表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The missing storks  作者: まきなる
8/14

ヒーロー

 

 タイピングの音がすると、くすぐったい。誰もがページを捲っている中に、誰かが自分はここに居るっていうのを示しているようで、私は好きだ。池に波紋が浮かぶように、不必要だけどきっと無駄じゃないことだと思うから。



 誰かが怒った。知らないおじさんが、知らない青年に、唾を飛ばしている。図書館でパソコンを叩いているのが、彼の正義に引っ掛かったようだ。ここは別にそれを禁止してはいない。係員も出てきて場を取り持っているが、ヒーローはまるで自分の功績を誇示するよう。悪者は係員と、他の利用者に対して一つ謝罪をし、その場から立ち去った。



 勝ち誇ったヒーローは私の目の前の椅子に座って、大きないびきをかきながら眠りについた。大役を果たしたのだから、疲れて当然だろう。それは勝利の雄叫びと何ら変わらなかった。ヒーローの邪魔をしてはいけない。私は本を閉じて図書館を後にした。



 外にはさっきの悪者が寒空の中、白い息を吐いてスマホを触っていた。車が同じ方向にあったので、青年の前を通り過ぎようとすると呼び止められた。一つ謝罪されたのだ。近くにいた私のことを心配してくれたみたいだ。



 私は彼にどんなことをしていたのかを尋ねた。歌詞を書いていたらしい。勉強のために、憧れの人が読んでいた本を探しに来たみたい。さっきの出来事で本は借りれなかったみたいで、しょんぼりしている。私は応援の言葉を残して、場を立ち去った。



 盗作が発覚してニュースで彼を見ることになるのは、その数年後だった。社会的に人気があったために、世間にはよほど衝撃だったのだろう。でも私はそこまで衝撃を受けなかった。あの時の悪者が、本当に悪者になっただけの話だったから。



 ヒーローは正しかったみたい。自身の判断で、悪者と決めつけて叱咤した。未来の悪者を見つけたのだ。上映すれば誰もが泣きながら立って、賞賛の拍手を送るだろう。私はその中でも、より木霊するように拍手を送ろう。彼の時間を、ちっぽけで空な倫理で奪ったあなたは正しかった。あの空間に響いた大声は、誰もが待ち望んだ声だったんだ。



 あの時の青年と同じように、私は図書館で歌詞を書いていた。タイピングはぎこちないけど、それでもかまわない。本を読み、キーを打つのを繰り返す。すると、あの時と同じおじさんが私の近くに来た。膨れた腹がはち切れそうなほど大きく息を吸うと、その口中では唾液でダムが決壊しそうだった。



 次の悪者が生まれる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ