突然に
「こんにちは日菜さん。ぼくは豆腐小僧、平成時代に産まれて令和をこれから彷徨っていく妖怪だ。」
目の前に紅葉豆腐をもった私より頭一個分大きい、竹の笠をかぶった男の子が立っていた。そしてなぜか、私の名前を知っている。
「君が妖怪なのは別にいいんだけれど、なんで私の名前を知ってるの?」
「そりゃあ、君が産まれた時に一緒に産まれて19年間君に憑いて来たんだもの……名前くらい知っているさ。」
笠を外しながら淡々と告げられ此方に光がない切れ長の目を向けてくる。でも何故今更私に見えるようになったのだろうと思い問いかけると
「もちろん君が僕のお嫁さんになるのに相応しい歳まで待っていたのさ。さっ、この豆腐をお食べ?そしたら君はこちらの妖の世界に来れる。」
身体を動けなくなるよう金縛りにあわされ、青春ドラマでは胸がときめくであろう顎クイを恐怖の中してやられ無理やり豆腐を口の中に入れられ飲み込むまで口を手で塞がれた。
苦しくなるのは当然で、勢い任せで目を瞑り豆腐を飲み込むと次の瞬間地面が揺らぎよろめいた私を豆腐小僧が支えていた。
「っ…………ここは…??」
揺らぎが治まり、目を開けると元いた風景とは違う近未来な風景が広がっていた。
「目覚めたかい?ここが僕達妖怪の世界だ、想像と違うでしょ?」
「古びて錆びたような所とはおもっていたけど、真反対だ…」
妖怪だって人間と同じように進化していくんだからねーとすこし膨れてデコピンを食らわされた。
「アッ!!コンナトコロニイタンデスネ!サガシタンデスヨ!!!」
足元でぴーぴー騒いでいるのが聞こえたので見下げると、幼児の手のひらぐらいの小さい烏天狗がいた。それを豆腐小僧が拾い上げ、すまないねと撫でると満更でもない顔をして私に振り返り
「コチラガアナタサマノオヨメサマニナルカタデスカ???」
「なっ、なんだか急に連れてこられちゃって。いやお嫁になるなんていってないんだ…」
「そうそう。烏天狗。この子が僕のお嫁さんになる人さ。美しい人だろう?」
「トテモウツクシュウオモイマス!!!ヒトミモトテモスンデオリ、テキザイデゴザイマス!!」
手のひらでぴょんぴょんと跳ねながらしゃべり私の肩に乗り移りすりすりとしてくる。一瞬でも可愛いと思ってしまったので私の負けだ。
「お嫁になるって…向こうの世界もあるんだけどそれはどうなってるの?」
「ああ心配いらないよ。君はあの道沿いで上から落ちてきた看板に潰されて死んでいるからね、君の魂だけ先につれてきたのさ。」
無理やり豆腐を食べさせられている間私はあの道沿いにあった大きな看板に潰されていたんだと思うと、なんだか震えてきた。でももうあちらには戻る場所がないとも知らされたので何がなんでもここに居るしか術がないのだと知った。
「震えてしまうのは分かるけど僕についてきて。僕の育ての親に顔合わせしよう」
そう言って私の手を取り強く握られ、彼の親の元へと連れていかれた。