出会い
天河鈴音との出会いは高校入学前の3月に遡る。
受験は終わり、俺は新たな学校生活に思いを馳せていた。無事第一志望の高校に受かることができたのだ。志望動機?家が近いのと学費が安いからだよ。
「賢二、ちょっと来てくれるか」
「どうしたの?父さん。真面目な顔して」
「まあいいから、ここ座って」
その日は3月中旬。桜が咲き始め、卒業式も終わって学生は遊び呆けている時期だ。この時期に宿題とか出る学校あるらしいぜ、恐ろしいわ。まあうちのことなんですけどね…
「…大事な話があるんだ」
現在夜の7時頃。夕ご飯の準備をしようとしたときだった。父さんはいつになく真剣な表情をしている。思わず俺も背筋が伸びた。
「父さんの会社なんだがな、実は倒産しかけてたんだ」
…ダジャレ?なんてことを言う空気ではないようだ。なんだろう、倒産しかけてたってことはしなかったということなのに、何故か嫌な予感がした。
「それでな、うちの倒産寸前の会社を……天河グループっていううちより……全然大きな企業が助けてくれたんだ」
これは買収され傘下に入ったみたいなことなのかな。これで父さんは職を失わずに済んだ、と。
「…うん、よかったね」
実際いいのかはわかんないけど。
「ああ、純粋な資金援助だけじゃない、人材や機材の補助まで手厚く……うん…」
と、言いよどむ父さん。どう考えても話が出来すぎている。…というか天河グループってなんだろ。自分の世間知らずのせいか初耳だった。
「…条件を突きつけてきたんだよ」
「はぁ、条件」
だろうな、それについての相談か。
「そこの社長の娘さんがな……賢二の通う高校に来るらしいんだがな……」
…うん。まあうちってそんな人が来るようなお嬢様学校みたいなとこじゃない、普通の高校だけどなぁ、何故だろう。というかさっきから父さんの言葉、めちゃくちゃ歯切れ悪い。
「それがどうしたの?庶民の生活を教えてやれとか?そんなわけないかあはは…」
その時だ。ああ、これは一生忘れることはないだろう。いきなり目の前の壁が木っ端微塵に吹っ飛んだ。カラカラの笑い声は爆音にかき消され、しばらく苦笑いの顔を変えることすらできないまま、父さんと目が合った。
「「………え?」」
揃って言っちゃった。というか待って、父さんの座っていた椅子が自分のすぐ隣で無惨な姿で転がっていた。父さんは尻餅をついた状態で、彼も苦笑いをしていた。
「父さんだいじょ…」
『おい、白鷺賢二はいるか!!!出てこい!!!』
拡声された機械音声が家中に鳴り響く。なんかぞろぞろと壁の外から人が入ってきてるんだけど。どういうこと…
「……くっ、父さんは大丈夫。ちょっとびっくりして転んだだけだ。怪我はないよ」
「あぁ、そう……まあそれならいいんだけど……」
良くはねぇよ。ウチの壁壊されてんじゃコラ。とは言っても怪我がなかったのは不幸中の幸いだろうか。椅子が偶然にも盾になったのかもしれない。
『おい白鷺賢二!』
うわ、メガホンを持った背の高い男が目の前にいた。というか人の目の前でメガホン通して喋んな。
「…俺です。なんですかこれは」
「…お迎…えが来た…らしい…な…」
「え、父さん死ぬの?俺が連れてかれるの?どっち?」
「ふっ……どっちだろうな」
『君たち、余裕だな…』
メガホンマンが軽く呆れてる。つーかメガホンとれよ。うるさい。
「君が賢二君だね、ちょっとついてきてもらうよ。何も心配しなくていい。壁は直させてもらうし家具も新しいものを用意させてもらうから」
「いや…違う、なんか違うよ!これからの自分が一番心配なんだよ!」
「ん?君は第一志望の高校に受かったのだろう?何が心配なのだ?」
「正気かお前。…知らない人にはついていっちゃいけないってパパとママは言ってたもん!」
「大丈夫だ。君のパパは私のことを知っているよ。だからついてきなさい」
「仮に知っていたとしても家をぶっ壊された人についていけるわけ…」
「…フッ。お前ら!確保しろ!」
「えっ」
そしてそこからは覚えてない。何か首あたりに痛みを感じた後、意識を失ってしまったようだ。きっとアレだろう、ストンッてヤツだろう。俺でなきゃ見逃し…って俺が受けてるんだわ。
――
目が覚めると、そこは……、無機質な大部屋だ。白い天井、白い壁、並べられたテーブル…形容し難いが、強いて言うなら会議室みたいなものだろうか。俺はその部屋とはミスマッチなベッドの上で寝かされていた。
その時丁度、扉が開いた。誰かが入ってきたようだ。
「…あら、起きたのね」
「………!?」
入ってきた女性はおそらく自分と同い年、いや年下の少女。だが…
かわいい子だなぁ………
「はぁ?」
口に出ていたらしい。まず目を引かれたのは輝くような赤い髪の毛だ。そして大きな赤い瞳とそれに反してとても小さな顔。そしてつい口走ってしまうくらいには非常に顔立ちが整っており、誰が見ても美少女と言うだろう。その蔑むような目があまり怖くないのは背がまだ小さいせいか。
「…あまりじろじろ見ないでくれる?」
「あ…すみません」
かなり高圧的な……オトナな話し方をする子だ。
「…まあいいわ。あなたが白鷺賢二ね。私は天河鈴音よ。よろしくね。」
「あ……よろしくお願いします」
というかあれ、まずこれどういう状況?
分からないことが多すぎてきっと額には?マークが浮き出ていたのだろう、天河さんはため息をついた。
「…うん、そうね。早速で悪いのだけど、ついてきてもらえるかしら?」
とりあえず素直についていく。ちゃんと自分の靴も下に置いてある…そういえば財布とか鍵とかどこだろう…?そう思っていると、着いたのは…ホール?コンサートでもするの?
「いいかしら、今から流す動画を見てくれる?それで全てわかるわ」
コンサートではないのは知ってた。
…ほう、これで倒産寸前父さんと家の壁爆破事件の謎と少年拉致事件の真相がわかるってわけね。見てやりますよ、ええ。
「…それじゃあ、流すわよ」