とれないもの
普段は行かない古い寂れたゲームセンターに来ていた。
慣れないクレーンゲームの前で、一つため息をついている。後ろの椅子には僕の後の順番を待っている人がいたのでどうぞと、そう言うように場所を開け彼女のプレイングを傍らで見ていた。
真剣に眉一つ動かす次々と取っていく君は、どこか無機質で美しいと、タバコの火を消す。
お目当てのものを取ったのだろうか、持ってきていた袋に入れて一つ一つ愛でるように、それは優しい笑顔だった。
どうして、そんなに取るのが上手なんですかと、聞いたらただ君は好きだからと答えただけだった。根拠はないその言葉が心に重く突き刺さって、僕は君と友達になれないかといつの間にか話していた。
それから何日か経って、ショッピングセンターの中のゲームセンターに僕は居た。もしかしたら、そう考えていたんだ。光があまり当たらないその場所で君はまた一人、アームを動かしていた。沢山取っているねと後ろから声をかけると、ただ一つ君は頷いた。
長いエスカレーターで階下に行く僕に君は、私の彼がこれを好きなんだと、柔らかく僕にそう告げ、僕はきっと喜んでくれるよと、棘を自分に埋め込んだ。去り際に君はじゃあまたねと、手を振ってくれて僕も鏡のようにそれを真似た。
背が消える。紙筒を口に加え、ライターを探して火を点けようとしたけどそれは叶わなかった。ガスがもう無くなっていたんだ。あまりにそれは胸にしまっておくにはもったいなかったから、ゴミ箱に投げ入れて僕はまた一人、来た道を戻っていった。