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The missing storks  作者: まきなる
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もう一年。私が住んでいるこの古びた家は、景観はともかく中身はもはや自然の中に溶け込んでいる様相だろう。愛猫も日向ぼっこをするぐらいしかやることがないらしい。私は私で縁側にてお茶を啜っている。そんな毎日。



 あの人は時代の人だった。家事や育児は全て私にまかせて、仕事一筋に生きた。私の周り、私たちの世代ではそれが当たり前だったから、ここまで一緒だったと思う。でも世代は変わり、価値観も変わり、これが当たり前ではなくなったのだろう。娘たちに説得され、やっと一歩を踏み出すことができた。あぁ、もう思い出したくもない。やめだ、もうやめ。



 友人たちも一人、もう一人と会えなくなって、いつ自分の番が来るのか怯えていた。振り返ってみれば、特に何もない時代の波の中で一つの水泡としてはじけて消えるような日々だった。何年も焦っていなかったのに、私はいつの間にか焦り始めていたのかな。今となってはわからない。



 日向ぼっこは気持ちがいいこと。ここ最近気が付いた。ただ雲を眺めているだけで時間は過ぎて、何もせずにただ愛猫と一緒にいる。耳を澄ませば草木がすれているのを感じ、目を開けば名前の知らない鳥が名前の知らない果実をつついている。



 大好きなお菓子を食べようか。駅前で人気のシュークリームを冷蔵庫から取り出し、最近買った電気ケトルでお湯を沸かす。お湯を沸かしてある間に、食器棚からあるものを持ってきた。



 私の周りは、昔からあるものは少しずつ無くなって、所々新しい便利なものに入れ替わっている。それでも、この急須だけは昔から何も変わらない。辛い時にも、楽しい時にも、あまり覚えていないけれど食事の時にはいつもあった気がする。後悔ばかり残る日々だった。あらゆること、恥ずかしいことと思って何もしなかった。けど、それに気が付かせてくれた人々にありがとうと言いたい。私は今、楽しかったと言える。そんな日々でした。



「おばあちゃん!来たよ!久しぶりー!」

「もう、ほらちゃんと靴を揃えて。あ、こら待ちなさい!」



 耳は澄まさない。待ちも我慢もしない。だって楽しい時間がもう、すぐそばにある。


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