27話 JpnⅠ 全日本2歳優駿 その2
川崎競馬 晴れ 良
ダート交流重賞 JpnⅠ 全日本2歳優駿 2歳 ダート1600メートル
『……4コーナーポケット奥からの発走となります。最後に大井所属のサンジャマツリがゲートに収まります。係員が離れまして…… スタートしました! 各馬、綺麗に揃ったスタートです』
「よし、ヒメはもうゲートの心配はなさそうだね」
いや、最近はゲートも結構上手く出られているけど、スタートの心配だけは、たぶん競走生活が終わる最後までなくならないと思うぞ?
だって、考えてもみなよ? 位置についてよーい!とかの合図もなく、いきなりゲートがガシャンって開くんだよ?
そんな場面に遭遇すれば、馬じゃなくて人間だって普通は、ビックリするでしょ?
だから、自分が思っているのと、ワンテンポでもゲートが開くタイミングが違うとスタートも狂うんよ。
これは、ワイが元人間というのが逆に仇になっているような気がするなぁ。
まあ、そのうち慣れるのかも知れないけどさ。
スタートでフライングさせないようにとか、レースの公平さを鑑みてゲートというモノが考案されたのだとは思うけど、これって人間側の都合だけだよなぁ。
ワイの母ちゃんであるヨーコさんも、枠入り嫌やったとか愚痴っていたけど、ゲートに入れられるお馬さんの都合は、まったくもって斟酌されていないのである。
でも、しょせん馬は畜生で経済動物だし、人間に飼われている立場なのだから、人間の都合が優先されるのは仕方ないのだけどね。
『各馬、正面スタンド前の直線を通過して行きます。ハナを奪ったのは、船橋所属のボーソートッキュウ。果敢に逃げを打ちます』
ボーソートッキュウなだけに、暴走しているってか?
でも、あの馬は千葉の船橋所属やし、房総特急が正解なのかも知れんけど。
『中央から参戦の、人気のミストラルプリンセスは後方からの競馬になりました。
先頭が1コーナーのカーブを回って、2コーナーから向こう正面のバックストレッチへと向かいます』
「川崎は三回目だけど、やっぱコーナーがキツいなぁ」
そやね。なんちゅーカーブのキツいコーナーなんや。
ワイでもそう思うんやから、大型馬や手前を変えるのが不器用な馬がコーナーリングに苦労するのも頷ける話やな。
コーナーでスピードが出せないから、おのずとトップスピードで走れる距離も短くなるのだから、そりゃ川崎競馬場の勝ち時計はどうしても遅めになりますわな。
というか、ミユキは過去に川崎競馬場で乗ったことがあったのね。
女性騎手招待競走や見習い騎手招待競走とかで騎乗したんかな?
それか、中央の未勝利クラスか一勝クラスと、地方のC級クラスの交流戦だったのかも知れんね。
『前半の800メートル通過は、49秒から50秒。まずまず平均ペースといった感じで流れています。人気のミストラルプリンセスは後方から二番手を追走しています』
マイル戦で前半の4ハロン50秒は遅いんとちゃうの?
でも、ダートの小回りならこんなモノなんかな?
『先頭は船橋所属のボーソートッキュウ! その名のとおり、まだ逃げています。向こう正面のバックストレッチから、3コーナーのカーブに差し掛かり、後続馬の鞍上の手も動き出します!』
「ヒメ、そろそろ動くよ」
「ひん」
カーブに入る前に、左手前に変えておきましょ。
「ヒメって左回りも川崎競馬場も初めてのはずなのに、コーナリングがスムーズだよね。手前も自分で変えてたし、器用で小回りが得意なのかな?」
いや、頑張って小回りに対応しただけなんやで。
ワイはどちらかというと、大きい競馬場で走るほうが好きだと思うぞ。
『4コーナーを回って最後の直線に入ります。先頭は逃げるボーソートッキュウ! パークアヴェニューが二番手、中央から参戦の二番人気パイナップルアーミーが三番手に上がった!』
パイナップルアーミーって手榴弾のことだっけ?
馬名の文字数が9文字から10文字とたった1文字増えるだけで、馬の名前にも色々とバリエーションが増えた感じがするね。
そういえば、パイナップルアーミーの前走は、園田の兵庫ジュニアグランプリで一着になっていたな。
つまり、ワイと同じくJpnⅡの勝ち馬で同格の相手やったか。
どうやらロックオンする相手は、パイナップルアーミーになりそうやね。
『人気のミストラルプリンセスはまだ後方、この位置から届くのか? 鞍上の牧村美雪、外に持ち出した!』
さて、今度は右手前に変えて、追い込みを掛けるとしますか。
「さあ、ヒメの実力を川崎の競馬ファンの前で見せつけてあげな!」
「ひん!」
がってん承知の助!
というか、ミユキって心臓に毛が生えていそうな感じやね。
仮にも、このレースは一応GⅠと同等なんよ?
アンタ、GⅠ初騎乗でっしゃろ?
『先頭は残り200を通過! ボーソートッキュウは一杯か? いや、まだ粘る! パイナップルアーミーが追いすがる! 後続馬も襲い掛かります!』
「よし、捉えた!」
ロックオンちゅーヤツやね。
『きたきたきたっ! ここで大外から一気にミストラルプリンセスが凄い末脚でやってきた!』
「ヒメ、一気にぶち抜くよ!」
あいあいさー。
『ミストラルプリンセス、他の馬とは完全に脚色が違う! グングンと先頭との差を縮めて行く!』
「ふはははは、みんな遅いぞー!」
ミユキって馬に乗っていると時々人格が変わるよね?
ハンドルを握ると人格が変わる、スピード狂みたいなモノなんかな?
『ミストラルプリンセスが他馬を一気にねじ伏せに掛かります!』
「墜ちろ、カトンボ!」
いや、それって最終的には、やられ役のセリフですやん。
オーナーといい田中さんといいミユキといい、ワイの周りには変人しかおらんみたいやね。
まさか、ミストラルとシロッコで地中海の風つながりとか言わないよな?
『ミストラルプリンセス最後の直線だけで、他馬を全部纏めて撫で切ったっ!』
「ふっ、たわいもない。JpnⅠとはいっても、所詮この程度か」
なんか、ミユキのキャラぶれてませんかね?
あーそっか、人格が変わっていたんだっけ……
『ミストラルプリンセスが大外から豪快に纏めて差し切って、さらに差を拡げたところでゴールイン! 勢いが完全に違いました!
勝ち時計の、1分39秒5は、レースレコードです! この馬は強い!
川崎の夜空にミストラルが吹き荒れました!』
「ヒメ、やったね! JpnⅠとはいえ、一応はGⅠ初勝利だよ!」
「ぶるるぅ」
まあ、ワイに掛かったらこんなもんお茶の子さいさいでっせ。
というか、ミユキもちゃんとGⅠと認識してたのね。
『ミストラルプリンセス、一番人気に応え見事な差し切り勝ちを収めました!
勝ち時計は、1分39秒5。ゴールまでの800メートル49秒8、600メートル37秒4の競馬でした。
お手持ちの勝ち馬投票券は確定までお捨てにならずに、暫くお待ちください』
※※※※※※
「美雪ちゃん、お疲れさまでした。ヒメを一着に持ってきてくれて、ありがとう」
「オーナー、こちらこそヒメに乗せていただき、ありがとうございました」
「ヒメもよく走ってくれたね。ご苦労さま」
「ひん」
「それにしても、美雪ちゃんはGⅠ初騎乗とは思えない堂々とした乗り方だったわね」
「そういえばそうでしたね。オーナーの出した条件をクリアする為にも、このレースで二着までに入って、ヒメをドバイに連れて行くことしか考えてなかったので、すっかり忘れてました」
「た、頼もしいわね」
どうせ、そんなトコだろうと思ったわ。
まあ、珍しくオーナーの引き攣った笑みが見れたので、それで良しとしますか。
※※※※※※
ミストラルプリンセス 競走成績
川崎競馬 晴れ 良
ダート交流重賞 JpnⅠ 全日本2歳優駿 2歳 ダート1600メートル
本賞金 5400万 1890万 1080万 540万 270万
54kg 牧村美雪 1人気 1着 1.39.5 R 3F35.9 4差 0.8 355kg +3
本賞金(収得賞金) 2700万円
総賞金(付加賞各種手当等除く) 5400万円
5戦 3勝 中央 3戦 1勝 地方 2戦 2勝
全 3. 2. 0. 0. 0. 0
芝 0. 2. 0. 0. 0. 0
ダ 3. 0. 0. 0. 0. 0
累計賞金額
本賞金(収得賞金) 5100万円
総賞金(付加賞各種手当等除く) 11040万円
主な勝鞍
JpnⅠ 全日本2歳優駿
JpnⅡ JBC2歳優駿
レース途中で掲示板入れたほうがいい?
まあ、書いてるその時の気分で、また挿入するとは思うけどw




