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The missing storks  作者: まきなる
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かたつむりになりたい

 私は優しい人になりたかった。誰よりも気遣いができて、誰に対しても平等で、いつも誰かに寄り添う、そんな人になりたかった。



 自然と私に話しかけてくる事柄が、一つ一つ積まれていくのを実感した。私は優しい人になることができたんだ。そう思っていた。



 でも、誰にも「あなたは優しい人だ」と言われたことなんてなかった。頑張っても私を肯定してくれる人なんて、どこにもいなかった。



 だって、私は結局は自身のことしか考えない、優しくない人。

 私を表すにはそれで十分だから。



 壊れていくのは時間の問題、積もっていた疑心と暗鬼が心を食んで、それでも、私は優しい人を演じ続けた。そう、私はテセウスの船の乗客だったんだ。


 狂ってしまえたらどれほど楽か、見つめ続けることで私が少しずつ失われていく、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もう、何も考えたくない。



 体は応答してくれない。喉に通るものは幾ばくかの時間。ダメだ、このままじゃ。私は止まれなかった。でも、何もかもが上手くいかなくて、私は折れた。



 いつも何かが通知されるように、思考が流れていた。その通知音も、とうに聞こえなくなっていた。ただ寝るだけの日々を過ごすこと、それしかできなかった。


 外に出ると少し光が痛くて、日焼け止めを塗った。ただ風に流されて歩き、この街がいつの間にか変わっていたこと、伸びた髪が少し暑いことがどこか心地よかった。


 公園の排水溝に、押し車を引っかけた老人が見えた。私が取る行動は、本当にどうしようもない。そんな自分にも呆れながら、押し車を外すのを手伝った。


 老人は私の姿を見て、歯を見せながら「ありがとね」と言い、去っていく。私にとって、遊歩道に消えていくその姿は、感光した写真のような魅力を覚えた。



 自分のために他人に優しくなればいい、そのことにやっと気づいた。答えるように髪は靡く。ゆっくりでいい、少しづつ戻していけばいい。


 どれだけ時間がかかっても、焦らなくても、自分を許せるのなら無理をする必要なんてない。



 だって、私は結局は自身のことしか考えない、優しくない人。

 私を表すにはそれで十分だから。


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