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13話 絵に描いた餅を夢見る人たち

テキ 調教師のこと


 札幌競馬場 滞在厩舎



「うーむ、 中一週で土曜の芝千八とダートの千、日曜に芝千二で、中二週だと芝千八にダート千七と日曜に芝千五か? 中三週だと……」


「テキこっちに来てたのですね。何を悩んでいるんですか?」



 た~な~か~、リンゴくれ林檎。ニンジンでもいいぞ。



「田中か、ちょうど良かった。ミストラルプリンセスの次走について考えていたところでな」


「前走あれだけ強い負け方をしましたから、テキも欲が出てきましたか?」


「負けてなお強しだったもんなぁ。ヒメの体形と血統的背景から短いところよりも、中距離以上の長い距離のほうが合っているはずだから、千二は論外だよなぁ」


「前走もエンジンの掛かりが遅かったので、ヒメに1200は忙しいでしょうね」



 ワイもスプリント戦はあまり勝てる自信がないね。1000や1200メートル戦というのは、畜生の本能が優れている馬の方が有利な気がするんよ。

 まあ、何度もレースに出走しても勝ち上がれない未勝利馬が相手なら、まだ勝てる見込みはあると思うけど、これがスプリントの一線級が相手となる千二の重賞とか、まるで勝てる気がしないしな。



「そうだよなぁ。それで、そのお転婆お姫様の調子はどうだ?」


「ケロってしてますよ。レース後も直ぐに息が整いましたし、とても二歳の牝馬とは思えませんね」



 まあ、本気で走ったのって最後の1ハロンちょっとだけだったしね。



「ワシも新潟じゃなくて、札幌に居ればよかったかな? 面白いレースを生で見られるチャンスを逃したわい」


「新潟ジャンプに自厩舎の馬が出ているのですから、重賞のある方にテキが行かないでどうするんですか? ジャンピングドゲザは今年のウチの稼ぎ頭ですよ」



 面白いレースって、ワイのジャンプかいな?

 一昨日のスポーツ新聞にも、落馬した騎手をワイが華麗に飛び越える写真がデカデカと載ってたで。


 それにしても、ジャンピングドゲザなんて凄い名前を付けた馬主もいたものだな。

 障害を飛越しても、騎手を落馬させそうな名前の馬だし。



「障害馬が稼ぎ頭というのは助かっているけど、嬉しいやら情けないやら」


「金鯱賞でブロークンアローも引退しちゃいましたしね」



 ブロークンアロー? どっかで聞いたことある名前だな?



「アローは出来れば、今年一杯まで現役を続けさせたかったよ」


「屈腱炎だから引退はやむを得ませんよ」


「ダービー二着を含めてGⅠで二着が五回という実績があるから、種牡馬に成れたのは幸いだったな」



 あー、そっか、人間の時のワイが最後に見たダービーでの二着馬が、ブロークンアローだったんだな。

 二着と三着のどっちだったのかまで、そこまでの記憶はなかったんだよなぁ。


 まあ、そのレース直後にワイが死んでしまったからなんだけど。


 それにしても、GⅠで二着五回は結構凄いな。

 ブロークンアローは、シルバーコレクターの異名を授かってそうやな。



「ジャパンカップで二年連続での二着は評価されるでしょうけど、やはりGⅠのタイトルが無いと質の良い肌馬を集めるのには苦労しそうですよ」


「種付け料が100万と安いから、数打ちゃ当たるに期待するしかないか」


「種牡馬の生存競争も激しいですからね。でも、数年後にアローの産駒がウチに入厩してくれたら、それはそれで嬉しいですよね」



 数打ちゃ当たる作戦は、もしかしたら、まぐれ当たりがあるかも知れないけど、その確率は低そうだよな。



「あーあ、アローにはGⅠのタイトル獲らせてあげたかったなぁ」


「テキ、それは死んだ子供の歳を数えるようなモノです」


「その二着は五回とも、全部半馬身差以内なんだぞ? 愚痴りたくもなるんだよ」



 ブロークンアロー先輩は、結構どころではなく、かなり凄かった。



「それで、ヒメはアロー並みかそれ以上に、スタミナも回復力もありますね。仮に連闘させたとしても大丈夫だと思いますよ。まあ、テキはしないでしょうけど」


「しないな。いくらヒメが丈夫だからといって、まだ身体の出来上がってない二歳馬に夏場の連闘はさせられんよ」



 べつにワイは連闘でも行けまっせ!

 ワイも番組表を見たけど、今週の土曜日に芝の千八とダートの千七が組まれているんよ。


 というか、ワイは牡馬のGⅠ級並みのスタミナと回復力を持っているのか。

 来年のオークスとか、期待しちゃってもいいの? 期待しちゃうよ?


 まあ、実際にそのレースを走るのはワイなんやけどな。



「ああ、そういえば、テキはそれでヒメの次走を悩んでいたのでしたね」


「うむ、田中は中一週で芝の千八でいいと思うか?」


「それが無難だとは思いますけど、いっそのこと、同じ日に同じ距離でやるコスモス賞に出走させませんか?」


「コスモス賞とは強気だな。まあ、ロマンは感じるがね」



 うむ、格上挑戦に漢のロマンを感じるのは、ワイも完全に同意するぞ。

 まあ、ワイは牝馬なんやけどな。



「この前の新馬戦で勝っていれば、コスモス賞にクローバー賞や札幌2歳ステークスとか、選択肢は多かったのですけどね」


「コスモス賞はフルゲートになる可能性は限りなく低いから、出そうと思えば恐らくは出せれるのだろうけど、未勝利戦で確実に勝つほうが無難じゃないか?」


「それでも、コスモス賞の出走メンバーって10頭立てで、そのうちの5頭が道営所属の馬とかいうのが目に浮かぶのですけど?」


「ありありと目に浮かぶな。つまり、未勝利馬のヒメでも、そこそこ勝てる可能性があるということだったか」


「まあ、この時期の道営所属の馬は仕上がりも早い馬が多いから、優勝を掻っ攫って行く可能性もありますけど」



 門別所属の二歳馬って年によっては、北海道シリーズの二歳戦でブイブイいわせてるもんなぁ。

 まあ、その後に中央のクラシック戦線で活躍できるまで、そこまで出世できる馬が極々少数しかいないのも道営馬の特徴でもあるけど。



「こうなってくると、二日目の千八に出走させとけばと後悔してくるよ」



 後悔は先に立たないから、後悔と言うんやで?


 というよりも、リンゴくれ林檎。


 ワイの馬主である庭野環希さまが、段ボールで差し入れしてくれたのをちゃんとこの眼で見ているんやで。

 季節のくだものであるはずのリンゴを、季節外れの夏に箱ごとドーンと差し入れるだなんて、オーナーは太っ腹やね。




「調教終わりましたーって先生と田中さん二人で何やっているんですか? もしかして、出張馬房で逢引きとか?」



 ほうほう、田中さんはオッチャンの愛人とな?

 オッチャンには悪いけど、この二人の距離感では残念ながらも、それはないな。



「馬鹿こけ、ミストラルプリンセスの次走を話し合ってたんだよ」


「ヒメの次走ですか? 格上挑戦でコスモス賞とか面白いと思いますよ」



 ミユキよ、おまえも田中さんと同じ思考をしているんだな。



「美雪よ、おまえもか……」



 ワイはオッチャンと同じ思考回路だっただと!? ……なんか嫌だ。



「美雪ちゃん気が合うわね」


「ということは、つまり田中さんもヒメの次走は、コスモス賞推しなんですね?」


「出走メンバー次第ではあるけど、面白いと思ってるわよ」


「確かに面白いかも知れんが、すべてはオーナーサイドの了解を得ないことには、絵に描いた餅だな」


「それもそうでしたね」



 まあ、ワイの馬主の許可は必要だわな。


 けど、ワイ個人としては、オープン特別よりも未勝利戦のレースで、まずは確実に一勝という感じで気軽に勝たせてもらいたいところではあるわな。

 この人たちも、夢見ちゃってるよ。ワイはまだ未勝利馬なんやで? その事実を明後日の方向にぶん投げて、話を膨らませちゃってるよ。


 こんなんだから、千早の一流馬を預けてもらえないんじゃねーの?

 ほぼ確実に、そんな感じなんだろうなぁ。


来週も日火木土日で予約投稿しました。

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