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The missing storks  作者: まきなる
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浜木綿

 目の前には草原が広がっていた。吹く風は肌を撫でて、辺りは草の擦れあう音しか聞こえない。その中にある人工物はたった一つだけ。それはうんと遠く、天にまで届くような白い塔だった。向かうべき場所はきっとあの場所だ。草原の中を歩きながらそう思った。



 近づくにつれて、微かにピアノの音色が聞こえてくるのが分かった。周辺にはピアノなんてものはないからきっとあの塔の中にあるのだろう。歩みを進めるたびに音が次第にはっきりと聞こえる。



 この曲は、ドビュッシーの“夢”か。彼のピアノの音色は何故か儚いイメージがあって、特にこの曲の本当に壊れてしまいそうな音色が、好きだったんだ。


 体は歩いているだけなのに既にボロボロで、風化したようだった。一度立ち止まると崩れ始めて、歩くと止まった。余計なことは考えずに歩き続ける。

 


 塔にはすぐに着いた。その塔にはたった一つだけ、ドアがついているだけだった。中に入ると、上まで螺旋階段が続いている。やはり、ピアノの音も上から聞こえてくる。登ろう。思うよりも足は動いていた。



 どれだけの時間が経ったのかわからない、けれど階段の切れ目にまた一つのドアがあった。ドアを開けると中に一人日の光が照らすステージ、白黒の鍵盤の上で指を躍らせている人がいた。こちらには目もくれず、時間はただその人にしか与えらえていなかったように思う。


 言葉で表現するには、これが限界だ。そうか、これが圧倒されるということか。一つの曲が鳴りやむとその人はこちらを一瞥し、そっと、ピアノの蓋を閉じた。



 しばらく立ち止まっていたためなのか、体の風化は進み、歩くのを促しているようだった。考えず、ただ歩き、ピアニストの下へ向かう。



 ピアニストの顔が見えない、見たいのに、近づいてもこちらを向いても、この場所に似つかわしくない、ひどく塗りつぶされたようで、その状況に何故か安堵を覚えていた。



 鍵盤が再び音色を流す。その音を聞きながら体が消えていくのを感じていた。その透明な色が、体を透過させていくように全部が薄れていくのが感じ取れた。



 隣に座り、指を走らせる。この行為に侮蔑の目を向けられても構わない。ピアニストは何も言わず、鍵盤を弾いた。


 時間の限り、連弾は響く。たまらなく、醜く、美しいまでに。


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