Data1. 電波障害
恋をした。
それも、夢の中で。
薄く張った水の上に静かに立っているその人はとても綺麗な人だった。
彼女と言葉を交わすことはない。
俺は夢の中でただただ彼女を見つめるだけだった。
彼女の声を知らない。笑顔を知らない。仕草を知らない。
けれど、俺は彼女に恋をした。
胸に伝えようのない熱さを抱きながら、目を覚ます。
【Data.1 電波障害】
カーテンの隙間から差し込む朝日のまぶしさに目を細め、夢に出た想い人の美しさを思い返し、ほう、と息を吐く。
そして夢の住人に恋心を抱く自分のイタさに頭を抱えた。
アイドルやアニメキャラに恋をするのとはまた違う。
誰かに打ち明けることも、想いを告げることも、諦めることも決してできない。進むことも退くこともできず、立ち止まったままの感情になんのけじめもつけられないままじりじりと焦がされ続けた感情は、俺に吐き気と自己嫌悪をもたらしそこに居座り続ける。
普通に、常識的に、客観的に見て、俺って気持ち悪い。
肺にたまった空気を限界まで吐き出して、ようやく布団の中から抜け出した。
重たい体を動かしてだらだらと制服に着替える。自分の髪もなんとなく手ぐして終わり。髪が少し伸びている。最後に切ったのはいつだっけ、などと考えながら一階のリビングに降りると、母さんの雷が落ちた。
「もうトスティ! いつまで寝てるの! ああ、もう制服もきちんと着なさい!」
ぐちぐちと小言を並べる母さんに聞こえよがしに舌打ちして、用意された朝食に手をつけないで家を出た。
まだ八時前だというのにじんわりと汗をかくほどに暑い。
今すぐ帰りたい。クーラーの効いた部屋で布団に入って夢の中に戻りたい。ただ彼女をみていたい。
彼女の声はどんなだろう。彼女の笑顔はどんなだろう。彼女のことを考えるだけで一日を棒に触れる自信がある。
頭の中で彼女の姿を想起して、俺は自分の頬を叩いた。
トスティ=バークライト 15歳。
普通に、常識的に、客観的に見て、やっぱり俺って気持ち悪い。