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第三話 初めてのモンスター

「…お前、誰だよ?」

「ノクシャ。誰彼構わず噛みついちゃダメだよ。君はオーヴェン君、だったよね?」

「あっ…はい!そうです!はじめまして、セシル・オーヴェンです。」

「僕に何か用?」

「あのアカツキ家の嫡男であるセツナ・アカツキ君が同じクラスと知って是が非でも一度話しておきたかったんです!」


 セツナをアカツキ家の子として見る人間は少なくないがこの手合いは初めてであった。

嫉妬でも羨望でもない尊敬の眼差し。それに慣れていないセツナはなんともばつが悪い思いをしていた。


「おい、オーヴェン。アカツキ家の血筋とか関係なくセツナはセツナだ。そこを履き違えるんじゃねぇよ。」

「…キミは誰ですか?」

「俺はノクシャ・スライフ。セツナの親友だ。」

「アカツキ君の友達ですか。これからよろしくお願いします。」

「セツナでいいよ。オーヴェン君。同い年なんだから敬語も要らないよ。」

「はい!ありがとう、セツナ君。ボクのこともセシルって呼んでくれると嬉しいです。」

「うん。よろしく、セシル。」

「キミのこともノクシャ君って呼んでいいですか?」

「おう。よろしくな、セシル。…セツナ、次の授業はグラウンドだろ。さっさと行こうぜ。」

「あぁうん。」


 三人でチャンピオンシップの話をしながらグラウンドへと降りていった。セシルもセツナを特別扱いこそしているが敵意がないというだけでセツナにとって大事な存在であった。


 グラウンドについてしばらく待っていると鐘がなり、教師とおぼしき人物が歩いてきた。

燃えるような赤い瞳と()けたような白銀の髪やや褐色の肌が特徴的な高身長な男性だった。色々な意味でフィリックス先生とは真逆である。


「えーこのクラスの実技を担当させてもらうことになったジンだ。よろしくな。」

「ジン・ヴァールハイトだ!座学がフィリックス先生で実技がヴァールハイト先生だなんてすごいや!」

「…お前、名前は?」

「セシル・オーヴェンです!」

「あぁなるほど…お前がオーヴェンか。お前は教師の間で結構有名だぞ?入試が異例のほぼ満点でいて尚且つそうやって教師の名前を言い当ててくるからな。」

「有名だなんて光栄です!」


 それは悪目立ちも含まれているのでは?とセツナは思ったが本人が気にしてないならわざわざ言うことでもないかと判断した。


「皆に言っておくが俺はヴァールハイトって名字が好きじゃない。だから呼ぶときはジン先生って呼んでくれ。」

「どうして好きじゃないんですか?」

「うちの家系は名門でもなければ偉業を成し遂げたわけでもない。それなのに真理(ヴァールハイト)だなんて名前負けもいいとこだろ。ま、考えすぎって言われちゃそこまでなんだけどな。」


「そんなことより、授業始めるぞー。今から全員にコレを配るから少し待ってくれ。一個5000ぐらいするから壊したりするなよー。」


 コレと呼ばれたソレはケースに入れられたただの白い球体に見えた。セツナは配られたソレをじっくりと眺めていた。直径約30㎝。こんなものが5000もするとは。


「知ってるやつもいるとは思うがコレはモンスターの卵…の卵だ。そうだな。わかりやすく言えば無精卵みたいなもんだ。コレに君達が精気を与えて有精卵にするんだ。」


 無精卵というのはあくまで比喩である。決して直接精を与えるわけではない。


「んでまぁ、精気を与えられたコレは無事孵って『デュナミス』になるんだ。その辺りは座学でモンスターの生態をやるときに教わると思うから説明はしないぞ。精気の与え方は簡単で、ただケースから取り出して両手で持っててくれたらいいから、とりあえずみんな少しずつ離れようか。全員が両手を伸ばしても当たらないぐらいの距離離れられたらケースから出してみてくれ。」


 言われた通りにケースから出してみる。ソレは持っていると少しずつ温かくなり、今にも動き出しそうですらあった。


「卵から生まれるやつは精気を糧として生まれてくるから、皆の一人一人の素質、適正に応じて姿を変える。それぞれのモンスターは授業に必須だから授業料に含まれてるが欲しくても二匹目、三匹目は卒業してからにしてもらう。」

「どうしてですか?」

「理由としては二つ。一つはモンスターのコストの問題だ。学生である君達には稼ぎがない為複数匹育てたくても卵を買うお金や維持費が払えないはずだ。お金だけなら親御さんのお金を使えばいいのだが、もう一つの理由の方が大事なんだ。」


「もう一つの理由としては最初に自分の精気から生まれたモンスターってのは歴代の誰にとっても特別な存在なんだ。あのレゾナンス選手のウィングド・ケルベロス…ポチもレゾナンス選手の一匹目なのは有名な話だよな?だからしっかりと丹精込めて育ててやってほしいんだ。」

「ジン先生の一匹目はどんなモンスターなんですか?」

「最初は悪魔族の小鬼だった。最終的には二本の刀を振り回す剣鬼になった。もういないけどな…。」

「いない?」

「死んだんだ。去年のあの事件のときに、な。だから…まぁお前らには最初の一匹、大事にしてほしいんだ。そんなことより、そろそろ皆の大事な卵が孵るはずだ。」


 ジン先生がそう言った後、数秒して皆の卵が一つずつ孵っていく。生まれたモンスターはみんなそれぞれ少しずつ見た目は違うものの共通して球体に目や口がついたような姿をしたものだということだった。


 ノクシャのモンスターは白い球体からおたまじゃくしのように尻尾がはえていて、とても大きな口が特徴的な、なんとも可愛いやつだった。飛べないのでノクシャの足元で打ち上げられた魚のようにビタビタと笑顔で跳ねている。

 セシルのは球体に両翼がついていてバサバサとセシルの周りを飛び回っていて鳴き声や羽音から鳥に近いものであることが窺えた。


 周りが皆、孵化したのにセツナの卵だけは孵らないでいた。当然セツナは最悪の気分だった。ただでさえアカツキ家として目立つ存在であるのにこんな所でまで目立つなんて気が気ではない。

 それから数分が経っただろうか。セツナにとっては数十分、数時間にも思える長い時間だった。周りの視線がセツナに、セツナの卵に向けられている。

そしてついに卵が孵った。


 中から出てきたのは周りの誰とも似ていない、ほぼ完全体の猫でありそしてかなりの大きさだった。周りのモンスターは五体満足ではない丸いものであるのにセツナのだけは明らかに猫とわかる姿をしていて『にゃあにゃあ』と嬉しそうな声をあげている。周りの皆もそれを見てザワつき始めていた。


「お前ら少し静かにしろ。授業中だぞ。」


 辺りが静まる。しかし皆の視線は依然としてセツナへと向けられていた。


「お前らに配るものがもう一つある。だが、先に言っておくが『相手の許可なく勝手にそれを相手に使わない』ってことを約束できるやつにだけにしか配らないし今後授業はさせない。それはテイマーとしてのマナーだからだ。守れるな?」


 説明もなくそんなことを言われても、という感じなのだが、どんな物であっても先生の前で守れないなんて言えはしない。

 そうして配られたものはゲーム機の様な形をしていて背面にカメラが付いているのがわかる。


「それは…まぁなんていうか、モンスターのコンディションやステータスを見れる機械だ。今は簡単な使い方だけ教えるが細かい使い方とかは説明書を家で読んでおいてくれ。」


 教えられた簡単な使い方を実践してみる。結果としてその猫はやはり他の皆とは大きく違っていることがわかった。


「画面の右の方に『デュナミス【Ⅰ】』って書いてあると思うがそれがそのモンスターの現在の成長段階だ。」


 セツナのモンスターデータにそんな記述はない。その代わりに『エネルゲイア【Ⅰ】』と表示されている。


「あとは、そのモンスターの名前や種族、あとは所持者の名前が書かれているはずだ。あとは自分で名前(ニックネーム)でもつけてやればいいと思うぞ。」


 猛獣族。ニャーバンクルLv.1♂。雷属性・魔法型。所有者:セツナ・アカツキ。

 次のページには満腹度や体調などのコンディション、その先にはニャーバンクルの説明が表示されている。


 セツナは一つの事を考えていた。その事をジン先生に伝えようと決心し生徒の間を回っているジン先生がセツナの横を通ったときにこっそりとジン先生に話しかける。


「先生、これを見てください。」


 セツナはエネルゲイア【Ⅰ】という表示をジン先生に見せる。


「あぁ…イレギュラー、だな。デュナミスじゃないのが卵から生まれるのは前代未聞だ。こいつはどう化けるか楽しみだな。」


 ジン先生も周りに聞こえないように声を落として話している。


「先生。僕は…交換したいです。別のモンスターに。他の皆のようなデュナミスが欲しいです。」

「…一度落ち着ける場所で話そうか。今日の放課後空いてるか?フィリックス先生と三人で話そう。」

「…はい。お願いします。」


 その話をしている間、猫は話していることがわかるかのように不安気に、悲し気にセツナを見つめていた。セツナには目を合わせることが出来なかった。


 その後モンスターのエサの与え方の説明がされて授業は終了した。モンスターは食事で成長し与えたエサによって能力や変態先が変わるらしくエサ選びの重要性を説かれた。


 教室に戻る途中でノクシャやセシルのモンスターをセツナは見せてもらったがやはりデュナミスであった。二人にモンスターを見せてくれと頼まれたセツナは理由も説明し、交換してもらうつもりなことも伝えた上で見せている。


 ノクシャのモンスターはああ見えて龍神族らしく、はえていた尻尾には確かに鱗がついていた。モンスター名をドラゴノートという。

性別は♀で属性は炎。ノクシャがつけた名前はドラコ。


 一方セシルのモンスターはブリージアというモンスターで猛獣族風属性である。胴体部分だけで言えばノクシャのドラコより小振りでセツナには強そうには見えなかった。警戒心の強いドラコとは裏腹に人懐こい性格がそう思わせたのかもしれない。名前はウィンガルといい♂である。


「ウィンガルってチビには似合わない大層な名前だな。」

「ガルーダみたいに大きく強くなると信じてつけてみたんですけど変…ですかね?」

「変じゃないよ。ノクシャは自分のにつけた『ドラコ』って名前が安直で恥ずかしくなって言い掛かりつけてるだけさ」

「んなわけねぇだろ!それこそ言い掛かりだぜ。この名前でドラコが喜んでるんだからいいんだよ。」

「ドラコはノクシャにだけはなついてるんだね。ノクシャに似て僕たちにはすぐ噛み付こうとしてくるのに。」

「おうおう。本当にドラコに噛ませるぞ?あれでも龍の子だからな。顎の力はかなりあるぞ?」


 そんな他愛もない会話をしながら教室に戻ったセツナ達はピリピリとした空気に包まれた。周りの皆がヒソヒソ声でセツナに指を差したりしながら会話している。はっきり言って無礼千万である。前にもこんなことはあったがここまで直接的ではなかった。


「おいてめぇら、どういうつもりだよ。」

「ノクシャ!いいんだ、ほっとこう。」

「セツナ君。ボクは喧嘩しないけどノクシャ君と同じ気持ちだよ。」


 丁度のタイミングでフィリックス先生が入ってきたため皆黙ってしまった。セツナは事勿れ主義者的性格をしているためなにも起こらなかった事に安堵していた。

 ホームルームが終了し帰宅時間となり、フィリックス先生がセツナに放課後職員室へ来るようにとセツナに伝えて戻っていった。


 ノクシャとセシルに別れを告げてセツナは職員室へと急いだ。皆の視線が痛かったからである。セツナが居なくなった後、他の生徒達はセツナの話をしていた。


「おい、聞いたか?アカツキのモンスター、デュナミスじゃなかったらしいぜ。なんでもエネルゲイアっていうデュナミスより一個変態した姿のモンスターらしい。」

「えぇ!?ほんとに?流石血統がいいだけあるわね。」

「そんでもってアイツは皆と同じデュナミスで十分だから変えてくれって先生に頼んでたんだよ!マジでアカツキって何様のつもりなんだろうな。」

「はぁ?調子乗りすぎじゃない?ほんとムカつくわね。」


「本当にムカつくのはてめぇらだよ!セツナの気も知らないで勝手なことぬかすな!」

「なに言ってんだ。スライフも俺達と同じ『持たざるもの』だろうが。腰巾着(しんゆう)が聞いて呆れるぜ。お前って名前の通り害悪人生(ノクシャスライフ)だよな!」

「てめぇ喧嘩売ってんのか?上等だ、表出ろよ。」


 そんな経緯で喧嘩になっていたことをセツナは知らない。


To be continued…


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