26話 JpnⅠ 全日本2歳優駿
川崎競馬 晴れ 良
ダート交流重賞 JpnⅠ 全日本2歳優駿 2歳 ダート1600メートル
本賞金 5400万 1890万 1080万 540万 270万
はい、というわけで、やって来ました、川崎競馬場!
それにしても、時間が掛かった……
美浦から川崎まで行くのに渋滞に巻き込まれて、二時間半以上、たぶん三時間近く掛かったねんで。
常磐道の三郷の手前までは、そこそこ順調に流れていたけど、その先からはほぼノロノロ運転やったわ。
まあ、美浦から川崎まで三時間未満であれば、許容範囲なのかも知れないけど。
首都圏を横断するのは、都心を抜けるのに時間が掛かり過ぎるのが、ボトルネックやね。
かといって、川崎に行く場合には、外環を利用するわけにもいかないのが、これまた難儀なところなんよ。
時間的に首都圏の移動は、電車のほうが圧倒的に有利な感じやな。
馬も電車に乗せてくれへんかな? まあ、常識的に考えて無理やろうね。
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『今日の川崎競馬場のメインレースは、1600メートルで行われる、ダート交流重賞競走、全日本2歳優駿、グレードはJpnⅠ。国際格付けは、リスデット競走になります』
リスデットやない、リステッドやで。
まあ、日本人は英語を自分の読みやすい言いやすいように誤変換しがちやから、間々あることやけどな。
それに、地方競馬で国際交流競走とかいわれても、外国馬の出走なんてないのだから、あまりピンとこないだろうし、しゃーないのかも知れんね。
輸送費と滞在費を主催者が負担してくれる招待競走でもなければ、わざわざ日本まで高い輸送費を払って来日するのも割に合わないから、外国馬の参戦は皆無なんだろうなぁ。
このレースの賞金の場合だと、外国馬の場合は三着に入ったとしても良くてトントンか、下手したら赤字っぽいもんね。
それだけ、お馬さんの航空輸送とスタッフの出張費というのはお金が掛かるんや。
それで、今日のワイの人気は、どんなもんかね?
ふむふむ、単勝オッズ2.3倍の一番人気とな?
これは、想像以上に付いているのか?
それとも前走と比べて、出走するメンバーも強化されているのだから、ワイの評価としては妥当なところで、こんなもんなのかな?
今日のワイの馬体重は、前走からプラス3kgの355kg。
中央と違って地方競馬は、1kg単位まで検量してくれるんやね。
そう考えてみると、中央競馬の2kg単位の表示というのは、結構アバウトということなんやな。
まあ、外国の競馬では、馬体重の計測すらしない主催者も多いみたいだけど。
「ヒメの実力であれば、普通に走ったら勝ち負けになるのだから、リラックスして気楽に走っておいで」
「ひん」
ワイの馬主さまは、おおらかやね。女王の風格というか貫録ってヤツ?
これが、金持ち分限者の余裕というヤツなのかも知れんね。
さすがに今日はサツキの姿は見えないか。その代わりサツキのオヤジの顔は見えるけどな。
あれかな? このレースは重賞でJpnⅠだから、ワイが優勝した場合には表彰式で生産者として、お立ち台に上がる必要があるから、わざわざ川崎まで来ているということなのかも知れんね。
まあ、重賞レースでも、相手関係を勘案して勝ち目が薄い場合は、わざわざ北海道の牧場から本州の競馬場には来ないと思うけどな。
昔に比べたら、生産者賞の賞金金額は、かなり減額されてしまってるから、往復の交通費に宿泊費とかの出費は、零細牧場にとって痛い出費の気がするしね。
千早グループの馬ばかりがGⅠや重賞を勝って、千早産の馬の値段も上がって儲かっているのだから、生産者賞を減らしても大丈夫ですよね?
とかいう、千早グループ対策の生産者賞減額のはずが、日高の零細牧場が生産した馬が運良く重賞を勝った場合に、貰える生産者賞金が雀の涙に減らされていたという、泣くに泣けない事態に陥っているんだよなぁ。
でも、日高の中小零細牧場は泣いてもいいんやで。
それと、零細牧場は馬の世話をする人手もギリギリの人数でやっていたりするから、遠くまで旅行なんか行けない気もするな。
まあ、日本ダービーや有馬記念とかの大レースの場合は、また違うのだろうけどね。
もしかしたら、気前のいい馬主の場合は、零細牧場の生産者を競馬場に招待してくれる馬主も中にはいるのかも知れないけど。
けど、普通は自腹が基本だわな。
まあ、サツキのオヤジの場合は、日高ニワノ牧場の出張経費なんだろうけどさ。
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「121万5千…… 121万5千……」
またなんか田中さんがブツブツと呟いとる。
「あー、はいはい。ヒメが一着になった場合に、田中さんが貰える進上金の数字ですよね?」
ミユキは270万やで。人間だった頃のワイの年収にほぼ匹敵する金額を優勝すれば一瞬で手に入れるだなんて、やっぱ騎手って儲かる職業なんやね。
まあ、重賞とかの大きなレースで勝てればなんやけど。
「これで、来年の車検時にEVの新車に買い替えることができるわ」
「田中さん…… 捕らぬ狸の皮算用って言葉、知ってますか?」
ミユキの田中さんに対する扱いが、ぞんざいになっててわろた。
『砂の二歳王者を決める、第…回、農林水産大臣賞典、全日本2歳優駿、JpnⅠ。
今年は中央からの参戦は4頭。迎え撃つ地方所属馬が10頭の計14頭による戦いになります。
出走メンバーの14頭が本場馬に入場してまいりました』
「ヒメ、新車じゃなくて、海外遠征の為にも、今日も一着だよ! 最低でも二着は確保しなよ!」
「ひーん」
EVの新車に買い替える妄想に憑りつかれて、鬼気迫る田中さんに、半ば脅されてしまった!
ワイの中で田中さんのイメージが、どんどん守銭奴か銭ゲバに変容して行く気がするんやけど、ワイの気のせいなんかな?
そんなにも、来年にサウジとUAEに行って稼ぎたいんか?
でも、走るんは田中さんじゃなくて、ワイなんやで?
これからは心の中で、銭ゲバ田中か守銭奴タナカと呼ぶことにしよう。
「美雪ちゃん、後は頼んだわよ!」
「わかりました。私も来年、ドバイに行きたいので最善を尽くします」
まあ、ミユキにとっては、このレースはサウジかドバイへの前哨戦なのだから、全日本2歳優駿というJpnⅠの大舞台での緊張からは、逆に解放されているみたいだから、これはこれで良かったのかも知れんね。
いくらこのレースが、JpnⅠとはいっても、国際的にみたら、国際Lにしか格付けされてないもんね。
だから、ミユキは緊張せずに、このレースをオープン特別程度の感覚で、気楽に乗ってくださいな。




