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The missing storks  作者: まきなる
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右に同じく

 目が覚めて、そこはいつもの風景ではないことに気づくのは少しの時間を要した。別に本当に変わったわけではない。ただ感じ方が変わっただけ。それだけだったんだ。

 世の中には羨望があったけど、何をするのにもどこか冷めていて、変わりたいとか、ちゃんと生きようなんて思ったこともなかった。



 いつものように顔を洗い、いつものように冷蔵庫に冷やしてあったお茶を流し込む。この行為自体もどこか鮮明に感じた。体の調子がいい時でもこんなことにはならなかった。

 


 変わったと感じた理由は、もうわかっている。一つ僕はまた優しくなってしまったから。優しい嘘を覚えたのだ。人の悩みを聞いて、本当は思っていないことを、ただ励ますための嘘をついた。



 自分に正直に生きようなんて言う人は世の中には無量の数ほどにいる。それができなくて悩んでいる人も多い。僕もその一人だ。他人に優しくなりなさい、人の気持ちを考えなさい。僕は聞き飽きた。



 事件を知っていて、それを見て見ぬふりをしたのならばその人々も共犯者だ。そんなことをよく耳にする。僕は曲解して、人の世に外れたことをするのが犯罪ならば、他人に優しくない人も犯罪者。そう思うことにしてもう半世紀がたつ。



 飲み干したコップはどこかに置く。すでに点けていた13インチのモニターにはちょうど天気予報が流れていて、梅雨明けの快晴だと伝える。ここまで僕の心を反映しなくてもいいのに。思ったことはそんなことだった。



 嘘をつくことは良くないことだと、世間様では認識されている。だから、僕は倫理を守るために倫理を破っているのと同じだ。

 優しくても嘘は嘘。不器用な僕にはどうすればいいのかわからない。知る必要もない。



 そう気づいたのが昨日の夜だった。途端にいろんなことが馬鹿馬鹿しくなって散々思考したけど、その行為すら無為に感じてしまって、そのまま寝てしまった。

 昔だったら次の日から生き方を変えようなんて考えたけど、今更生き方を変えることなんてできない。変わったと感じても、実際は変わらない。



 誰か誰か、そう叫ぶこともさえ今では遅すぎる。

 だから僕は右向け右と言われたら右を向く、それがどういう意味なのかさえ、とっくに聞き飽きてしまった。


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