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The missing storks  作者: まきなる
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ガラスの思慮

 目の前にはたった今、息絶えた一つのスマホがあった。ただ、今何時なのか確認しようとしたはずだったのに、その黒い画面に映った瞳がどうしようもなく嫌になった。それだけだったんだろう。



 私は心の無い生き物ではない、何かの行為の見返りをどこかで求めることも当然ある。そしてそう思ってしまったことが、私の見にくい、醜い心が私自身を嫌いになるには十分すぎるほどの理由だった。



 冷蔵庫を開け、右下にあったビールを一気に喉に流し込み、アルコールが体と脳を温める感覚に浸る。次はどれだと再び探すが、もうその冷たい箱に、私の体を温めてくれるものは無かった。家中に転がっている空き缶の中に、飲み残しは無いかと何かに這うように漁り行為を続け、瓶に2/3程入った日本酒を見つけた。



 子供が宝物を見つけた感覚と同じように、口を半開きに、肌身を離さないように、でもその目の虚ろさはかけがえのないものであることのシンボルだった。傾け、再び私のガソリンを廃油口へと流し込む。考えていたことの記憶は薄まって、それが流れ込むたびにどんどん沈んでいって、私自身もベットに倒れて体が溶けていくように溺れていた。



 いつの間にか眠ってしまっていた。周りはすでに明るく、時計の針は綺麗に重なっていた。捨てたつもりだったが、焦る気持ちは不思議と心の片隅にあった。行く気になんてなれないけれど、上司の着信が気になってスマホを手に取った。だがそれは既に黒い一枚板でしかない、気づくのには少し時間がかかった。



 ベットから私に刺さっている光に目を向け、光に集まる蟻のようにただ無として進む。

窓の外では、ヒトがたくさんうごいているのがみえた。それがどうしようもなく無機質に見えたのはこれが初めてではなかった。それが自分にも当てはまるのが、また気分を悪くする。


 

 目はとっくに覚めていて、頭の奥には痛みが流れていて、それは寝起き心地を良いものに変えてくれる。手遅れなんだろう。私はこの空間が苦手なんだ。でも、どこか遠くへ行きたい、消えてしまいたいとも思えない。そんなどうしようもない私がベットの上で横になっていた。


 

 何か行動を起こすことが全てとは思えない。これが今までの私の人生を否定していたとしても、そんなものはクソくらえだ。風呂も入らず、掃除もしていない部屋で、酒をこぼした毛布をかぶって、私は再び目を閉じる。



 私のさび付いたエンジンを動かすには、幾ばくかの時間が必要だ。


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