18話 2歳未勝利戦 ダート1700 その2
2回 札幌競馬 7日目 1レース 曇り やや重
2歳未勝利 ダート1700メートル
『札幌競馬、本日最初の競走は、サラ系2歳の未勝利戦。出走馬12頭による、ダート1700メートルでの競走になります。誘導馬に先導されて、出走各馬が本馬場へと入場してまいりました』
ローカルの一般戦の本馬場入場曲である、グリーングラスマーチ、これは名曲にカウントしてもええね。
けど、やっぱ朝一番は、炎のウィナー!
これじゃなきゃ、一日の競馬が始まる気がしない!
『……54キロ。6番ミストラルプリンセス、馬体重は348キロ、前走からマイナス6キロ、鞍上は牧村美雪、50キロ……』
「ヒメ、よろしくね。今日こそは絶対に勝つよ!」
「ぶるるぅ!」
こちらこそ、よろしゅー。
三度目の正直というヤツに期待しましょ。
ローカルの本馬場入場曲はいい感じなのに、東と西の重賞より上の新曲はなんで、あんな野暮ったいというのかテンションが下がる、しみったれた感じになってしまったんだ?
全然、グローリィーでもヴィクトリーでもないですやん。日暮れとか夕暮れって感じしかしないんよね。
オケラ街道を船橋法典まで、トボトボと歩いて行くイメージしか湧かんわ。
皮肉にしか聞こえないところが、ある意味において凄いな。
そら、昔の名曲に戻しますわ。
まあ、東と西も一般戦と特別戦は、まだマシなのが救いやけどな。
「ヒーン」
先輩方、いつも誘導ご苦労さまでーす。
「ぶるうぅ(おう、気張って走れよ)」
「ひひん(頑張ってねー)」
「ヒン」
う~す。
「こらこら、ヒメにウォーミングアップが必要ないのは理解したけど、邪魔になるといけないから、もう少しスタート地点から離れるよ」
「ひん」
しゃーない、4コーナーまで歩くとするか。
※※※※※※
『……が最後にゲートに収まりまして、係員が離れました。
……スタートしました! 各馬まずまず揃ったスタートです』
「よしよし、いい感じの出だしだね」
「ひん」
みんな遅いぞー。調教のキャンターちゃうねんで?
しゃーない、ワイがダートの走りちゅーもんの、お手本を見せてあげるか。
「ちょ、ちょっと! ヒメ、掛かっちゃダメだってば!」
べつに掛かって暴走しているわけではないで?
周りのペースが遅すぎるんや。
「あー、もう、こうなったら、今日はとことんヒメの走りに付き合ってあげるわよ」
それでええんよ。今日のミユキはパッセンジャーになっとき。
『先頭が1コーナーのカーブに入ります。ここで、ミストラルプリンセスが外から先頭を窺う勢いで上がって行った。
芝の前二走では最後方からの競馬をしていたミストラルプリンセス、ダートに変わって今日は果敢に先頭に立ちます』
「う~ん…… 普通に気分良く走っているだけで、べつに掛かって暴走しているわけじゃなかったんだね」
ワイにとっては、これでもキャンターに毛が生えた程度にしか感じないんやで。
『ミストラルプリンセス、後続を引き離して向こう正面のストレートを飛ばしています。800メートル通過は47から48秒。これは、二歳馬にしては早いペースか?』
「だいたい、12-12でラップを刻んでいるって感じかな?」
それに、0.2か0.3秒プラスってところやろうね。
『ミストラルプリンセスは早くも、3コーナーから4コーナーの中間地点に差し掛かります。まだ後続は大きく離れたまま!
これは、ミストラルプリンセスの逃げ切りが濃厚か?』
「後ろってかなり離れているみたいだけど、これってやっぱり自分のペースがおかしいってことなの? なんだか心配になってきちゃったなぁ」
ミユキは心配しなくても大丈夫でっせ。後ろの連中が遅すぎるだけなんや。
これでも、精々が八割ぐらいの力で走っているんやで?
ワイは駄馬とは能力が違うんや、能力がな!
『ミストラルプリンセスが後続を大きく引き離したまま、4コーナーを回って最後の直線に入ります!』
「よし! ヒメの手応えは、まだ十分に残っているね」
まだガソリンは七割ぐらい残ってまっせ!
ダートの3200とかのレースがあったとしても、もしかしたらワイって勝てるんと違う?
まあ、そんなアホなレースが仮にあったとしたら、さすがにワイでももう少しペースを落とさないと、最後はガス欠になりそうやけどな。
『後ろからは何もこない! ミストラルプリンセスが逆に後続との差を引き離します! これは凄い! これは強い!』
「ヒメ、もう勝てるから、あとは流すよ」
「ひん」
しゃーないから、スピードを緩めますか。
『ミストラルプリンセス、鞍上の牧村がチラッと場内のターフビジョン見てから、手綱を緩めて流し始めました。
ミストラルプリンセス持ったままで余裕を持って、いまゴールイン!
これは強い! レコードの赤い文字が点灯しています』
「ふ~、楽勝すぎて怖いくらいだったよ」
『ミストラルプリンセス圧巻の走りで見事、人気に応えました。
パラパラと後続もいまようやく入線しました。
二着にはどうやら、1番のタイセツブリザード、三着……』
『勝ち時計は、1分43秒9。ゴールまでの800メートル49秒6、600メートル37秒1の競馬でした。
お手持ちの勝ち馬投票券は、確定までお捨てにならずに、暫くお待ちください。
なお、勝ち時計の1分43秒9は、二歳馬のダート1700メートルの日本レコード記録更新になります。札幌競馬場にミストラルの強風が吹き荒れました!』
「ヒメ、お疲れさま。強かったね! レコード記録だってさ」
まあ、このワイがほんの少しだけでも本気を出せばこんなもんよ。
しかし、このままでは、ワイはダート馬だと思われてしまって、来年春の目標がオークスじゃなくて、関東オークスになっちゃうよ!
ダートって長距離戦が極端に少ないのがネックなんだよなぁ。
ダートと長距離にしか適性がない馬には難儀な時代だろうね。
だけど、サラブレッドの走りたいという、魂に刻み込まれたDNAには、本能には逆らえんかったんや!
※※※※※※
「美雪、ご苦労さん。いや~しかし、ヒメは強かったなぁ。しかも、二歳馬のレコード記録更新のオマケ付きとはね。いや、まいったまいった。美雪と田中が正しかったよ」
「強かったですね。私、レコードを出すの初めてなんですけど、こんなものかと拍子抜けしました」
「レコードはレースの結果のオマケみたいなモノだからな。でも、レコード記録は、記念品を貰えるぞ」
「記念品ですか? それは少し嬉しいですね。レコードでの走破でしたけど、ヒメはまだまだ余裕十分でしたよ」
「最後まで追っていたら、一体どこまでタイムを縮められたのか、興味が尽きないね」
「勝てると確信を持てた時点で、それ以上に追う必要を感じませんでしたけど、それでもレコード勝ちですから、凄いの一言に尽きます」
「1分43秒9って確か今年のエルムステークスの五着と同じタイムだぞ?」
「古馬のGⅢで入着するタイムとか、ヒメの能力には驚かされました」
「まさか、ミストラルプリンセスに、ここまでダート適性があるとは驚いたよ」
「これでも最後の100メートルぐらいは流したのですけど、後ろが付いてきませんでしたね」
「ああ、流してくれて助かったよ。故障だけは怖いからなぁ」
「能力はあるのに、脚元が弱くて本来の実力を発揮出来ないまま、故障して引退とかありますので、気を付けました」
「そうだな。もっとも、ヒメはかなり丈夫そうなので、そうそう故障はしないはずだがな」
「そういえば、故障とは少し違いますけど、ソエになりそうな気配すら感じられませんね」
「だが、レコード駆けの反動で、ソエが出ないか少しだけ心配だな。一応、脚元を気に掛けておいてくれ」
「わかりました」
「それにしても、四着以下の馬には悪いことをしちゃったな」
「え? ああ、もしかして四着入線でも、タイムオーバーになっちゃいましたか。謝って来たほうがいいですかね?」
「レコードの出たレースではタイムオーバーは適用されないけど、実質同等のタイム差だったということで四着なのにショックということだよ」
「そういえばそうでしたね。レコード出したことなかったので忘れてました」
「でも、笑って祝福されるだけだと思うけどな。まあ、後で挨拶に行って顔を繋いでこい」
「わかりました」
「エージェントが幅を利かせるような時代になったとはいっても、騎乗依頼を増やすには、やはり人との繋がりが大切だからな」
「つまり、自分を売り込んで、相手に好印象を持ってもらうということですよね? 猫を何重にも被っておきます」
「おまえなぁ……」
「美雪ちゃん面の皮が厚いわね……」
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ミストラルプリンセス 競走成績
2回 札幌競馬 7日目 1レース 曇り やや重
2歳未勝利 ダート1700メートル
本賞金 600万 240万 150万 90万 60万
50kg◆牧村美雪 1人気 1着 1.43.9 R 3F37.1 大差 3.2 348kg -6
3戦 1勝
本賞金(収得賞金) 400万円
総賞金(付加賞各種手当等除く) 600万円
累計賞金額
本賞金(収得賞金) 400万円
総賞金(付加賞各種手当等除く) 1640万円
題名の、大外一気!じゃなかったw
レコードで二着以下に3秒以上の大差をつけて、ダートで確変!
でも、完全にダート路線に行くのかは未定。
350kgの馬がダートでこんなに強いとか、現実では考えられない気がするw




