第八話 わがまま
何故か授業が本編みたいになっている件
ある程度落ち着いたらフィリックス先生の授業は
ほとんどなくなります
すべての話に見所があるわけでもないので副題が要らないのではないかとも思う次第であります。
授業が開始し、挨拶の後にそれぞれに手渡されたボードによって皆がモンスターを呼び出していた。
フィリックス先生のそれとは違う、一匹専用のものであるが横に接続部があり、デバイスとくっつけることができるようだった。
指示を受け、呼び出したセツナのモンスターは何故か丸まって動かなかった。セツナは怪しく思ってつついたりしてみたが、うんともにゃーとも言わない。
セツナはきっとセツナが別のモンスターへと変えたいと願ったから愛想を尽かされたのだろうと思い、そのままにしておくことにした。
「今日の授業では皆にエリアに出てもらおうと思っている。勿論、俺一人では全員の面倒は見られないのでエリア1にしか行けないが、そこで少しモンスターの生態を調べてレポートしてもらうから、そのつもりでな。」
「その上で必ず守ってもらうルールを三つ伝える。
まず、絶対に野生のモンスターを刺激しないこと。エリア1のモンスターはほとんどがデュナミス、たまにいるエネルゲイアも草食性で大人しいやつが多いが、皆臆病で警戒心は強めだ。
もし逃げていったやつを追いかけたりすれば、襲い掛かってくることもあるし大人しいといってもモンスターであることを忘れてはいけない。友好的なやつ、無関心なやつを探してそれをレポートするようにしてくれ。」
「次に、エリア1から出ないこと。勝手にエリア2に進んでモンスターを失って帰ってきたとしても学校側は一切責任を負わない。ルールも守れずにわざわざモンスターを失うようなやつに新しいモンスターを手配するほどお金も義務も人情もない。
そして、はっきり言っておくと、エリア2にプロも連れずに突っ込んで喪うのがモンスターだけで済むと思うなよ。」
モンスターを失った時点でプロテイマーや生徒としての資格をも失うのだが、ジン先生が指摘していることはそうでないことはセツナにもわかった。フィリックス先生にも忠告されたことでありそれだけ危険なのだろう。
逆に、その危険性に興味がそそられる生徒もいるのだろう。だからこそ毎年エリア侵入する生徒が後を絶たないのだから。
「最後に、何かあった場合にすぐに俺に報告、相談することだ。実地研修だから怪我をしたりすることもあるだろうし、そうでなくてとも初めての場所に行けば不思議に思うことの一つや二つあると思うから、どんどん質問してくれたらいい。
ここまでのルールを守れる約束ができるなら同意書にサインしてもらう。この同意書では約束を守れなかった場合は、こちらは何も保証しないことも同意してもらう。」
渡された同意書をもう一度読み直して署名した。好奇心で未来を捨てるほどセツナはバカでないと自負していた。
全員の同意書を確認したジン先生と共に生徒達はテレポーターからエリアへと足を踏み入れた。
そこは広い草原であった。少し遠くには森林が見える。そしてそこかしこにモンスター達が蔓延っていた。皆デュナミスであると言われた通り他の生徒が連れているような丸みを帯びた生物ばかりであった。
今回の授業内容であればモンスターを連れてくる必要はなかったのではないかとセツナは多少の疑問を感じたが問うまでもなく、その答はやってきた。
ジン先生に個別行動を指示されるや否や、セシルのウィンガルがセツナの方に飛んできて頭の上に乗ったのである。
「あっごめんねセツナ君。ウィンガルちょっと はしゃいじゃっててさ。人それぞれだけど皆のモンスターも初めてのエリアに高揚してるみたいだよ。」
「それでもセシルほどじゃねぇけどな。うちのドラコは至って落ち着いてるぞ?」
「いや…ノクシャ…。落ち着いてるっていうか…『その状態』だと大人しくするしかできないよ…。」
尻尾を掴んだ状態でノクシャに持ち上げられたドラコを見ながらセツナが言う。宙吊りとも言える状態であるのにドラコはすごく嬉しそうであった。
「いやこうしてないとこいつ土を喰い始めるんだよ…。」
「それを落ち着いてると言えるのかい?それを言うならセツナ君のモンスターの方がその言葉に相応しいと思うけど。」
確かにセツナのモンスターは落ち着いてる。落ち着いて、丸くなっている。チラリとこちらを覗いたり尻尾をパタパタさせているので特別体調が悪いというわけでもないだろう。
「今日ずっとこの調子なんだ。不貞腐れてるんだと思うんだけどね。」
「不貞腐れてる…か。ボクはそうは思わないけどね…。」
「どういうこと?セシル?」
「気を悪くしないでほしいんだけど、ボクには寧ろ甘えてるように見えるよ。というか他のデュナミス達と同じ様に見てもらおうとしている、というかな。」
丸くなっているのがデュナミスの形そのものを模したものである、というのがセシルの持論である。
「この子はセツナ君に育ててほしいんじゃないかな…。」
「…そうかもね…。」
『それを知ってどうだと言うのだ。』
セツナはまだモンスターを変えたいという気持ちを強く持っていた。
ただの意地だったのかもしれない。周りの生徒と対等にあるため、アンフェアだなんだと御為倒しを言ってはみたが、セツナにはわかっていた。すべてはセツナ自身の為だった。
例えば同じクラスでなければ。例えば同じコミュニティでなければ。例えばスタートラインが同じであったならば。
セツナは他の生徒とも仲良く『普通の』学校生活を送れたのではないだろうか?
そして、例えばセツナと出会いさえしなければ、セシルもノクシャも皆と仲良くできたのではないだろうか?
自分のせいでノクシャやセシルの生活を歪めた負い目から逃れたい、そんな『わがまま』であった。
しかし昨日のフィリックス先生の話を纏めれば、どうあってもセツナは特別であるらしく、昨日のジン先生の話を纏めれば、逃れるための道はテイマーを諦めることだけだというジレンマにセツナは陥っていたのだった。
「そんなことより、ちゃんとレポート書くための対象を探そう。」
「そんなことって…。セツナ君にとって大事なことなんじゃないの!?」
「…。」
「おいセシル、セツナが今はその話はいいって言ってるんだ。それに関しては俺達がとやかく言うことじゃねぇよ。さっさとモンスター探そうぜ。」
「うん…そうだね…。」
「ごめんね、セシル。」
「ううん…ボクはいいんだけどさ…。」
「あぁもう、こんな暗い空気で授業したって楽しかぁないぜ?そこのアホ鳥みたいにテンション上げてこうぜ。」
相も変わらずセシルの上をウィンガルはくるくると飛び回っていた。その様子を見ればセシルも『アホ鳥』に関して文句のつけようがなかった。
しかしそれはとても楽しそうで、見ているだけで色々とどうでもよくなった。考えるのが『阿呆らしく』なった。
セツナはそれを見て、一度なにも考えずに今まで目を逸らしてきた『それ』に目を向けた。ただの一匹のモンスターとしてではなく『それ』として。
『それ』は、なるほど確かに甘えてるようにも見えた。セツナが『それ』の前に屈んでみると、『それ』は擦り寄ってきた。そして大して寒くもないのにそれは何故か微かに震えていた。
ただそれだけで、セツナは『それ』からの愛情とそれ以上の声に出来ない恐怖を受け取った。
そしてただそれだけで、セツナは強く思い知らされた。
セツナがモンスターを変えることで一番被害を受けるのは他ならない、『それ』であることを。
昨日先生が言っていたことだ。『ちゃんと自分のモンスターと向き合ったのか』と。
それに対してセツナの返した答は『エネルゲイアであるという事実確認はちゃんとした』というものだった。
自分のための『わがまま』であることを自認したセツナには『それ』の強い思いは、あまりにも鋭く重く突き刺さった。
わかっていたことだった。
だからこそ向かい合うことを怖れ、そこから目を背けていたのだから。
セツナの中でもうほとんど結論が出てしまっていた。それでもそれをすんなり認め、素直に立ち振る舞えるほどセツナは大人ではなかった。
セツナは立ち上がると何事もなかったかのように三人で歩き始めた。今までのように『それ』は後ろからセツナの後ろから着いてくるだけだった。
寂しそうな目をしながら。
三人はそこらにいるモンスターに何度か接触を試みたが、すぐに逃げられてしまった。
三人纏まって行動しているから良くないのだろうという判断のもと、三人は結局別々にモンスターを探すことにした。
草原地帯を見て回った結果、モンスターの種族が大きな偏りを見せていることをセツナは考えていた。
地形が地形だからだろうか。猛獣族、植獣族がとても多く、悪魔族や龍神族なんて一匹たりとも見付かっていない。
「猛獣族と植獣族の次に個体数が多いって言ってたのってなんだったかな…。」
セツナは静かに呟いた。
猛獣族はセツナのことをあまり意に介さず好き勝手に動き回るものと、目があっただけで一目散に逃げ出すものが殆どでじっくり見るのには向いていない。
植獣族は植獣族で(バレバレだが)バレないように地面に埋まっているモンスターが多く、引っこ抜くところから始まるのだが、一匹引っこ抜いた時に泣き出してしまったので、ばつが悪くなり地面に埋めてきたところである。流石に泣いているモンスターを書くのは心が痛んだ。
セツナがぼんやりしていると急にセツナのモンスターが駆け出したので、セツナはハッとして走って追いかけた。
『逃げ出したのだろうか?』ということに不安を覚えている自分に気付きながら、必死で追いかけた。
走って走って追いかけて追いかけて。セツナは全力に近い速度であったが一向に追い付かない。流石に四足歩行であり体格も大きなモンスターともなれば人間よりも遥かに早かった。
遥かに早いにも関わらず、広がらない互いの距離が逃走でないことを示していた。
若干遠くとも嫌でも目立つ大きさをしたモンスターなので見付けるのはそこまで難しくはないのだが。
セツナはそこまで体力がある方ではない。ただテイマーは現実的に基礎体力が必要な職業であるので今走らされたことによって、セツナの日課が一つ増えることになった。
へとへとになったセツナが追い付いたとき、そこにはセツナのモンスターに乗っかっている一匹のモンスターがいた。
丸い体に耳と尻尾だけがついた猛獣族。毛色こそ違うが、セツナのニャーバンクルと同じ様に猫耳と猫の尻尾であった。
ジン先生がモンスターを連れてこさせた理由に対して、ここまで来てやっとセツナは合点がいった。ウィンガルの姿を見て、モンスターを楽しませるためだと思っていたが、そうではなかったらしい。
モンスターを介して、モンスターをレポートする為だったのだ。
セツナのモンスターが座ると上に乗っていたそのモンスターもセツナの前に降りてきた。しばらくセツナの方を見つめた後、そのモンスターはセツナのモンスターに包まれるように眠り始めた。
セツナもそっと座り込み、それからそのモンスターをしっかりとレポートした。
細かいデッサンと肌触り、温度、大きさや動いていたときの動きの特徴まで、書ける限りのことを書いて、起こさないようにとそっとそのモンスターの元を去り、ジン先生に提出した。
「アカツキか。割と時間がかかったじゃないか。」
「すみません。ちょっと色々ありまして…。」
「まぁ、大事なのは早さじゃなくて内容だ。手を抜けば直ぐにわかるからな。他の生徒は既にモンスターを牧舎に預けて、教室に戻るように指示してある。今日の授業はここまでだ。アカツキもなるべく早く戻るようにな。」
「僕が一番最後ですか?」
「いや。あと二、三人残っている。定刻までに帰ってこなかったら困るからちゃんとチェックつけるんでな。」
「スライフ君とオーヴェン君はもう戻りましたか?」
「あぁ二人とも教室に戻ってるはずだぞ。」
「そうですか。ありがとうございます、先生。」
牧舎にモンスターを預けたあと、教室に戻ったセツナはノクシャとセシルを探した。
話してる二人のところへ向かい話しかける。
「ようセツナ。戻ったか。」
「今、二人で何話してたの?」
「それなんだけどよ。さっきの授業でどんなモンスターをレポートしたのかって話をしててな、俺はそこら辺に埋まってた芽が出た種みたいなシードリンっていうやつを、引きずり出して書いてたんだけどさ。それをセシルはひどいとか言うんだぜ?」
「…ノクシャ。そのモンスター、泣いてなかった?」
「あぁ、鳴いてたな。モンスターなんだし鳴くぐらいするだろう。」
「ほらね、ノクシャ君はひどいよね。」
「うん。ノクシャはひどい。」
「なんだってんだよ。そういう二人は何を書いたんだ?」
To be continued…
もう一日ぐらいはストーリー浮かんでるんですが
その先は未定
あまりにも思い付かなかったら
書き直そうと思って消した小説をあげるかもしれません
そっちは本筋がエンディングまで考え付いているので
ネタには困らない…。