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第五話 ノクシャの強さ

更新遅くなってすみません


 ノクシャは大いに困っていた。同時に相当にムカついていた。セツナのことでに自分勝手に悪態を吐いていた生徒一人をボコしてやろうと喧嘩を売ったのはいいが、その相手を擁護する生徒が数人着いてきたからである。

 形勢が不利になったからといって主張を変えるノクシャではない。寧ろ敵対する存在が増えたということはそれだけ殴りたい相手が増えたということでもあり、ノクシャの心は怒りで満たされた。


 怒りに任せ殴りかかったはいいが、結果は火を見るよりも明らかでノクシャなど風前の塵に等しかった。

 こっそりノクシャの跡をつけていたセシルは、マズいと判断し即座に先生へと救助を求めた。お陰でノクシャは軽傷で済んだのだが…。


「それで、スライフ。お前はなんで喧嘩なんかしたんだ?」

「セツナ…いえ、アカツキ君が不当に虐げられ、罵られていたのでムカついたからです。」


 ジン先生はセツナのことで喧嘩になったことは元から察していたが当人から聞くべきことであるとの判断である。


「アカツキのことでムカついたから喧嘩した。しかしな、それで何になる?お前にとってそれは友情なのかもしれないがアカツキがそれを望むと思うか?」

「アカツキ君は…いつも喧嘩を止めてました。」

「当然だろう。お前が喧嘩したことでスライフとアカツキの仲は良くなるかもしれないがアカツキ自身と他のクラスメイトとの距離は遠くなるんだからな。勝てば官軍とはいうがお前が勝ったとして、それで相手が改心すると思うのか?」

「…いいえ、そんなことはないです。」

「お前のしたことはアカツキ派と反アカツキ派という側面がより一層強くなり結果として罵られる原因を増やしただけに過ぎないんだよ。罵られていた事実は相手から確認してあるが、アカツキに非がないとも俺は思ってない。」

「正当な罵りだってことですか?そんなわけないです。アカツキ君がどう思ってモンスターを変えたいって言い出したか知らないからそんな勝手を言えるだけでアカツキ君の本心を知ればきっと…!」


「スライフが喧嘩しなければまだその事でアカツキと話していたところだろうな。どう思っているのかはアカツキから聞いているが、俺は賛同しない。」

「先生までアカツキ君が虐げられるのが当たり前って言うんですか。セツナの気持ちを知っていてそれでもセツナをバカにするんですか!」

「それで、もし俺がそうだと言えばお前はまた喧嘩をするのか?」

「…!」


「スライフ。お前もアカツキもまだまだ青いんだ。それ故に客観性を欠いている。お前はクラスメイトがアカツキがどう思ってそういう行動に出たか理解もせずに悪態吐いたことに対して憤っていたが、お前達は他のクラスメイト達の事を理解しているのか?」

「…。アカツキ君の才能に嫉妬して努力もせずにアカツキ君と自身に線を引き、勝てないと解るといなや批判する。それがあいつらです。」


「それが主観だと言っている。周りがスライフとアカツキの二人を見てどう思うか?というのが客観だ。」

「だから、アカツキ君に嫉妬しているというのが客観です!」

「スライフ。才能は嫉妬を生む事は事実だし確かにクラスメイト達はアカツキに嫉妬している。なぁスライフ、嫉妬とはなんだ?」

「妬みと(そね)みです。」

「…妬みとは、嫉みとはなんだ?それは劣等感、或いは羨望。それらに黒い感情が混ざったものが嫉妬だ。だがな、劣等感や羨望そのものが悪いわけではない。」

「だからって陰口叩くことが正しいって言うんですか!?」

「少なくとも暴力よりはな。俺が言いたいのはな、本当にアカツキのことを思うのなら暴力や暴言ではなく説得が必要だったんじゃないのか?ってことだ。」

「説得なんかであいつらが変わるなんて本気で思ってるんですか?」


「説得に必要なものはなんだ?」

「…相手を言いくるめるだけの口のうまさと言葉選びのセンスです。」

「そんな小手先だけで相手を説得できると思ってることがまず間違っているんだよ。説得に一番大事なことは、相手に対しての理解だ。相手の事を理解していないと説得したところで一方的な自己の押し付けにしかならないんだ。所謂エゴ、だな。」

「ジン先生はさっきからクラスメイトの理解についての話をしてますが、ジン先生の思うクラスメイト達の意見、感情とはなんなんですか?」

「俺も以前は似た境遇だったからわかるんだが、皆自信がないんだ。自信がないから相手を否定することで自身を肯定している。また、他にそういう考えを持つものといることで安心感を得る。弱い人間とはそういうもんなんだ。」


「弱いから何しても許せと言うんですか?弱さは悪事の免罪符ではないんですよ!それに、それをいうなら自分だってアカツキ君のような才能のない弱い人間です!」

「ここでいう弱さとは、実力の話じゃなく本質的なものの話だ。才能は過程、実力は結果であり才能の在り方は多様であることを忘れてはいけない。スライフもアカツキも、正確にはクラスメイト全員才能がない人間なんていないんだ。その才能が極端に目立ってしまったが故にアカツキは目をつけられているだけの話なんだ。」


「その理屈だと弱い人間なんていないということになります。」

「才能の有無と強さは別だ、別。才能を発揮した者はしていない者よりも強い。アカツキはそれでも異例だが、スライフお前だってそうだ。お前の不撓不屈の精神と仲間のために怒れる優しさは立派な才能だ。そして強き者は弱さを許せ。」

「ジン先生は言ってることが無茶苦茶です。俺が皆より強かったとしても、許せるわけがないじゃないですか。それに弱さで悪事が正当化できるなら誰もが弱くありたいです。」

「悪事を許せとは言わない。弱さを許せ。」

「はい?言ってる意味がわからないんですが。」

「罪を憎んで人を憎まず、ということだ。」

「それが出来るほど強い人間なんて数えるほどしかいないんじゃないでしょうか?」

「今すぐにそうなれと言うつもりはない。言ったって誰も出来ないだろうしな。ただ、そうあるように意識してほしいのさ。これからのスライフの為にな。」

「…これからの、俺のため…?」


「言っても難しいことなのは承知の上だが、この先クラスメイトと仲が悪いと学生生活がツラくなるだろうし、何より生徒達には楽しんで学校に来てほしいんだよ。」

「それは先生の都合では…?」

「いや、それもないとは言わないが、例えばスライフが物を買いたいと思ったときそれを売ってる相手と仲が悪いと売ってもらえない、暴利で売られるなんてことが有り得るということだ。テイマーは他のテイマーやコミュニティの皆と協力して生活していかないといけないし、仲が悪くていいことなんて一つもないんだ。」

「それも…そうですね。」


「教師としての願いとしてもテイマーとしての願いとしても、仲良く楽しんで学生生活を送ってくれ。今日の話はここまでにしよう。」

「あの…アカツキ君は結局どうすることにしたんですか?」

「まだ答を出せていない…が、俺とフィリックス先生は言えることは言ったつもりだ。それでも尚変えたいと言うならこちらも一考しようとは思っているが現状はフィリックス先生はともかく俺は反対だ。」

「そう…ですか。」


「なぁスライフ。」

「はい、なんでしょう?」

「本音を言えばお前もアカツキの意見に反対なんじゃないか?」

「…! どうして…そう思うんですか?」

「いやなに、アカツキの言っていることはアカツキにとってメリットとなる部分があまりにも少ない。友達の心理としてはもどかしいんじゃないかと思っただけだ。」

「俺は反対ということはありません…。クラスメイトのためにアカツキ君が損をしているのにそれを叩くクラスメイト達には思うところがありますが、友達としてアカツキ君の選択を尊重したいです。なのでどんな選択をしたとしてもそれがアカツキ君の望みなら俺としては満足です。」

「なるほどな。別にスライフにアカツキを止めさせようってつもりはないんだ。ただ、その気持ちを大事にしてほしい。正直に言って皆がアカツキに期待してるのは紛れもない事実だが、それを不和で打ち砕かれるというのはなんともやるせないからな。あと、スライフにも俺個人としては期待しているからな。」

「そんな気を遣っていただかなくても…。」

「いやいや、本当にそう思ってるんだぞ。アカツキ基準になってすまないが、アカツキにとって対等な相手がいるというのは向上心という面でもとても大事なことだし、それと同時に将来有望なアカツキに負けじと食らいついていける強さは絶対に結果になって返ってくる。そういう心の強さが龍神族のモンスターが生まれた事にも表れているしな。」


 龍神族は全体で見るとそこそこレアであり、また、ある意味で『強さ』の象徴でもある。


「さて、今日はもう遅い。気を付けて帰るんだぞ。」

「はい。失礼します。」


 ノクシャが帰ってしばらくしてから、フィリックス先生はジン先生の所へとたどり着いた。二人で話したことについて状況整理を進めているとそこへ校長が入ってきた。


「あら、校長先生。お疲れ様です。どうかされましたか?」

「フィリックス先生、ジン先生。例の件が本格的に決定したよ。明日中には手続きが終了して明後日から二人に任せることになる。頼んだよ。」

「本当に私達でいいんですか?」

「いや、むしろそこしかないかな。君達なら出来るだろう?」

「出来ないとは言いませんけど…。他の先生に恨まれますよ…?」

「あはは…。いやまぁ大丈夫だろう。そもそも比肩する相手がいないと本末転倒だからね。」

「それもそうですね。」



 セツナは誰もいないと思っていたので声をかけられたことに少し驚いていた。


「リンドさん!どうしたんですか?」

「…別にどうしたって訳じゃねぇよ。むしろツナこそどうしたんだ?ここに来るなんて何かあったんだろ?」

「…まぁ、少し。そんな大したことじゃないんですが。」

「聞かせろよ。大したことじゃなくても話せば楽になることもあるだろ?」

「そうですね…。今日、学校で初めてモンスターを皆で孵したんですが、ボクだけイレギュラーが生まれちゃったんで、取り替えてくださいって先生に頼んだら反対されちゃって。何が間違っているのかなと。」

「…先生は誰だ?」

「フィリックス先生とジン先生です。」

「フィリックスってぇとレリア・フィリックスか。…ツナ、お前愛されてんなぁ。」

「はい?なんの話ですか?」

「教師がもしその二人じゃなかったらツナが頼んだら喜んで取り替えてくれただろうって話だ。本来イレギュラーが生まれたら授業の邪魔になるから教師の方から変えてくれって頼むぐらいなんだ。生徒は勿論断るし、教師も断念するんだがな。」

「だったら尚更…変えてくれてもいいじゃないですか。」

「どうするかはツナが決めることだ。だけど二人ともツナの味方だ。それだけはわかってやれよ。」

「…はい。リンドさんはどうしてここに居たんですか?」


 セツナにとってここは特別な場所。寂しくなったとき、悲しくなった時セツナはここに来ていたのだが、その原因はリンドにある。

 小さい頃リンドとセツナはここで遊んでいたのだがリンドがテイマーズスクールに通うようになってからセツナは遊び相手が居らず、リンドが来るのをいつも待っていた。

 それ故にこの場所はセツナにとって悲しみが詰まった場所になってしまったのである。


「別にどうしたって訳じゃねぇってさっき言ったろ。」

「そうですか?僕が来たとき悲しそうな顔をしてたように見えたので何かあったのかと思ったので…。」

「…そうだな。ツナ、今朝のチャンピオンシップ決勝戦は当然見たよな?」

「はい。勿論です!惜しくも準優勝で終わっちゃいましたが来年こそ優勝、ですよ!」

「…最近全然結果を出せていなかったじいさんがなんで今年決勝まで行けたか知ってるか?」


 リンドの言うじいさんとはケセド代表のメルヴィン・レゾナンスのことである。


「え?そりゃ修行して強くなったからじゃないんですか?あとはくじ運とかもあると思いますけど。」

「今年のチャンピオンシップ、なにか変だとは思わなかったのか?」

「…なんの話ですか?」

「…じいさんしか見てないツナにはわからないかもしれないが、今年のチャンピオンシップはな、新顔が多かったんだよ。優勝者も含めてだが。」

「…それがなんですか?毎年数人はいつも新しい人が代表になってるじゃないですか。」

「今年、じいさんが決勝まで進めたのは去年のあの事故で優勝候補のモンスターが多く脱落したからなんだ。実力じゃ…ないんだ。」


「なんでそんなこと言うんですか!?確かに去年の事故でメンバーは大きく変わったかもしれません!ですが他のコミュニティの代表よりも強かったことは事実です!」

「…。」


 リンドはセツナの言葉に応じられず、黙して目を伏せたままだった。そのリンドを見てセツナは少し頭に血が昇った。

 リンドのことは尊敬しているが、同様にメルヴィンのことも尊敬していたセツナにとって、リンドの発言は聞きたいものではなかったのだ。


「リンドさんはレゾナンスさんに勝てないからそんなことを言うんじゃないですか!?」

「…! あぁ…そうだな。俺は…じいさんには勝てない…。」

「リンドさん?」


 セツナが違和感を感じたのはその時だった。リンドの性格上、セツナがリンドに対してレゾナンスに勝てないという話をすれば『いつか必ず勝つ』と返してくるものである。

 しかし今のリンドはどうだ。なにかがおかしい。


「リンドさん。本当にどうしたんですか?リンドさんらしくないですよ。」

「…。なんでもねぇよ。俺は先に帰るぜ。」

「リンドさん!」


 小さくなっていくリンドの背中をただ茫然と見送ったセツナは大樹の陰にへたりこんだのであった。

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