お弁当作戦〜中編〜
作戦当日の朝、登校前に賢二は鈴音の家に来ていた。
「そういえばあなたのお父様に会ったわよ。作戦の人払い役に参加してくれるらしいわ」
「は?うちの父さんが?何してんだよ」
「あはは…結構乗り気で私もびっくりしたわ」
以前ここで話し込んで遅刻したことを反省し、歩きながら話し始めた。父さんとは連絡は取っているものの社宅に移ってから会ってはいない。それにしても変な仕事をさせられてるな…。
「まあ、とりあえずその件は置いといて作戦の確認だが……弁当はちゃんと作れたんだよな?」
「もちろんよ。完璧すぎて監督していた絵里奈は泣いてたわ」
「あの絵里奈がか?それは凄いな」
過保護なだけだろうと思うが。
「昼休みに誠也くんを呼び出して渡すのよね」
「ああ、中庭にな。あそこは左右の校舎に挟まれているからギャラリーを集めやすい」
「でも中庭には入ってこないように業者に扮したうちのスタッフが通行止めする、と」
「そしたら弁当をこのやり過ぎなシチュエーションで渡すことで全校生徒に鈴音と誠也の関係を匂わせる。これが作戦だ」
「素晴らしい。成功したら褒めてあげるわ」
「それは別にいいですけど」
しかし、この成功したらというのが問題だ。鈴音は今でこそ会話を成立させるレベルまでには達したが、あがり症なことには変わりない。お嬢様態度に関してはまだ良いにしても何も喋れず弁当も渡せなくなるなんて事態は避けなくてはならない。
「これをつけてくれ」
そう言って手渡したのはワイアレスイヤホン。
「これは…イヤホン?」
「絵里奈にもらった。俺が言うことを指示するからそれに応じてもらう」
「別にそんなことしなくてもいいのに」
こういうの使ったドッキリ番組あったよなぁ。まあ使えるものはどんどん使っていかないと、鈴音がちゃんと出来る気がしない。当の本人は不服そうにしているが、しぶしぶ受け取った。
「にしても凄いな、天河グループ。なんでも出来るじゃん」
「まあそんな大したものじゃないわよ。私が甘やかされてるだけだわ」
「確かに」
「確かにじゃないわよ!」
話しながら歩いていると学校が近くなって来たので一応距離をとって俺は先に走って登校した。親戚同士という話はまだ知られていないため余計な噂を広げたくないためだ。これは今日の作戦のためでもある。
教室に着くとすでに誠也と百合は登校していた。
「おはよう!」
「おは…「あ!!賢二くん。ちょっと…」」
誠也にカットインする様に百合が前へと乗り出し、こっちに向かってきた。そのまま教室の隅まで追いやられる。
「なになになに急に迫ってきて。俺のこと好きなの?」
「冗談はいいから。昨日のL○NEの説明をしてほしいんだけど」
普段は誰にでも優しいと評判の百合もこんな冷たい声出すんだな…
こちらをみている誠也はキョトンとしているが、声は聞こえていないようだ。
それで、昨日のL○NEとはこれのことだ。
『誠也の問題を解決する案を考えた。明日鈴音と決行するから、見ていてほしい。あと、明日は誠也に弁当作らなくていいぞ!むしろ俺に作ってくれ』
「返信来なかったからわかったもんだと思ってたけど」
「言いたいことは伝わったけど、直接聞いて詳細を知りたいの」
「それって俺に作ってくれってとこ?一度食べてみたいと思ってたんだよな」
「そこじゃなくて…!ここ!」
百合はスマホを指差して見せてきた。細くて綺麗な指だな…
「誠也の問題を解決する案か」
「うん。どうやって…」
「誠也の考え方さえ変えればどうにでもなるって話さ。あいつの恋に対する恐怖の正体。それは…」
俺は誠也の方を向く。釣られて百合もあちらを向く。誠也は相変わらず表情は変えないでこちらを見ている。何か気にならないのだろうか、こちらでコソコソと話していることに。何も気にならないのだろうか。
「傲慢、そして自惚れでしかない」