2話 オヤジ最低だな!
数年後の馬事文化賞は、この作品で決まりだな!(錯乱
で、無事に転生したのはいいけど、これがまた何故なのかは知らないけど、俺は馬に生まれ変わってしまったんだよなぁ。
どうしてこうなった? 解せぬ。
馬に生ま(うま)れ変わったって、誰が上手いことを言ったつもりでいるんだって、やかましいわい!
「ヒィ~ン」
はぁ~、どうしてこうなった?
俺は公爵家の三男坊を希望したのに、なんで馬なんかに転生させられてしまったのだろうか?
これでは異世界転生ではなくて、異種族転生になってるよ!
これは最初に、サラブレッドとか言ってしまったのが不味かったのかも知れん。
たぶんそれで、神さまが早とちりして勘違いしてしまったのだろうなぁ。
それにしても、馬か。
けど、馬って経済動物なんだよなぁ。
つまり競走馬として、競馬場でレースを走って好成績を残せなければ、生き残るのが限りなく難しい生き物ということなのである。
レース中に骨折でもすれば、安楽死という名の薬殺処分が待っているのが、サラブレッドという生き物なのだ。
もっとも、レースにデビューすら出来ない馬も数多くいたりするのだから、競馬場で走っている馬というのは、まだ幸せな馬なのかも知れなかったよ。
だけど、レースで好成績を収めて、繁殖に上がれる馬というのは、ほんの一握りの競走馬に限られているという厳しい世界が、サラブレッドの現実なんだよね。
まあ、サラブレッドは経済動物なのだから、その現実は仕方がないといえば仕方がないのかも知れないけどさ。
でもそれは、人間側の都合であって、お馬さん側の都合では断じてないってことが問題なんだよなぁ。
やあ! そこのみんなも一度、馬に転生してみる気はないかい?
どこまでも続く青い空に、広々とした放牧地。
瑞々しく生える牧草と、雄大な自然があなたが転生して来るのを心より待っていますので、そこのあなたも是非一度お試しになってみて下さい!
きっとモノの見え方と世界が変わること請け合いです。
馬に転生した経験者である、この私が語るのだから、間違いありません!
いまなら三食昼寝付きと、サービスも盛りだくさん!
さらに本格的な労働をするのは一年半以上は先という、労働を苦手とするニートのみなさんにも優しいハートフルな仕様となっております。
こんなチャンスは二度とありませんので、この機会を是非お見逃しなく!
あ、ちなみに、クーリングオフは効きませんので、その点につきましては予めご了承ください。
長々と脳内妄想を垂れ流してしまった……
つまり、なにが言いたいのかというと……
処分されて肉には成りたくねえよぉぉぉ!!
それにしても、神さま。来世に持ち越せるといった約束の一億八千万は一体ドコにあるのでしょうかね?
むーん…… もしかしたら、一億八千万円分のチートな能力が、この身体にはもう既に備わっているのか?
レースで賞金を一億八千万稼ぐのか?
それとも、セリで一億八千万の値が付く?
そのチートな能力が何なのか? それは現時点で何かまでは分からないよなぁ。
まあ、この牧場を見れば、さすがにセリで一億八千万での落札はありえなさそうだな。
そんな高額な値段で取り引きされる馬というのは、種付け料が一千万や二千万とか高額な値段がする実績のある種牡馬が種付けされるのが普通なのだから。
つまり、この牧場の見てくれからして、そんな値段が高い種牡馬を種付けして、このワイが生まれたとはとても思えないのである。
それすなわち、生産規模の小さな零細牧場ということなのだろう。
まあ、この牧場も見た感じそんなにボロくはないのだけれどもね。
新築っぽい施設もあるのだけれど、肝心の馬が住むお家である厩舎が小さいんだよね。
たぶん、15頭ぐらいで満員御礼になる程度の大きさな気がする。
だから、おそらく肌馬は多くても、十頭程度しか繋養していないと思うぞ。
鳴き声を聞いた限りでは、ワイの母ちゃんを含めて九頭ってところかな?
そんな感じの厩舎が三棟あるのだけれど、肌馬+当歳馬用、一歳馬&秋に母離れさせた当歳馬用、休養馬&功労馬用って分けている感じになるのかな?
でも、この牧場にはパッと見た感じで、ちゃんとした調教をするコースもなさそうだし、一歳馬の育成をこの牧場でしているわけではなさそうだね。
まあ、零細牧場に坂路やらウッドチップやらニューポリトラックやらのコースがあったら、それはそれでビビるけどさ。
つまり、ここでの一歳馬の育成調教というのは、やったとしても精々が初期段階の馴致ぐらいまで、それしかやらないし、またそこまでしか出来ないような気がする。
もしかしたら、初期段階の馴致から育成専門のファームで調教を始めている可能性もあるしね。
中小の牧場や零細牧場の場合だったら、その可能性の方が高いのかも知れない。
馬が逸走じゃなくて話が逸れた。
そうやって色々と考えて行くと、セリで一億八千万という値段が付く良血馬と同等の能力を備えていると考えるのが妥当なのかも知れない。
うん、そう前向きに思わなければ、畜生なんてやってられまへん。
畜生に堕ちるのは、競馬関係者が優先的に堕ちるべきだと思うのですけど?
神さま、そこんとこどうなんでしょうかね?
主に廃用やら、オブラートに包んで用途変更という名の死刑宣告をする連中のことですな。
あ、ワイも馬券を買ってお布施をしていたのだから、競馬界に貢献していたという意味においては、畜生道に堕ちる罪はあったということなのかも知れんわ。
盛大なブーメランを食らった気分だよ……
※※※※※※
「お父さん、ほらあそこ! もうお乳を飲んでるよ!」
「これはまた、めんこい仔が生まれたなぁ。でも、ちょっと小さいかな?」
「小さいということは、メスかな?」
「多分そうだと思うけど、へその緒の処理をする時に確認してみるよ」
なんか周りで騒いでいるみたいだけど、男のワイに向かって、メスとは失礼な!
それと、この娘っ子は、さっき見たよ。
いかにも安っぽい女子中学生ってセーラー服を着ているから、中学生で正解なんだろうね。
馬子にも衣裳って感じがして、まだセーラー服を着こなせてなくて服に着せられている感があるから、この娘っ子は中学に入学したばかりの一年生かな?
まだ背も低いし、胸もちっぱいで残念な胸だから、たぶん中一で正解だな。
違ってたら、ビビる。
ワイが愛でるためにも、これからの成長に期待やな。
今世のワイは人間ではなく馬なのだから、ロリコンでもええんや。
ビバ畜生!
そうとでも思わなければ、畜生なんぞやっとられんわ。
それはそうと、ワイは腹が減ってるんや。
お母ちゃん、お乳くださいな。
「ブルルゥ(たんとお飲み)」
いま声を掛けてきたのが、今世での俺の母ちゃんです。
ええ、もちろん馬ですとも。
「栗毛で四白流星だなんて、見た感じ走りそうだね!」
ほうほう、ワイは栗毛で四白流星だったのか!
それに走りそうだなんて、照れるじゃありませんか。
娘っ子よ。君の相馬眼は素晴らしいではありませんか。
「栗毛にしては濃いから、たぶん栃栗毛だろうね。
どれどれ…… へその緒は切れてるけど、ちゃんと切ってバイ菌が入らないように消毒してから縛らないとな。
それとやっぱり、この仔はメスで正解だったね」
ぬ? メス? 凸凹の凹でしょうか? それとも、♂♀の♀の方でしょうかね?
まあ、現実逃避はほどほどにして、メスということはだな……
つまり、俺って牝馬だったのかよ!? 全然知らなかったよ。
まあ、まだ生まれてから三時間にも満たない短い時間だったから、自分の性別を自覚していなかっただけなんだけどさ。
といいますか、俺って人間の言葉をちゃんと理解できたんだな。一安心だよ。
まあ、俺も元は人間なのだから、理解できて当たり前といえば当たり前だったのかもしれないけど。
当然なのかも知れないけど、馬の言葉もちゃんと解りますよ。
さっき母ちゃんが、「たんとお飲み」そう言ってくれたのを理解できたしね。
「オスの方が良かった?」
「セリに出す場合はオスの方が高く売れるけど、この仔は肌馬としても期待しているから、皐月の心配は無用だよ」
娘っ子の名前は、サツキというのか。漢字で書くと皐月とか五月とかかな?
競馬関係者の子供だから、皐月が正解っぽいね。競馬には皐月賞があるのだし。
「そっか、環希さんがオーナーになって牧場を買い取ってくれたから、もうセリに出す必要はなかったんだね」
てっきり、このオッサンが牧場主かと思ってしまったけど、タマキさんって人がこの牧場のオーナーだったのね。
つまり、このオッサンは玉木さんか玉置さんってオーナーに牧場を買い取ってもらった、ここの元牧場主ってことなのかな?
それで、そのまま雇われ牧場長になったみたいだな。牧場主から牧場長に降級だなんて、馬産地を取り巻く厳しくて世知辛い現実が垣間見えてしまったよ。
それにしても、この場所って北海道は当然として、その北海道のドコらへんになるのだろうか?
海は見えないけど、風に乗って南の方から僅かながらも潮の香りが漂ってくるような気がするし、北や北東には日高山脈とおぼしき山々が連なっているのだから、日高地方のドコかだとは思うのだけど。
胆振の有名な馬産地だと内陸に入り過ぎているから、潮の香りは届かないはずだしね。それに、あそこら辺は北が空知平野だから山じゃなくて、空が広がって見えるんだよ。
それと、白老や伊達の可能性もないな。白老はもう少し発展していて家とかも多いし、伊達だったら有珠山が特徴的だから、ワイでも直ぐに分かるからな。
まあ、この場所は静内か新冠か門別のドコかで、たぶん正解のはずだろうね。
「セリで主取の心配をしなくても済むということが、こんなにも心が楽になるだなんて思いもしなかったよ」
「それ、あたし解るなぁ。あたしが小学生だった頃のお父さんって、いつも眉間に皺を寄せていて、一言目にはお金がないってボヤいてたし」
零細牧場の悲愴が見てとれて、涙を誘うではありませんか……
「そうだったか?」
「そうだったんですよ。オマケにあたしが貯めていたお年玉も知らない間に無くなってたしさ」
娘のお年玉にまで手を出すだなんて、オヤジ最低だな!
環希…さん? いったい誰なんだろう?(棒
競馬界の闇は深い… でも、馬は経済動物だから仕方ない面もある気がする。
全ての馬を救えとか、それこそ傲慢な気がするしね…
けど、お金持ちの人や団体はもう少しだけ、お馬さんに手を差し伸べてあげてもいいと思うの。