冥土の土産話にはできそう
入学式の日は午前で終わり。各教室では今後の説明を受け、配布物を受け取るのみだった。そういえばいきなり5月には遠足的な催しもあるらしい。なーにが遠足じゃと思ってしまうインドア人間だが、イベントごとは大切である。
ちなみに担任は東条凛花先生という現国担当の女性だ。まだ20代なのに1組になり、1年生の学年主任をするって凄くない?知らんけど。
第一印象はクールでまさに仕事バリバリできそうな感じ。背は高くて足も長いしモデルとかやっててもおかしくない見事なスタイルだ。顔も可愛いし、学生時代…いや、今でもさぞモテるのだろう。
「じゃあ明日から授業が早速始まるからね。ノート等を忘れないように。はい解散」
終わるとすぐに鈴音に連絡を飛ばし、人気の無い廊下の端まで来た。
鈴音は少し顔を赤くしながら遅れてやってきた。
「……緊張しちゃったか」
「〜〜〜〜っ」
全くサインに応じれなかった鈴音は恥ずかしそうに地団駄を踏んでいた。すると俺の胸ぐらをガバッと掴み引き寄せられる。
「うわっ」
「……………私、話せる気がしないわ」
「だ、だろうね」
吐息がかかるほど近くに彼女の顔がある。良い匂いが鼻腔をくすぐる。緊張が俺にまで移ったのか、はたまた鈴音に対してか、俺までドキドキしてきた。
俺は鈴音の手を離させ、できる限り優しい口調で話すことにした。
「大丈夫。学園生活は始まったばかりだ。これから頑張っていこう」
にっこりとホ○ディランもびっくりの全力スマイルをして見せてやろう。いつでーもスマイ…
「………調子に乗るな」
「すみません」
俺は悪くないよね!?と問い正したいところだったが、鈴音はスタスタとその場を後にした。
しれっと教室に戻ると誠也は沢山のクラスメイトに囲まれていた。人当たりの良さもそうだが、ヤツには何か“オーラ”がある気がする。まあ知らんけど。
しかしよく見ると周りにいるのは男子が多い。どうやら誠也のすぐ隣にいる百合は誠也狙いの女子に対する抑止力になっているようだ。まあ男共は百合狙いかもしれないが。
遅れて鈴音が教室に入ってくると、クラスメイトが鈴音の方に群がり出した。可愛いー!髪サラサラー!シャンプー何使ってるのー?てかL○NEやってるー?なんて声が聞こえる。てか最後のは出会い厨じゃねえか。
俺は誠也の方へ向かい、それとなく群衆に混ざった。みんな孤立を回避したいのか、とりあえず人が集まっているところに行き連絡先を交換している。これに乗り遅れるとタイミングが無くなるって訳だ。よし!俺も百合の連絡先を教えてもらおう!
「高橋さん!L○NE交換しよう!」
「あ、白鷺くんいたんだ。いいよ〜」
少し言い方に棘がある気がしないでもないが、無事交換できた。しかし、この高橋百合という少女の存在はミッションをする上で困る点がある。
一つ目は単純に、鈴音の恋敵となる恐れがある。いや、恐れどころじゃない。確実にライバルだ。顔面偏差値の高さは2人とも振り切れているレベルであり、現在の仲の良さ的に百合の方が優勢ではないだろうか。
そして二つ目、これは考えるべきではないのかもしれないが、鈴音が誠也とくっついた場合、百合は誠也の隣というポジションを失うことになるだろう。客観的に可哀想に思えてならない。鈴音の性格を知っているからかもしれないが。
俺が貰っちゃうって世界線、ある…?あ、許嫁いるんだった。
結局その後も鈴音は誠也と話すことはできなかったが、クラスL○NEのグループが作られ鈴音も誠也もそこに入ったため、無事鈴音は誠也と間接的にだが連絡先を交換することに成功した。良かったね。
ちなみに、鈴音はその日の夜、寝っ転がりながら誠也のアカウントを眺めニヤニヤしていたらスマホを顔に落としたという話は誰も知らない。
――
はぁ……家が見えてきた……どっと疲れた……
高校生活初日を終え、俺は家に帰ってきた。
この生活をこれから続けるのかと思うと正直憂鬱だが、当初の問題だった父さんの仕事は続けられるどころか天河グループからも資金援助をしてもらえることになり、特に自分がバイトをしたりする必要はない。
ただ家事を1人でやるようになってから大変さを思い知った。正直食生活は偏ってるし掃除も適当になってしまっている。なんとかしなきゃ…
そう思いながら、家の鍵を開け………え、開いてる?嘘でしょ、忘れてた!?
「やっちゃったな……まあでも大丈夫だろ…」
と楽観視をしながらドアを開けると…
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「ぎゃああああああああああああああ!?!?」
人がいた。特筆すべきなのはその格好。一目見ればわかる、メイドだ。というかなんで、いやなんで…メイド?ご主人様…?
「んんっ、えーっと、これはまた斬新な格好をされた泥棒さん…ですね?」
「違いますよ、何をおっしゃるんですか賢二様」
「…?俺の名前を知ってるんですね?あの、どちら様で?」
「申し遅れました。私、これから賢二様のメイドをつとめさせていただきます。神崎絵里奈と申します」
ぱっと見俺よりは上…20歳くらいか?黒のロングヘアーで俺の170センチある身長とほぼ同じ高さ…でも腰の位置が全然違う、足長すぎだろ…
顔立ちも大変端正で、綺麗な人だという感想がまず出てくる。
メイド服はいわゆるアニメで見るようなもので、ワンピースにミニスカートのタイプだ。フリル付きエプロンにヘッドドレスもつけて、まさにメイドって感じ。まあそんなに知識があるわけじゃないけどな。
白のニーハイソックスとの間の絶対領域に目を奪われながらなんとか会話を続ける。
「…あの、鈴音の…ですよね」
「はい。鈴音お嬢様にお仕事を頂きまして、本日から賢二様のお世話を…」
「それほんとにおたくの鈴音さんでした?」
「もう、冗談はよしてください、ふふ。あと敬語もおやめください、私は従者ですから」
いやいや、あの毒舌性悪女が…?何か理由があるはずだよな………あぁ、わかった。監視だ。というかそれ以外あり得ないな。俺は家でもゆっくりすることができなくなるのか…
「まあ、なんだ。よくわからないけどとりあえずよろしく。ちょっと色々聞いてみたかったんだよ」
注意は怠らないようにしないとな…下手したら後ろから刺されかねん。なんてったって家の壁を(略)
「はい、よろしくお願いします。じゃあ、ひとまずは中に入りましょうか、玄関でずっと話してるのもあれなので…」
「ほんとだよ、というかあなたの家っぽく言ってるけど俺んちだぞ」
…と、うちに監視役のメイドさんが来ましたとさ。あれ?なんか俺、ちょっとラノベ主人公ぽくないか!?