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おまけ 田中さんとテキの茶飲み話

三人称に挑戦してみた。


ウイポ9 スピードS+ 精神Sで13戦13勝の国内ダート最強馬でもサウジとドバイで負けた…(´;ω;`)

難易度アルティメットは厳しかった>< エキスパートに下げて遊ぼうw


 美浦トレーニングセンター



「宝塚記念か…… はぁ~」



 そう呟いて、この厩舎の主である調教師の藤枝は、紫煙と一緒にため息を吐き出した。

 プレッシャーに晒され続け緊張を強いられる職業である、競馬サークルの人間の喫煙率は世間一般比べても高い。


 よって厩舎には、【馬房内は絶対に禁煙! 火気厳禁!】こういった張り紙がしてあるのであった。



「テキ、コーヒーを淹れましたので、どうぞ」


「ん? ああ、ありがたく頂くよ。田中が淹れてくれるコーヒーは美味いからな」



 藤枝は思案を中断して、女性厩務員の田中が差し出したコーヒーカップを手に取り、顔を綻ばせながらコーヒーを一口啜った。



「インスタントに淹れ方もなにもありませんよ」



 そう言って田中は肩をすくめるのであった。



「ワシが自分で入れるよりも美味いと感じるけどな」


「それでなんで、ため息なんか吐いていたのです?」



 田中は藤枝のお世辞を無視して雇用主に倣い、おもむろにポケットから煙草を取り出して口に咥えライターで火を点けながら、ため息の理由を訊ねたのである。



「ため息を吐くと幸せが逃げて行きますよ」



 藤枝の答えを待たずに茶化しながら、ふ~っと紫煙を吐き出した。

 こちらはメンソールの1mgなのだから、恐らくファッション感覚で申し訳程度の喫煙であろう。



「そうは言ってもな、ワシの中には宝塚記念なんて全く眼中になかったのだから、ため息の一つも吐きたくもなるんだよ」



 ギィっと鈍い音を響かせた年季の入ったパイプ椅子の背にもたれながら、藤枝は紫煙の先を辿って自厩舎の染みの付いた休憩所の天井を見上げた。



「クラシック路線を戦ってきた三歳のオープン馬は、最大目標であったオークスかダービーが終われば、秋まで休養させるのが常識ですからね」



 ああ、宝塚記念のことかと納得しながらも、田中は常識的な答えを返した。



「そういうことだ。オーナーからヒメを宝塚に出せるか聞かれた時には、数秒間は言葉の意味が理解できなくて、こっちから聞き直したぐらいだったぞ」



 それは常識の埒外からの一撃に対して、脳が瞬時に反応できなかったということである。

 もしくは、藤枝の脳が理解することを拒否したのかも知れない。



「オーナーにヒメの状態を問われて、レース後でもケロッとしている連闘でダービーに出走できるぐらいだと、そう答えたのが不味かったですかね?」


「いや、連闘でダービーに出走の冗談はともかくとして、ヒメが疲れを見せてないのは事実なんだし、馬主さんに嘘を吐くのはよくないから、田中の落ち度ではないから気にしなくても大丈夫だよ」



 藤枝は指に挟んだ煙草もろとも顔の前で手を振りながら、自厩舎の紅一点である厩務員を擁護するようにそう言った。

 まあ、騎手である牧村美雪を含めると、藤枝厩舎で働く女性は二人になるのではあるが。



「誠実さと信用が第一の商売ですからね」


「まあ、それだけでは良い馬は集まらんけど、それがなければもっと集まらんからな」



 ふーっと紫煙を吐き出し灰皿に煙草をギュっと押し付けてもみ消しながら、藤枝は己の過去を振り返るような素振りで自嘲気味に答えた。



「テキとしては、ヒメを宝塚記念に出走させるのに反対なのでしょうか?」


「オーナーの意向が第一であるのだから、宝塚記念に出走できるようにミストラルプリンセスを万全の態勢に持って行くのが、ワシらの仕事だ」



 その言葉には、藤枝の調教師としてプロとしての矜持が垣間見えた。



「ファン投票で10位以内に入って調子が良ければ出走するって、オーナーが明言しちゃいましたもんね」


「昨日の中間発表で6位だったか?」



 片眉を上げるようにして、確認のために田中に聞き返すのであった。



「6位ですね。大外一気でオークスの優勝を決めたパフォーマンスと庭野オーナーの言葉が効いてますね」


「どうしてこうなった? ファンも3歳馬の出走なんて殆ど期待してないのだから、例年であれば10位以内に入ることは稀だろう?」



 藤枝は机に肘をついた両手で頭を抱え込みながら、半ば呪詛のように呟く。

 その手には火の点けられていない、次の煙草が添えられている。



「ヒメが小さくて可愛らしいのに見た目に似合わず強いから、きっとそれで人気が出たのでしょうね」


「ああ、そうだろうさ。ヒメは可愛いのに強いから、日本人の判官びいきの性格にマッチしたんだろうなぁ」



 そう半ば諦観の表情で、藤枝は吐き捨てるように言葉を紡いだのであった。

 そこには、ミストラルプリンセスを宝塚記念に出走させるのは、甚だ不本意だという本音が見え隠れしていた。



「そういえば、ファンあってこその競馬だと、オーナーはこうも言ってましたよ」


「だから我々競馬関係者一同は、そのファンの期待や要望に出来るだけ応える義務があるということか」



 厩務員の田中がミストラルプリンセスのオーナーである庭野の言葉を代弁すると、打てば響くが如く藤枝が言葉の意味を読解してみせた。



「業種は違っても、オーナーはプロフェッショナルということですよ」


「伊達でテニスの女王様と呼ばれているわけではないのだな」



 同じプロフェッショナルとして相通ずるものがあるのか、藤枝は感心するように頷いて見せた。



「もしかしたら、テニスは競馬よりも観客が身近だから、我々よりも遥かにプロとしての意識が高いのかも知れませんね」


「競馬では馬と騎手が表で、我々は裏方だからな」



 競馬では調教師と厩務員はレースを走らない。当たり前のことである。

 だからこそ、裏方と表現したのであろう。



「ファンあってこその競馬か…… JRAのお偉いさんが聞いたら泣いて喜びそうなほど、ぐうの音も出ない正論で庭野オーナーは馬主の鑑だな」


「我々は競馬ファンが馬券を購入してくれるおかげで成り立っている職業ですからね」



 ファンあってこその競馬。藤枝はその言葉の一語一句を丁寧に噛み締めるように呟きを嚥下しながら消化し、自分が若かりし頃の初心を思い出して、ミストラルプリンセスのオーナーを褒め称えた。

 また、金にがめついと自分の担当馬から思われているであろう女性厩務員の田中は、守銭奴や銭ゲバのお手本どおりに、銭を落としてくれるファンを大切に思っているようであった。


 この二人の意識の差は、年齢による職業への慣れの差とも言えるのかも知れない。



「その宝塚記念ですけど、51kgで出走できるのは助かりますよね」


「オーナーもその軽量が有利だと思って出走を決めたようだな」


「ファンサービスの為だけで出走を決めた訳ではなくて、ちゃんと勝算も考えていたのですね」



 腕を組みながら、ふんふんと頷いている田中の頭の中では、きっと進上金の計算で算盤か電卓を叩いている最中なのであろう。

 手に持った煙草の灰が今にも落ちそうだ。



「相手次第だろうけど、最低でも掲示板には載ってくれるはずだと期待しているよ」


「運が良ければ、史上初の三歳牝馬による宝塚記念優勝もあり得るかも知れません」



 電卓を叩き終わって導き出された答えが、どうやらソレであったらしい。

 どうにも大雑把で希望的観測を大いに含んでいる答えのはずであるが、当の本人はいたって真面目である。



「運が良ければ、な。それよりも、宝塚記念に出走した後が問題なんだよなぁ」



 そう言って美味そうにコーヒーを啜りながら思案する藤枝の顔は、真剣味を帯びたプロの調教師の顔に戻っていた。



「秋以降ですか? ヒメがオークスを勝ったことによって、凱旋門賞の話はどうなったのでしょうか?」



 田中は以前にミストラルプリンセスが、凱旋門賞に登録していたことを思い出して問い掛けてみた。



「それも挑戦する方向で進めて欲しいそうだ」


「秋に欧州に渡るのに、宝塚記念にも出走させるのですか?」



 そんな無茶な。田中の顰めた眉からは、そんな言葉が読み取れるのだった。



「だからこうやって悩んでいるというわけだよ。さらに凱旋門賞にぶっつけ本番では不味かろうということで、使えるのであれば前哨戦として、ヴェルメイユ賞にも出走させるかも知れん」


「異国の地で中二週で2400の連続は、いくら回復力があるヒメであっても厳しくないですか?」



 自分の雇用主の言葉に眉を顰め続けている田中は、短く残り僅かになった煙草を灰皿に押し付けながら、常識的な考えで厳しいとの意見を述べる。



「ああ、キリキリと胃が痛くなりそうだよ」



 そう言った藤枝は、自分のお腹を擦る仕草をして見せた。



「それは何と言いますか、ご愁傷様です……」



 顰めていた田中の眉が瞬時に八の字に垂れ下がり、憐憫の情を覚えるとともに、自分はああは成りたくはないと思うのであった。



「田中も調教師になってみるか?」


「私は一厩務員で結構ですよ」



 藤枝の「おまえも調教師の苦労を味わえ」そんな感じで、胃痛仲間に引きずり込むような誘い水に対して、田中はフルフルと首を横に振って断固として拒否した。



「……強すぎる馬を預かるのも良し悪しだな」



 ミストラルプリンセスを預かってから、以前から気になっていた頭皮が更に薄くなってきてしまい、藤枝調教師の悩みが一つ増えてしまったのである。



「厩務員の立場からすれば、強い馬は進上金も稼いでくれますので大歓迎ですよ」


「田中は気楽でいいよなぁ。ワシの仕事と代わってくれ」



 その言葉を田中は聞こえない振りをして無視を決め込んで、コーヒーで口を潤してから二本目の煙草に火を点けた。

 厩務員には厩務員で、また違った苦労があるのだと言いたかった田中であった。


 隣の芝生は青く見えるのだよなぁ、と。


アカン、やっぱワイには三人称は堅苦しくて偉そうに聞こえて合わんかったわw

書いてても肩がこるねん… 書く時間もいつもの三倍は掛かったよ…

一人称や台本形式って書くの楽だったんだなと改めて思ったw


これ以上は本当に、続かないったら続かない! ワイはウイポ9を遊ぶんだい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「最終レースの常連でも構わないから、怪我をしないでちゃんと無事に牧場に帰ってくるんだぞ」なんて最初の頃は言っていたのにこのペースで走らせるなんて欲が出ちゃったのでしょうか?
[一言] テニスもこちらも続きが楽しみ過ぎて、夜と土日の昼しか寝られません!
[一言] 続き…キボンヌ。
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