、そういうふうに身体で覚えてしまっているんよ。
日本でも長距離のレースで、正面スタンド前を二回通過するレースの場合には、一周目のゴール板を通過した後に、馬がゴールしたと勘違いしてスピードを緩めるお馬さんも偶にいたりするからね。
まあ、そんな自分からレースが終わったと勝手に判断して走るのを止める馬というのは、賢い馬に限るとは思うけど。
もしくは、ずる賢い、横着なお馬さんと言えるのかも知れないけど。
ワイ?
ワイは超真面目で、鞍上の言うこともちゃんと聞く素直なお馬さんということで、厩舎関係者からの評判もええんやで。
ワイの担当である田中さんを困らしたりすることもないしな。
「encore… pas encoreダヨ」
あんかー? ぱーぞんかー? 日本語でおk。
ワイは元人間とはいっても日本人だったんやから、フランス語は分からないんやで。
でもまあ、ポールが言いたいことはニュアンス的に、「仕掛けるのはまだ先だよ」とか、そんな感じのコトを言ったんだろうなぁ。
いま走っている場所は最後の直線じゃなくて、偽りの直線とか呼ばれているフォルスストレートなんだから、状況を考えたらワイの翻訳も、あながち間違いではないと思うで。




