14話 コスモス賞
2回 札幌競馬 1日目 10レース 晴れ 良
2歳オープン コスモス賞 芝1800メートル
本賞金 1800万 720万 450万 270万 180万
はい、というわけで、夢見がちな二流ホースマンの希望が見事に叶ってしまい、本当にコスモス賞に出走することになってしまったワイです。
どうやら、ワイのオーナーである庭野環希の了承を取り付けたみたいだな。
まあ、二流ホースマンは言いすぎやな。オッチャンは、GⅠにブロークンアロー先輩を送り込めるのだから、1.25流程度の実力はあるだろうしね。
でも、ブロークンアロー先輩でGⅠを勝てなかったから、ワイの中でのオッチャンの評価は、1.25流止まりの評価ということやね。
ミユキは知らん。アイツは卵の殻かオムツがまだ取れてない、ヒヨッコで見習い騎手なんやから、三流で十分や!
田中さんは、もっと知らん。厩務員の良し悪しなんて、ワイには分かるわけないしな。
けどまあ、ワイとの相性はいい感じやね。結局、リンゴもちゃんとくれたしな。
「ヒメ、頑張れー!」
「ヒン!」
今日もサツキが応援に来ているけど、オーナーの庭野環希は不在みたいだな。
テニスの全米オープンが近いから、もしかしたらアメリカに行ってるのかも知れんな。いつかは、ワイも海外のGⅠレースに出走して優勝したいものやね。
それで、どうやら今日のコスモス賞は、11頭立てで行われるみたいだな。
中央馬6頭に地方馬5頭という、道営所属の馬が出走してくれなかったら、6頭立てというお寒い出走頭数で、レースを行うことになるところだったのか。
北海道シリーズの二歳オープン戦というのは、道営所属馬の出走なくして興行的に成り立つのか微妙な感じやね。
そのぶん、道営所属馬もレースで上位に入線すれば、道営よりも高い中央の賞金を手にすることが出来るのだから、お互いに持ちつ持たれつなのだろうね。
それで、今日のワイの人気は、どんな感じやろうね?
7枠8番の単勝オッズは…… 18倍の5番人気、とな?
つまり、中央で一勝している馬でも、ワイよりも人気がない馬がいるということになるのか。
未勝利馬にしては人気の気もするけど、前走の末脚の再現を期待しているファンもいるみたいだから、まあ、こんなもんなんか?
だけど、前走がハナ差の二着とはいっても、実際には勝ててないのだし、重馬場だったから走破時計も遅かったので、参考にならんよな。
良馬場での走破時計を持ってないにしては、人気になりすぎのような気がしないでもないけれども。
逆に、未勝利馬で前走から斤量がプラス4kgなのに、よくもまあファンはワイを、5番人気に押したものだと思わなくもない。
ワイが道悪巧者だから、前走は重馬場で好走できた可能性も、否定できないのかも知れんのよ?
※※※※※※
「ヒメ、今日もよろしく頼むよ」
「ヒン」
こちらこそ、よろしゅーたのんます。
『札幌競馬、第10競走はコスモス賞。芝1800メートルで行われる、サラ系2歳のオープン特別の一戦になります。
今年のコスモス賞は、ホッカイドウ競馬所属の5頭の参戦と、未勝利馬ミストラルプリンセスによる異色の格上挑戦というバラエティ豊かな11頭による競走です』
異色の格上挑戦とな? でも、未勝利馬が重賞やオープン特別に挑戦するのも、数年に一回はあるはずやで?
数年に一度なら、そら異色やったか。
アバヴ・ザ・スカイ、このローカルの特別競走用の本馬場入場曲も、ええね。
まあ、神曲であるサラブレッド・マーチには負けるけどな!
東と西の重賞とGⅠの本馬場入場曲はアカン。あれでは、気合いが入らん。
苦情も相当数に上ったはずやし、評判が悪かったから、一部のGⅠレースは昔のザ・チャンピオンとかに戻したんやろうなぁ。
「ヒメ、今日は一着狙いだよ。頑張っておいで!」
わかってまんがな。
「ヒン!」
激励してくれた田中さんが、ハミに付けていた引き綱のワンタッチ金具を外してくれた。
というか、べつに田中さんが本馬場まで引き馬で付いてこなくても、ワイはちゃんと大人しくパドックから一人で歩いてこれるんやで?
「美雪ちゃん後はよろしくね」
「一着目指して頑張ります!」
お? ミユキも今日は気合い入ってるね。
「ヒーン」
先輩方、今日も誘導ご苦労さまでーす。
「ぶるうぅ(おまえ、今日はちゃんと走れよ)」
「ひひん(今日は飛ぶなよ?)」
「ヒヒーン!」
飛んだのは不可抗力でっせ!
というか、先輩たちも馬なのにレース見てるんだ。知らんかったわ。
モニターか何かでJRAの職員と一緒に見てるんか?
「ヒメ、そこで立ち止まらないで、みんなと同じ方向に走って行こうよ」
「ヒン?」
だって、スタート地点は此処ですやん。あっちまで行くと戻ってくるのに遠いですやん。
ワイはレース直前では、無駄なエネルギーを使わない主義なんや。
「あ~もう、仕方ないなぁ。わかったよ、ヒメの好きにしな」
「ヒン!」
まいどおおきに!
「でも、ゲートを移動させたりするのに邪魔になるから、4コーナーの辺りまでは行くからね」
結局、200メートルは移動するのね。
※※※※※※
『正面スタンド前からの発走になります。各馬の枠入りは順調……
ミストラルプリンセス、ゲートに収まります。最後に10番ダイヤモンドダストがゲートに誘導されます。今、収まりました。
係員が離れます。各馬ゲートに収まって…… スタートしました!
ポンと飛び出したのは、3番のイナバチャレンジ、好スタートを切りました。
その他の馬も、まずまず揃ったスタートです』
「よしよし、今日は出遅れないでちゃんとスタートできたね」
まあな。ワイが本気を出せばこんなもん朝飯前よ。
ワイも学習したんや、畜生なんかには負けへんで。
『3番イナバチャレンジ手綱を押して、果敢に逃げを打ちます。早くも5~6馬身のリード』
「3番の道営の馬、気合入ってんなぁ。でも、千八だからヒメは抑えて行くよ」
うーん…… なんかペース遅くね?
たぶん、あの馬のペースの方がやや速い程度で、ほぼ普通なんじゃね?
先頭の馬が気持ちよく逃げちゃってるのに、誰も鈴を付けに行かないでやんの。
誰か追いかけに行けよな。
『イナバチャレンジの大逃げに、場内からもどよめきが起こっています』
「先頭の馬、何考えてるんだろ? あれ絶対に最後バテそうだよね」
そうかな? そんなに速いペースで逃げているようには見えないぞ?
だから、あまり逆噴射には期待しない方がいいと思うけどな。
『1000メートル通過は、1分ちょうど。2歳馬にしては、やや早めのペースか?
イナバチャレンジがマイペースで逃げて、3コーナーのカーブに差し掛かります』
ほらな、やや早い程度だったら、ワイらが遅すぎるんやで。
というか、おいおい、これって逃げ切られてしまう展開なんと違うか?
みんな前を捕まえに行けよ! 追いかけろよ!
「ヒメ、仕掛けるにはまだ早いよ」
あれは、気分良く逃げているんやで。ヤバいわ。
ちっ、しゃーないなぁ。この展開では、ワイがロングスパートを仕掛けるしかなさそうだな。
「え? ヒメもう行くの?」
今、行かな逃げ切られてしまって、ワイでも届かんくなるんやよ。
レースを書くのって想像以上に難しい…




