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1話 お金返して!


 競馬の祭典である日本ダービー当日、三連単の配当が3600万という超高額配当の万馬券を的中させたショックで、俺は心臓麻痺を起こして死んでしまったらしい。

 どうやら、小市民で貧乏人の俺にとって、一億八千万という金額は刺激が強すぎたみたいであった。


 つまり、人間には分相応というのがあるってことだね。

 俺には精々、三桁か四桁の栄一さんが限界だったのであろう。


 悪銭身に付かず。そこにすら、たどり着けなかったとは……


 それで気が付いたら、真っ白な空間にいた。

 神殿のようなところだけど、周囲は真っ白なんだよね。


 なに此処? 天国とかいうところなのか?

 それとも、生と死の間とかいうヤツなのか知れないな。



「おお、シュンペイよ。死んでしまうとは情けない!」



 大袈裟な身振り手振りで喋ってくる、少し頭の弱そうな天使の姿をした少女が目の前にいたというわけである。


 だから俺も相手に合わせて、軽いノリで言ってみることにした。



「俺の一億八千万、返して!」



 復活の呪文をお願いしようと思ってたのに、出てきた言葉はコレでした。



「一億八千万?」



 天使ちゃんが不思議そうに首をかしげているけど、そりゃあ相手からしてみれば、なんのこっちゃって思うわな。

 ちゃんと説明しなければ。報告連絡相談は、とっても大事ですし。



「そう、一億八千万の当たり馬券を手にしたと思ったら、刺激が強すぎて死んじゃったみたいでして……」


「ふむふむ…… なるほど…… そういうことであったか。お主も運が悪かったのぉ。同情するぞえ」



 天使ちゃんなのか神さまなのか知らないけど、さすがに人外の理にいる存在というのは、過去視みたいなこともできるんだな。

 もっとも、俺の記憶を読んだのかも知れないけど。



「ご理解していただけたようで、なによりです」



 というか、同情するなら俺のお金返して!



「だがしかし! 残念ながらも、その一億八千万円とやらは諦めるしかないのぉ」


「そ、そんなー! なんとかなりませんか?」



 やはり、そんなに都合よくは行くわけなかったか。

 世の中そんなに甘くはないということだね。



「すまんが、無理なモノは無理なのじゃ。第一、お主は死んだのじゃぞ?」



 ですよねー。それに死んだら、生前のお金なんて意味なさそうですもんね。

 だけど、諦めたらそこで試合終了とかって言葉もあることだし、足掻いてみせましょう。



「その一億八千万を来世に持ち越せるとかって出来ませんかね?」


「ふーむ、それならば可能といえば可能じゃな」



 ダメ元で言ってみたけど、本当にできるんだ!

 いやはや、言ってみるもんだね。



「じゃあ、それでお願いします!」


「希望はあるかえ? お主の生前の徳により多少の事ならば融通してしんぜよう」



 うん? そんなに善行を積んだ生き方をしてきたつもりはないけど、俺が死んで一億八千万を誰かにあげたということが徳なのだと思っておけばいいのかな?


 きっと俺の周りにいたオッサン連中の誰かが俺が手に持っていた馬券を拾ったんだろうなぁ。

 それか、馬券が拾われてなかったらJRAが未払い戻し金として内部処理をするのかも知れないけど。


 まあ、俺は既に死んだ身なのだから、もう俺には関係のないことだったか。

 オッサン連中かJRAにお布施したことが、きっと徳を積んだことなのだろうし。


 それよりも、希望を言うだけならタダみたいだし、これは小説とかでいうところの転生チートをもらえるってヤツなのかも知れないな。


 チートか……


 俺TUEEEでハーレムも捨てがたいけど、それって小市民である俺のガラじゃないよなぁ。

 やっぱここは、堅実な人生を選ぼう。ちょっと運が良くて楽ができるぐらい。その程度でも十分にチートの気がするしね。



「それじゃあ、転生するならイージーモードでお願いします」



 もう底辺を這いつくばって生きるのはノーセンキューだしね。



「イージーモードとな?」


「はい、血筋の良いサラブレッドのボンボンみたいなので。公爵家の三男坊とか楽が出来そうで良さげですよね」



 現代地球の下層民に転生だなんて、ごめんこうむるでござるよ!


 せっかく転生するなら、剣と魔法のファンタジー世界とかロマンあるよね。

 冒険者ギルドとかエルフに猫耳尻尾の獣人が語尾に"にゃん"とか胸熱な展開じゃん。


 うはー、みなぎってきた!



「ふむ、お主はあまり欲がないのだな。最近は最強やらチートをくれとか言う輩が多くて辟易していたのじゃ」



 やはり、俺TUEEEをしたい転生者が多かったのか……

 まあ、公爵家の三男坊もチートといえばチートだと思うけどさ。



「おお、ちょうど良さそうな器が空くところじゃったな。本来なら死産の予定のところに、お主の魂を送り込もう」


「それって大丈夫なんですか? 主に健康面とかで」



 死産予定だった赤ちゃんって、仮に無事に生まれてきたとしても、ひ弱そうなイメージがあるしね。

 自力では生きて産まれて来られないということは、生きる力が不足しているとも言えるわけでして。



「なに安心せい。こう見えても妾は神じゃぞ? こう、チチンプイプイとっな」


「うぉっ眩しっ!」



 そう天使みたいな神さまは言うが早いか杖を振り下ろした刹那、俺は光に包まれて意識を失った。



「お主の次の人生に幸あらんことを。って馬生が正解かのぉ」



 その神さまの言葉は、俺には届かなかった。






「主さま、あれで良かったのですか?」


「なにがじゃ?」


「当然ですけど、彼は人間に転生できると思っているはずですよ」


「そうなのか? 彼奴は自分でサラブレッドと言うておったではないかえ?」


「多分それは言葉の綾ですよ……」


「そうは言うてものぉ、もう既に転生させてしまったしのぉ。ま、彼奴には一億八千万円分の加護も付けてあるから大丈夫であろう」


「はぁ~、いっつも思っていましたけど、主さまって結構適当ですよね」


「そんなことないぞえ? 妾は優しいから彼奴が貰いそこなった一億八千万円分を才能として、余分に下駄を履かせてあげたのじゃぞ?」


「それはそうかも知れませんけど、やっぱ適当だと思いますよ」


「転生の間に来る魂が多すぎて、妾はオーバーワークなのじゃ!」






 ※※※※※※




 北海道のとある牧場




「お父さん、大変だよ!」


「皐月か、おかえり。そんなに慌ててどうしたんだい?」


「ただいまってそうじゃなくて、ヨーコが自然分娩でもう勝手に仔馬を産み落としちゃってるよ!」


「なんだって!? どこだ?」


「放牧地の桜の木がある方!」


「急ごう!」


「あたしも行く!」


今日は昼にもう一話投稿します。

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