過剰摂取は危険です
「まあ、端的に言うと、この学校も天河グループの息がかかってるってわけだ」
「まあそうでしょうね。クラス決めをいじれる時点でわかってました」
闇に片足を踏み入れてしまった気分だ。この秘密を知ったからには…って更なる無理難題を押し付けられたりしないよな?もしそんなことがあったら逃げてやろう。
「と言っても、実際に学校に圧力をかけてるってのは少なくとも私は聞いてないんだがな。そういうのは上が勝手にやってる。白鷺のお父様が天河グループで働いてるってことで君も何かやっているんだろ?」
「よく知ってますねそんなこと」
「ん?ただそうだと聞いただけだが?」
うちの父さんの勤め先が天河グループに入ったことを知っているのか。
「というか先生、誰から聞いたんですかそれ」
「守秘義務だ」
「はぁ。まあそう言われる気がしてましたけど」
校長が天河グループの人的なオチだろうとぼんやり考える。
「でも私は君が実際に何を頼まれているのかってのは知らんぞ?教えてくれるのか?」
あれ?もしかして先生は鈴音が誠也のためにここにいるのを知らないのか…?まあ確かに社長令嬢があんなんだってのがバレれば会社の威信にも関わるのかもだしな。一回家壊されたし。
俺は見たことはないが、きっと鈴音のお偉いさん方への対応はしっかりしているのだろう。絵里奈も何故か慕ってたし、カリスマ的なモノがあるのだろうか。
「うーん、多分天河さんにダメって言われそうですね。結構真面目に取り組んでるみたいなので」
「ふむ、そうか……でも君が大変なことになっているというのは聞いているのだぞ?」
「まあ確かに大変ではあるかもですけど、苦ではないので安心してください」
「そうか、困ったことがあったら相談したまえ」
「ありがとうございます!」
先生は割と本当に心配してくれている様子だ。ちょっと話し方は威圧的だけど、優しい生徒想いの人なのかもしれない。
「でも、遅刻も廊下も走るのはダメだぞ。はい、反省文な♡」
「あ、そういえばそれで今連れてこられたんでしたね…」
進路指導室から俺が解放された時に丁度昼休みも終わった。鈴音は結局誠也と上手くいったのかな?
――
時は少し遡る。
約束の時間まであと1分。
私は賢二に言われて教室のドアの前で屈んでいる。どうも他の生徒の視線が飛んできているようだけど、賢二はすっごいイベントを起こしてやる!って言ってたからそんなの気にならないわ。頼むわよ?
約束の時間まであと30秒。
あ、賢二が立った!
「誠也、トイレ行こうぜー!」
「高校生にもなって連れションかよ…」
雨宮くんも立った!口では渋ってるのについて行ってあげるなんて優しい!優しすぎるわ!…あっあっこっちに来る!
約束の時間まであと10秒。
ついに雨宮くんとの初対面ね…!ああ緊張してきたぁっ。深呼吸しましょ。ひっひっふー…ひっひっふー………何か違うことをやってるような気もするけどしょうがないわよね!!!さあ!勝負よ雨宮くん!あなたを惚れさせてみせるわ!…まずはエレガントに挨拶を……ってあっ、足が痺れて……
そして、約束の時間。
「きゃあ!」
「うわっ、ごめんね。大丈夫?…あ、天河さん?」
うわああああ雨宮くんの身体に触っちゃったああああ!!!しかも私の名前!名前を呼んでくれてる!えっちょっ待って。今私の目の前に誠也の手があるんだけど!ああああああ触りたい握りたい!でも恥ずかしい!一体私、どうなっちゃうの〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
「あれ!?天河さんじゃん!ちょっと大丈夫かよ!おい怪我してないか!?大変だ!誠也!保健室に連れてってやれ!!!」
急に現実に戻される声が響いた。おいいいい賢二いいいい!!!何邪魔してくれてんじゃあああ!!!私と雨宮くんとの時間をかえせやゴラァ!……………ってえ?今保健室って言った?えっ、ちょっと待って早すぎるわよ。き、きせいじじつ……!賢二〜えへへ〜ありがと〜〜〜!
「え……そんなにか?大丈夫か?」
うわあああ雨宮くんが心配してくれてるううう!!!ちょっと待って困った顔超可愛いんですけど!!!無理よそんなパーフェクトフェイスを近付けられちゃー!!!………はっ!そうよ、ここで私が黙ってちゃダメじゃない。よし、まずはありがとうございますを言うのよ。落ち着け私。いけるわ、あなたなら出来る!!!
「あ…」
「おいおい!顔真っ赤じゃねぇか!髪の毛とほぼ同色だぞ!誠也!連れてってやれ!俺は我慢できねぇからトイレに行く!」
そう言って走り去る賢二。
おい賢二ぃぃぃぃ…………後で覚えておけよ………私の初めての雨宮くんへの言葉が「あ…」って、もうどうしたらいいの私はもう無理よ、私のHPは尽きたわ…
「…本当に顔赤いね、大丈夫?保健室連れて行くから……自分で歩けるか?」
鈴音の HP は 全回復 した !
優しい…あなたの体は優しさで出来ているのね…そして今、私はあなたの優しさに包まれている。これはもう、ハグしてもらってるのと同然よね!
でももうこれ以上誠也エネルギーを私の中に入れちゃうと理性が飛んじゃうわ。普段の私らしく、クールにお礼を言いましょう!
すでに理性なんてものはどこかへ飛んでいってしまっていることに気づいていない私は恥ずかしさを超えて錯乱していた。
「あ、ありがとう。大丈夫よ」
なけなしの私の気力はなんとか言葉を発してくれた。そう言って立ち上がろうとする鈴音。しかし、先ほどの待機の時間でずっと屈んでいた足は言うことを聞いてくれなかった。鈴音の身体は傾き、そのまま…
「きゃあっ……」
「あ、天河さん!」
誠也の腕の中へ。
見た目ではあまりわからなかったけど、流石は運動部。意外とがっしりした体は私の小さな体を難なく受け止めてくれた。
そして私は、自分でも気づかないうちにこう言って…
「あ、死ねる」
「え?天河さん!?」
意識を失った。