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第十二話 夢への足跡 〜絆 (最終話)

最終回までお付き合い頂きました皆様に御礼申し上げますm(_ _)m


本小説に於けるキーワードは「絆」です。

顔も素性も分からない者同士が集うサイバースペースで、果たして「絆」を結ぶ事が可能なのか……


私は、そうであったら良いなという願望も込めて、それは可能だと信じます。本小説に共感頂ける方が居るならば、その方々が持つ「絆の欠片」を集めて立証してみたいものです。

いつか雲外蒼天を再結成した暁には、「絆の輪」を共に創り上げましょう。 遊木風



始めたきっかけは……もう覚えてない……


初めて敵中突破スキルを入手した時は興奮に駆られた。


初めての攻城戦は疑問符の嵐の中で傍観した。


協闘で解散があると自分のせいだと思った。


合戦開始直後なのにあと少しと家族に伝えた。


初めて軍師になり “重圧と焦燥” に襲われた。


初めて盟主になり “絆” の大切さを実感した。


メンバーの死を機に “絆” の重さを知った。



炎舞から離れて半年が経ったにも関わらず、未だ寂寥感と虚無感の波の上にユラユラと漂い流され続けている。


また、あの “絆の輪” に戻りたい気持ちと、それを引き留める事情の間でたゆたいながら……



デイリンとトンチは、リアルと炎舞の狭間で足掻き、葛藤の中に悩みもがきながら、飛翔の為の翼を懸命に作り上げ、一瞬深く沈み込んだ後に勢いよく空に駆け上がっていった。


燦々と太陽が輝く蒼天の中、勇躍して飛行する「2羽の鷹」が遊木風には眩しく映った。


「戦・雲外蒼天」という “絆” の容れ物が空っぽ”になったあの日以降、“絆の欠片” を持った仲間達は散り散りとなり、新たな居場所で其々の日常を営んでいる。




平成28年3月22日 22時の合戦の終了後、“main lounge”と名付けられたlobiのプライベートグループに遊木風はを書き込みをした。


「【連絡】事情により急遽ですが、4月を以って引退する事にしました。 後継盟主に関しては別途お知らせします。よろしくm(._.)m」


遊木風からの突然のカミングアウトに付き合いの長い古参メンバーは騒然となった。


『いきなりかい? どうしたの?」


「いつもの冗談……でしょ?」


「蒼天どうなんの?」


「なんかあった? また小松姫引いたの?」


「俺が参戦率悪いからか〜(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」


遊木風は問い合わせが合った主要メンバーに事情を説明した。その内容は引退を決意した事を理解するのにやぶさかでないものだった。


遊木風は極めてプライベート性が高い事をメンバーに話するのを躊躇したが、此れまでの信頼関係を踏まえ伝える事にした。


遊木風の母親である淳子が脳梗塞で倒れたのが約1ヶ月半前。現状では後遺症の為に左半身が不自由になり、リハビリ専門の病院に転院して現在も治療を続けていた。


病院から家の中のあちこちを写真に撮る様に指示をされた。


手摺りの取り付け場所の確認や、車椅子の動線確保等の観点から専門家のアドバイスを仰ぐ為だ。そして程なくして退院を余儀なくされ、通院の形でリハビリを継続してゆく事となった。


「4月14日 22時の合戦出て引退するよ。翌日にお袋が退院するから忙しいんだ。しかし、14日はたまたまルイさんの命日だけど、因縁めいたものを感じるよなぁ」


遊木風からの伝達に呼応して、zupi、ゆいP、デイリン、トンチ、シロ、PANDAの5名が会話の輪に入ってきた。


(zupi)「なんとか継続は出来ないの? 出来ないよね。愚問か(-ω-、)」


(遊木風)「安定して参加は無理だな」


(ゆいP)「そんなに悪いんですか?お母さん」


(遊木風)「いや、もう大丈夫。回復する迄暫くは此れ迄のようにはいかないから、私もサポートする事にしたんだ。この前病院に面会に行った時にリハビリしてるとこ見に行ったんだよ。積み木みたいなのを右から左に移動させる訓練をやってたんだが痛々しい感じだった。

リハビリ終わったらエレベーターの所まで歩行器働いながらゆっくり歩いてた。赤ちゃんが使うみたいなやつでな」


(zupi)「そりゃ大変だね」


(遊木風)「門仲のマンション引き払って浦安の実家に戻るんだ。此れを機会に前から先輩に誘われてたネットの仕事を手伝う事にしたんだよ。今の会社を辞めてね。ネットユーザーに訴求するような文章書けなきゃ仕事にならないから暫く苦労しそうだよ。自宅で出来る仕事が多いから助かるけどね」


(PANDA)「なるほどですねぇ……」


(遊木風)「いつか戻れたら良いけど.......本当に辞めたらきっと寂しいだろうなあ」


(シロ)「また戻ってくださいね!」


(遊木風) 「了解! ところで、次の盟主なんだけど.......推薦したい人いるかな、みんな」


(シロ) 「モビさんに1票......入れたいとこだけど居ないですからね」


(遊木風)「そうだね……ルイさんの1周忌迄は1枠空けて待とう。それ以降は区切りをつけて新しい人を入れたらいいよ」


(zupiI)「トンチでいいじゃん。一番熱意ある し。いっそのこと連合名をアンドリューに変えてさ。夢が叶うな ^^笑笑 」


(トンチ)「全く意味ないです。「本物のアンドリュー」に入りたいんですよ、僕は」


(zupi)「悪い悪い^^: 真面目か! 」


(デイリン)「早く決めないといけませんね」


(遊木風)「一両日中に決めるよ。なんか意見あれば頂戴。じゃ風呂入るんで、またね」


今後の「戦・雲外蒼天」の舵取りを担う盟主の人選を、遊木風は湯船に浸かりながら考えた。


戦力、知識、コミュニケーション力、情報収集力、統率力等の観点から、ゆいPかシロが適任だろう。しかし遊木風はデイリンを盟主に指名する事に決めた。

デイリンの泥臭さに賭けてみたくなった。盟主が泥臭く足掻いている光景を見たメンバーに何がしかの化学変化が起きるのを期待したのだ。


この時点では、デイリンの妻女となるカオリが軍師として『戦・雲外蒼天」を統率する事等、遊木風はもちろんの事、当のカオリやデイリンでさえ想像すらしていなかった。


斯くして遊木風が引退した後の「連合三役」の人選案が固まった。


盟主・・・・・デイリン(新規任命)

盟主補佐・・・ゆい P(新規任命)

軍師・・・・・トンチ(任命継続)


風呂から上がった遊木風は、新三役候補の当事者達にlobiで打診連絡を行った。そして候補者3名はそれを承諾した。


平成28年4月3日 『戦・雲外蒼天」に想定外の問題が持ち上がる。


「ディさん、急やけど海外行く話があんねや」


「なんやねん、藪から棒に?」


「別に断ってもええと言われたんやけど……

『お前の為に考えた。出来るなら行け』って。

昨日、おいちゃ...いや社長に呑みに連れてってもろたんやけど、そん時に言われたんや。

僕の事を息子かなんかと思うてるみたいや。

僕もおいちゃ…ちゃうちゃう、社長の期待に応えたいと少し思てんねや」


「行き先は?」


「中国の成都っちゅうとこですわ。最低3年。姉ちゃんにも相談したら行けって」


『トンチ、行けよ。俺は行った方がええと思う。正直寂しいけど.....チャンスやんか」


トンチは、武田地所が四川省成都市において手がける予定の大規模複合開発事業のメンバーとして内定していた。


内定と言っても社長の武田がジャストアイデアで突然指名したに過ぎない。


当該事業は、商業施設と数千戸のマンション及び周辺地域の一括開発を目論む武田地所初の海外大規模事業であった。


その計画は『Skyscraper project」と名付けられ、武田地所の一層の飛躍を賭けたビッグビジネスだった。


既に、武田は人事部に辞令の手配を指示していた。一見、トンチに中国行きの判断を委ねている様に見せかけ、実は絶対に中国に行かせる腹積りだった。後はトンチの意思確認だけをとるだけの状態でトンチに打診したのだ。


炎舞やディリンを始めとする友らと離れる事を考えると苦渋の選択だったが、信頼する相棒であるデイリンから真摯な助言を受け中国行きの覚悟を決めた。


人事発令予定日は4月15日付。5月1日から中国において本格的に活動を開始する。

プロジェクトメンバーは72名で、武田地所の選りすぐりが集められたていた。


トンチは、武田地所の関連会社である現地法人「武田地所成都諮詢有限公司」に出向する。


「四川省開発事業推進室 室長代理」


これがトンチの新たな活動の場と役職である。


ディリンに相談した翌日には武田に中国行き了承を伝達し、その日中に豊洲にある中国語学校の入校手続きをとった。


短期間であるが、中国語に全く馴染みの無いトンチが藁にもすがる想いで申し込んだ。計10回 1回90分のマンツーマン講義で計162,000円が必要だった。1,500円のガチャ引きを1週間悩んでいたトンチにしては迅速果断な動きであった。


そして更にメンバーの離脱話が持ち上がる。

紫龍(兼蒼龍)の懐妊が判明したのだ。合戦後に吐き気を催す事が続き、病院に行ったところ妊娠6ヶ月が判明した。


紫龍は夫から暫く夜更かしや無理をしない様に言い渡され、已む無く暫く4月一杯を以って炎舞を離れる決断をした。つまり一人の離脱で2枠の空きが出る事が確定したのだ。


これらの情報は直ぐに「戦・雲外蒼天」メンバーに伝達された。


更に離脱は続く。紫龍離脱の報が発せらた5日後の4月9日に、シロ及びその他3名の離脱に関する表明がシロを代表者としてあった。


『私とPANDAさん、(あんず)さん、こぶ兵さんは、話し合いの上で移籍しよう決めました。

ですがこの連合はホームだと思っていますのでいずれまた戻りたいと思ってます。沢山の方が離脱するのに申し訳ないですが、よくよく考えた結果です」


シロの離脱表明があった直後に、シロから遊木風にlobiで連絡があった。今般の離脱理由に関するものだった。


「遊木風さん、モビさんに会って一部始終聞きました。何回かしつこくlobìで連絡入れて漸く名古屋にいる事を教えて貰い会ってきました。私、大型に乗ってて結構全国廻るんですよ。一昨日に三重の四日市に行く便が有ったので、急遽名古屋に寄ってお茶してきたんです。そこで初めて真相を聞きました」


「そう……悪かったね、教えずに.......」


「口止めされていたんですよね。特に戦場のメンバーには伝えて欲しくないと。モビさん自身も我々と会話をすると真相を隠しておけなくなると思い炎舞を離れたと...... モビさんと初めて会ったんですけど、真面目な銀行員て感じでした。松永久秀のアイコンのイメージが強かったんで、意外でしたよ^ ^」


「元々真面目な印象は有ったけどね」


「まだ、ルイさんのご家族とは交流があるようで、東京に帰る度に自宅を訪ねてる様です。

行く度に娘さんに色々と買ってあげたり、食事に連れて行ったりしていると言ってました。

今度ルイさんの代わりに、娘さんをディズニーランドに連れて行ってやるんだと....その話をしている時は少しにこやかでしたよ」


「モビさんらしいね。義理堅いと云うか……」


「ただ、ルイさんが出てくる同じ夢を何度も見るらしいです。夢の中のルイさんはモビさんに『悪いね、ありがとう』を繰り返すらしいです。まだ忘れられないんですね……苦しんでるみたいです」


「復帰は厳しいね……」


「ルイさんとモビさんの件は、私が旧戦場メンバーに伝えました。なんとなく隠しておきたくないと思いまして。ただ、紫龍さんには伝えるの止めました。胎教を考えているでしょうし、無用にショックを与える事も無いかなと....…」


『そうか.....正解だね」


「私含めた4名は暫く離れますが、リョータさんはそのまま残留するとの事です。私達は今は無理です。ルイさんの匂いが残っているんで」


「了解。しかし……なぁ」


「提案ですけど「戦・雲外蒼天」の箱はサブアカで活かしておいて一旦休止してはどうでしょうか。この箱は「我々の居場所」です。いつもなら新しい方を補充し以上終了.....…ですが、今回ばかりはなんとなくそうはしたく無いというか。思い入れがあるんで......凄く勝手な事言ってますよね、私」


「分かるよ、何となく。きっとサンクチュアリ一(聖域)になったんだよ、蒼天が。もう一度考えてみるよ」


遊木風はシロの主張のエッセンスが何かを考えてみたが「箇条書きで整理」する事が出来ない形容し難いものだった。だが、決して無視してはいけないと遊木風の本能が訴えていた。


4月10日に改めて遊木風は連合メンバー全員に対して、改めて今後の方針を再伝達した。


「雲外蒼天は4月14日に一旦解散します。またいつの日かこのメンバーで集まろう」


「マジ。なんで?」


「いきなり方針変更?どしたの?」


『終わり?」


旧戦場メンバーは承知済みであったが、旧雲外蒼天メンバーは騒然となった。

終の棲家ならぬホーム連合だと思っていた居場所が突然無くなるのだから当然の反応だろう。


最終的には不承不承ながら皆んな了承した。


「遊さん、「戦・雲外蒼天」の名前使っていいですか? 一から連合立ち上げるので」


「別の箱で?」


「全く新規で。一からやってみたいんですよ」


デイリンは「戦・雲外蒼天」の看板を持って、新たに連合を立ち上げる決意をした。完全にゼロから始め心機一転を図るつもりだった。


「いいよ、頑張って!」


「士気と絆」でパンパンに満たされたカラフルな風船状態だった「戦・雲外蒼天」は、「吉田ルイスの死」をきっかけに出来た穴からシューシューと「士気と絆」が勢いよく漏れ出し、急激にシュリンクし始めていた。


連合存続させる道を捨て、敢えて解散の道を選んだのは「戦・雲外蒼天」を大切に扱いたい遊木風の想いが込められていた。


新メンバーを入れたとしても「絆の輪」を形成するには相当の時間とパワーを要するだろう。

また、その形成過程において残留メンバーのフラストレーションは高まるに違いない。


何故なら「吉田ルイス壮行合戦」で頂点に達した「絆の大きさ、太さ」に比すれば見劣りする可能性が高いからだ。


結局盛り上がりを見せず「戦・雲外蒼天」は「単なる通り道」の様な連合に成り下がる事は必至だ。

謂わば「サンクチュアリー」をけがされないようにする為の決断であった。


連合合併を経て「漆黒の夜空に蒼い一筋の閃光」の如く突如出現した「戦・雲外蒼天」は、連合発足から程なくして『炎舞最高水準の絆」を手中にした。


そして蒼く美しい光の軌跡を描きながら猛者がひしめく『100勇連合のステージ」を目掛け、一直線に突き進んでいた。


しかし、予想だにしなかった不幸なインシデントの発生をきっかけとして、少しずつ煌きを失いつつあり、そして間もなく漆黒の夜空に溶けて無くなるのだ。


唯一の希望は「絆の欠片」を持ったメンバー達が、何処かで「戦・雲外蒼天」のスピリットを繋いでいくかもしれない事だった。


「解散日にイベントでもやりますか? 」


「いいね、シロさん。企画してみるよ」


連合イベントの企画は遊木風の仕事だった。


メンバー間の連帯意識を醸成する上で、イベント実施は必要不可欠だと遊木風は考えていたので、盟主が担うべきマネジメント事項だと考えていたからだ。


解散する「戦・雲外蒼天」のラストイベントは、もはや「連帯感の醸成」は関係無い。それは行き場の無くなる「醸成された連帯感」を「良き想い出」に昇華させる為の目的となるだろう。


遊木風はラストイベントの要件定義を行った。

①皆で協働出来る事

②想い出に刻み込まれるインパクトがあるもの

③メンバー間の“絆"を再認識出来る事

④ “夢の欠片”を出来る限り拾い集めて“夢”を見させてやる事



当該要件を踏まえ二つのイベントを考えた。


1つは……

Gin and limeでの打ち上げオフ会。


2つめは……

4月14日22時の最終合戦に、伝説のプレーヤー 「ichi氏」を招請する事だった。


2つめのイベント実現は相当に厄介だった。


しかし、リアル事情で大好きな炎舞から離れざるを得ないトンチの為、そして思い出深い連合の為、加えて、盟友の「吉田ルイス」への手向けとする為に駄目元でオファーする事にした。


遊木風はlobiを使い、一戦だけ参戦して頂きたい旨と、その事由に関して縷々思いの丈をしたためた。一回で送れる255文字では足りず、2回に分け、きっちり510文字を余す事無く用いて依頼文を書く念の入れようだった。



『さすがに無理か。事件だな……実現したら』


意外な結果が翌日10時にもたらされた。


「分かりました。いいですよ」


『ん? ? ? #S96&t&%$0..........マジか!』


遊木風は眼を疑ったが、間違いなく、紛れも無く、明白に、厳然とした事実として「いいですよ」と書いてあった。遊木風は、句読点まで含めた12文字について、眼光紙背に徹して裏読みに努めたが「承諾の意」であるとしか認識出来なかった。


遊木風は「ichi氏」に返信を行い改めて事実確認をしようと思ったが、しつこいと思われるといけないので、「ありがとうございました。また近くなりましたら私宛に申請飛ばしていただけますか?」とだけ伝え、「わかりました」との回答を得た。


「戦・雲外蒼天」連合史の最終ページに刻まれた事件、そう、後に「4141 (良い良い)事件」として語られる事になる事件の発生である。


4月14日にichi氏が合戦参加したから「4141事件」と誰かが名付けた。


クーデター未遂事件の様な事件呼称を付けたのは、いささかどうかと思う向きも無くは無いが、何れにせよ大きな衝撃を伴った出来事を表現したものだった。


炎舞引退から5ヶ月以上経過しているにも関わらず、未だに「総戦力ランク第1位」の最強のレジェンドが降臨する事になったのだ。


オフ会の参加者については点呼を取り、関東圏在住メンバー6名、横浜まで運送予定のあるシロ、大阪からジュラ、ちぢっこの2名に、カオリ、ハルカの2名を加えた計11名が参集する事で確定した。Gin and limeに集まる事が出来ないその他のメンバーは、lobiやビデオ通話等を駆使し遠隔参加させる事にした。


オフ会は10時30分〜12時00分までの1時間半に時間を限定した。


4月1日 遊木風は連合解散イベントの発表を行った。「ichi氏」参戦に関しては、エイプリルフールのジョークだと受け止められ誰も信じる者はいなかった。


『デイさん、ichiさん来るなら蒼天流の指示出し見せつけたりまひょか^^」


「見せつけるて……レジェンドにか」


「レベル上がってますやん、僕ら。あぁ、中国行かんといたらアンドリュー入りも夢じゃあらへんのになぁ」


「トンちゃん ichiさん来ても怖気つくなよ」


「zupiさん、1年前ならいざ知らず、今はどんと来んかい! ですわ」


「タイミング悪かったか。エイプリルフールだから、皆信じてないと思うけどマジだ」


「またまた一、お上手だ。ichiさんと同じ名前の人って落ち?この前調べたら意外にichiって名前の人たくさんおってびっくりこいたわ」


「はぁ〜^^; ちゃんと伝えたからね」


「遊さんらしないなぁ、今日はイマイチやで。ヒネリが足りませんわ。僕らも大人やから、そんなん信じませんて。遊さんがフナッシーと友達や言うたら信じるかもしれまへん✌︎('ω')✌︎」


遊木風は面倒になってそれ以上の説明を止めた。暫くして改めて説明しようと思いつつ、リアルでの忙しさに追われ、再説明を行わずその日を迎えたのだった。


4月14日 19時の合戦は正に凡戦という表現が妥当な合戦で、さしたる盛り上がりもなく嵐の前の静けさといった感じだった。


19時32分、凪の様に平穏な静寂に包まれていた「戦・雲外蒼天」に、最高ランクのカテゴリーに分類されるだろうグレートハリケーンが到来した。


「お世話になりまーす」


グレートハリケーンの到来を最初に検知したのはPANDAだった。それは気をつけなければ見落としてしまう程、シンプルなコメントであったが、特徴のあるアイコンで気がついた。


そのアイコンもはや “彼専用" とも言える程に定着し、トレードマークとなっていた。


戦国時代に似つかわしくない、オーバル型のサングラス、テンガロンハット身に着け、葉巻を咥えた “彼専用” に魅入られたPANDAは一瞬にして思考力を奪い取られ、首を傾げながら “彼専用” を30秒程見詰めていた。


コンビニエンスストアのイーティングスペースにある窓側のカウンター席でコーヒーを飲んでいたPANDAは、目の前の行き交う車の眺め、もう一度連合掲示板を見直して呟いた。


『激似...寄せすぎだろ。名前までとは......凄えなこいつ。完コピじゃん!』


「ichiさん完コピですね、グッジョブ!(^^)v」


「一戦だけお世話になりまーす」


「まさか本物のichiさんですか?....…」


PANDAは「そっくりさん」の戦力を確認し、今自分が会話しているのが伝説のプレーヤーである事を認知し驚愕した。


「後衛です!」


「間違いです^_^; 光栄です!」


PANDAは日頃多用している “後衛”という語彙に変換しおっちょこちょいな部分も晒した。


合戦中に「攻撃!」というスタンプをちょくちょく間違えて放り込んでくるPANDAならではというところだろう。ただ、驚きの感情にまみれている中では仕方ない事であった。


PANDAと「ichi氏」のやりとりを見ていた他のメンバーも、遊木風の事前連絡が事実であると信じていなかった為、目の前のレジェンド登場に驚愕の感情を隠せなかった。


デイリンもPANDAと同じく思考停止に陥り、一旦スマホの電源を落として立ち上げ直すという訳の分からない行動をとった。


過去に、前身の「雲外蒼天」に所属実績のある複数のプレーヤー達から「戦・雲外蒼天」のlobiに続々と連絡が入り始めた。


まるで「直木賞や芥川賞」を受賞した小説家宛にお祝い電話が引っ切り無しに入るかの様な状態だった。


「ニュースになってるよ。どういう事?」


「なんで蒼天にいるの? 私も今から入れて!」


「本物⁈ 」


原因は「ichi詣で」のプレーヤーが「戦・雲外蒼天」に移籍している「ichi氏」を見つけ、情報を拡散した為だった。


「ichi氏復活」の報は、ツイッター、lobi、ネットニュース、2ちゃんねる等で瞬く間に拡がっていった。


結果、「戦・雲外蒼天」の22時合戦は、炎舞における頂上決戦「天下統一戦」の注目度に迫るかと思える程、耳目を集めていた。


アンドリュー、兎、シエスタ、愚者 等々、炎舞民憧れの超有名連合ならいざ知らず、無名の「戦・雲外蒼天」の合戦に注目が集まる事は異常事態だった。


例えるならば、『ローリングストーンズの様な一流が使うマジソンスクエアガーデンのステージに、「南知多ビーチバンド」という素人バンドが図らずも立たされ、眼の肥えたオーディエンスを前に演奏する事を余儀なくされる事態に陥っている』という感じだろうか。


当該バンドのドラマーはスティックに触れて5カ月、楽譜は読めないので完全耳コピ、今月初めて「QueenのWe Will Rock You」が叩ける様になり喜んでいる。


ボーカルの中学時代の音楽の通知表は「2」で2オクターブ未満しか声が出ない。

ギター担当は独りでチューニングが出来ず、また難しいコード進行になると少し誤魔化して演奏するといったバンドにも関わらずだ。


そんなバンドに「ジミ・ヘンドリックス」か「ジェームス・ブラウン」が突然加入したら一体どうなるだろうか。正に “それ” が起きているのだ。


後で分かった大事な最終戦の相手連合は、「磯野、野球やろうぜ!」というふざけた名前の連合だった。

盟主で無双の「中島弘」の戦力は279万。警戒する要素は皆無だった。


『戦・雲外蒼天」の多くのメンバーが、当該相手と「ichi氏」を戦わして良いものか議論を重ね逡巡していたが、連合の最終合戦でもあり認めるしか選択肢は無かった。


「どんだけサザエさん好きなんだよ。盟主のサブアカだと思うけど、「伊佐坂難物」って奴がいる」


「最後、八旗が良かったなぁ」


「これ勝つの間違いないけど、なんだかなぁ」


「ちょ待って!この盟主3台持ちか⁈ もしくはたまたまそういうメンバー集めたのか⁈「花沢花子」て奴もいる。いい加減にしとけよ、なんでS階級にいんだよ?」


「共通」には相手連合のメンバー全員が書き込んだのではないかと思われる程の多数コメントが書き込みされていた。


「びっくり。裸足で駆けたい気分です(๑˃̵ᴗ˂̵)」


「全力で逝きます:(;゛゜'ω゜'):」


「よろしくお願いします。記念にします」


「んがっくっく……>_<」


斯くして「戦・雲外蒼天」VS「磯野、野球やろうぜ!」の合戦が始まった。


意外にも「磯野、」は参戦率が高く、順調にコンボを重ねていった。S階級に存する事もまんざら可笑しくは無いと思える奮戦を続けていた。


しかし、鳴りを潜めていた「ichi氏」が、中盤の機知発動から大爆発した。


「戦・雲外蒼天」の無双である「ぜっとん」が霞んでしまう程の桁違いの痛撃を「磯野、」に喰らわした。

もはや、勝負が決したと思える程の差がついた頃、「ichi氏」は優しさを示し、手抜きをしていると見えない様に、攻撃頻度を落としながら戦っていた。相手の自尊心を考慮しての措置だったのだろう。


結果は「戦・雲外蒼天」の圧勝で連合最終戦を締めくくった。


MVPは、前衛「ichi氏」、後衛「紫龍」

ダメランTOPは「ichi氏」ランキング制覇のおまけ付き。応援ランTOP「紫龍」


Ichi氏は、「戦・雲外蒼天」のメンバーがかつて見たことの無い桁数のダメを連発した。


後衛が揃っていれば、恐らく前衛1人でも勝てるのではないかと思わせる程の圧倒的な力を示したが、当のichi氏は相当優しさを加えていた。


ファースト軍師を任されたトンチは、憧れであり目標でもあった「ichi氏」と味方同士で戦える狂喜の叫びを押し隠しながら、培ってきた指揮力を発揮した。


事前の打ち合わせでichi氏に奥義をお願いしても良いか議論が行われたが、記念としてラストの奥義をお願いする事にした。


「ichiさん、ラスト侘び申し上げます」


「り」


トンチは極限の緊張感と恍惚の中、出来るだけ敬意を払い丁寧に指示をしようとした挙句、「ichi氏」に “謝罪する” という失態を犯したが、「ichi氏」はそれを笑う事もなく指示内容を察し、事も無げに「侘び寂びの心」を投入した。しかし、当のトンチは失態に気付いていなかった。トンチは「ichi氏」との簡単なやりとりの中に此の上無い達成感を覚えていた。


上京して以来、上昇を目指して懸命に足掻いてきたヒストリーが、走馬灯の様に頭の中をぐるぐると駆け回っていた。トンチの炎舞人生は最良のうちにピリオドを打つ事となったのだ。


「苦労した過程」は「結果」によりその本質が変わる。


結果が良ければ……

「苦労した過程」は「良い想い出」となる。


結果が悪ければ……

「苦労した過程」は「ただの苦い記憶」となる。


「過程」に導かれた「結果」によって「過程の本質」を決めるのだ。過程が苦しければ苦しい程、「良い想い出」も「ただの苦しみ」も強化される。


その意味においては、今回最高の終わり方(結果)に浴し、ディリンと共に苦しみ抜いた過去(過程)を甘美な蜜に変容させたのだ。


合戦中にも関わらず、頭の中のリトルトンチは、“陶然とする至福の蜜” で満たされた壷の中に潜り、窒息する事も忘れて金色の蜜でドロドロになっていたのだ。


合戦が終わり、敵味方関係無く「ichi氏」への御礼の言葉が飛び交った。もはや勝ち負け等大した意味は無かった。ひたすら愉しかった。


遊木風は「ichi氏」にオフ会への参加を促したが「部外者が参加しては悪いので……」と気遣いを示しながら拝辞した。



「皆んなlobiのmain lounge見て」


遊木風が、その場に居ないメンバーも含めて一斉連絡をする為に敢えてlobiを使い伝達をする事にしたのだ。


「それじゃあ、盟主として最後のお願いをしようかな。これが最後の協働作業だよ」


「何何何⁈(´-`).。oO」


「サイモン&ガーファンクルの明日に架ける橋を聴いて解散しよう。youtubeで聴けるよ。そこで11時59分になったら曲をかけるから、此処に居ないメンバーyoutubeで探して一斉にかけるんだよ。同じ時間に同じ曲を聴きながら想い出に残そう。攻城戦より簡単だろ? フライングして崩壊させるなよ」


「何でその曲??」


「友情の曲だよ。激流の向こうで取り残されている友を助ける為に自分が橋になって助けてあげる……そんな感じだ。我々は「戦・雲外蒼天」繋がれていた仲間だ。

炎舞を続けるなら、戦力と同時に絆も求めながらやってくれ」


「ほー、そんな考えもあるのか」


「この曲を聴きながら蒼天での想い出でも回想してくれ。それでお開きだ」


「いいね^_^」


「北の国からでこんな事やってたな。遠距離恋愛の2人が同時に同じ映画を観て、一緒にいる気になるやつ」


「バラすなよ、zupiちゃん(*☻-☻*)」


「わりいわりいm(._.)m」


「この曲終わった時には明日になってる。「明日にかける橋」だけに……^_^」


「(´-`).。oO しゃれ?」


「ドキドキ٩(๑❛ᴗ❛๑)۶」


「5分前だ、探して! 59分ピッタリだぞ。蒼天での想い出を回想しながら、曲の間だけlobiで銘々好きに想いをコメントしてくれ。曲が終わったら終了だ。3分22秒。この短い時間で集中して想いを凝縮させ、吐き出すんだ^ ^」


「1分前。まだだ……崩壊させるなよ^ ^」


「5秒前……4…3…2……」



♬Bridge Over Troubled Water

Simon & Garfunkel


When you're weary, feeling small

When tears are in your eyes,

I will dry them all


君が疲れ果て、途方にくれて

瞳に涙を浮かべていたら

僕がすべて乾かしてあげる


「小松姫引いた人の為の慰めの一斉小松姫アイコンセット……蒼天の伝統が…もう出来ない」


「本願寺さんの反省アイコンセットもね(´;Д;`)」


「あー、最後に八旗とやりたかったなぁー」


I'm on your side

When times get rough

And friends just can't be found

Like a bridge over troubled water

I will lay me down

Like a bridge over troubled water

I will lay me down


僕は君の味方

辛いときや

友達も見つからないとき

激流に架ける橋のように

僕はこの身を横たえよう

激流に架ける橋のように

僕は君を救い出すよ


「しかし、ichiさんと一緒にやれるとは。トンちゃん最後に夢が叶ったな^_^」


「信じられへん今でも。合戦そっちのけでスクショ撮りまくった。皆んなありがとう >_<」


「相手ビビりまくってたな。共通にあんな大量のコメントがあるの初めてみたわ♪(´ε` )」


When you're down and out

When you're on the street

When evening falls so hard

I will comfort you


君が挫折して

一人街をさまよい歩くとき

夕暮れがつらく寂しいときは

僕が君を慰めよう


I'll take your part

When darkness comes

And pain is all around


僕は君の味方になる

暗闇が訪れ

苦しみが君を包む時も


「トンチの指示笑ったなあ。「ichiさん、侘び申し上げます」て。サイゼに独りで居たけど爆笑して、周りから白い眼で見られたよ(´∀`)」


「まとめ速報に載るんじゃない? ニュースだよ。楽しみ(^O^)」


Like a bridge over troubled water

I will lay me down

Like a bridge over troubled water

I will lay me down


激流に架ける橋のように

僕はこの身を横たえよう

激流に架ける橋のように

僕は君を救い出すよ


Sail on silver girl

Sail on by


船をこぎ出そう

帆を上げて行こう


Your time has come to shine

All your dreams are on their way

See how they shine


今こそ君が輝くときなんだ

君の行く手にいくつもの夢がある

ほらみんな輝いているだろう


「あー、曲終わるー(´;Д;`)」


「あ、そう言えば、俺だけまだ21人制になってないんだけどさ、 原因分かる? ねえ!」


「楽しかったなあー( T_T)\(^-^ )」


「お久しぶり。ご心配おかけしてます。シロさんと遊木風さんから全部聞いてますよね。

こっそりlobi見てたら、黙ってられなくなりまして。今、曲聴いてます( T_T)」


「 モビさん!!!!」


「早よ戻りなよ(๑ت๑)ノ」


「今は復帰は考えてないです(^_^;) ですが、lobiと炎舞は残しとくつもりです。


万が一、ルイさんから連絡が来るかも……なんてね。


でも、あの人律儀だから必ず返信してくるんですよ。壮行合戦の御礼のコメント内容悩んでたって奥さんが言ってましたから……きっと、未だに考え中ですよ^ ^」


「(´;ω;`) 」


「(´༎ຶོρ༎ຶོ`) きつい」


「.°(ಗдಗ。)°. きっとあるよ…,」


「ホラー:(;゛゜'ω゜'):」


「zupiちゃん、シッ!(*☻-☻*)」


If you need a friend

I'm sailing right behind

Like a bridge over troubled water

I will ease your mind

Like a bridge over troubled water

I will ease your mind


友達が必要な時は

いつも君の後ろに僕がついている

激流に架ける橋のように

僕はこの身を横たえよう

激流に架ける橋のように

君の心をなごませるよ

激流に架かる橋のように

僕は君の心の支えになるよ


「皆んなさよなら〜、ってlobiあるから連絡出来るじゃん!」


「そうは言っても連絡しなくなるよ。そういうもんだよ。だけど、それで良いんだ。新しい居場所で “絆” を探せよ、皆んな^ ^」


遊木風のコメントを最後に曲が終了した。


トンチがソファーの背もたれに突っ伏して泣いていた。

そしてその横でデイリンがトンチの背中を優しくさすり、目を真っ赤にしながら微笑みを浮かべていた。


盟主の指示を無視して、この宴は午前3時迄続き、旧戦場と旧雲外蒼天のメンバーが入り乱れて解散を惜しんでいた。


マスターのKENが、気に入っていたトンチの為にディズニー関連の曲を流していた。

You've Got A Friend In Me

When You Wish Upon a Star

2曲はトンチへの餞別の代わりだった。



遊木風はモビットにlobiで連絡を入れた。


『モビさんもう悲しむなよ。じゃないと逝けないよ。

これからは僕が後ろに回ってモビさんを応援する……

僕らは “強い絆” で繋がれた仲間だ。これからもずっとな。今迄ありがとう。 吉田ルイス』


「……という声が私には聴こえたよ、モビさん。ルイさんの代わりに伝達しとくわ^ ^ 遊木風」



貴方の大切な人を思い浮かべて欲しい。その大切な人に想いを伝えられない、胸が締め付けらる様な苦しみを……ましてや想いが伝えられない為に大切な人が苦しんでいるとしたら……


突然、新しい世界へ旅立たされた「吉田ルイス」はモビットの隣に居て苦しんでいる筈だ。


遊木風は、モビットの為だけでは無く「吉田ルイス」の為にも「繋ぎ人」を演じたのだ。


モビットは勤めの帰りにファミレスに独りで居た。

周りに客もいたが人目も憚らず涙を流し、テーブルの上に安堵と哀しさで出来た美しい雫を落とした。


その日以来 “あの夢” は見なくなった。


仲間達が“絆”を確認し合っているこの光景を、新しい世界に昇った「吉田ルイス」が見たならば、きっとこう言うに違いない。


「いい奴らなんだよ……」



時は有限。故に、新たな出会いから始まる付き合いが濃密になれば、引き換えに古い付き合いが希薄になっていく事もあるだろう。


但し、想い出は無限。黄昏ながら独りで酒を飲む時はその想い出を相手に飲ればいい。


遥か上方から炎舞界を俯瞰してみると……

「戦・雲外蒼天」は何万とある連合の一つに過ぎず、謂わば「点」の様な存在だ。


デイリンとトンチの物語は、その「点」の中で起きたワンシーンを切り取ったに過ぎない。


リアルと炎舞の両方で上昇を目指し躍動を続けた彼らの心中に去来したものは「結果」では無く「仲間と過ごした切磋琢磨の日々」、つまり「過程」なのではないか。


文豪 三島由紀夫が遺している言葉がある.......


『空虚な目標であれ、目標をめざして努力する過程にしか人間の幸福が存在しない』


人間の真の幸せは、欲しいものを得る事ではなく、今している事を好きになり没頭出来る事にあるのだろうと思う。


「戦力」や「勝利」という結果そのものが目的化してしまうと途端に虚しくなってしまう。


仲間の為に頑張る事で自己有用感や貢献感で満たされる。


それらは “絆” を作り上げる「過程」の産物であり、その連鎖が重要なのだ。


上昇の為に努力する事を愉しみ、仲間(絆)の為に頑張る想いを持ち続ければ、個々の戦力やレベルには関わりなく炎舞は充実したものとなるだろう。


それこそが "答え” なのだ.......



炎舞引退から半年が過ぎたある日、遊木風は実家の近くにある子供の頃からの行きつけだった「もんじゃ焼き屋」に独り居た。


最もシンプルなもんじゃ焼きと瓶ビールを注文し、束の間の休息に浸っていたのだ。


半年振りに炎舞を開き、デイリンが盟主を務めている新しい「戰・雲外蒼天」の連合ページを見てみると、戦力的には決して高いとは言えないが連合ではあるが、挨拶欄では活発に冗談等の会話が交わされ活気に満ちていた。


『まっさらで始めたい』というデイリンの希望を聞き入れた遊木風は、看板を貸しただけで箱(連合)は全くの別物だった。


無双「舐めの小次郎」、盟主補佐「ゆいP」、軍師「kaolin☆」、その他にzupi等、知った面々が数名在籍していた。


『戦力2がいるな… 自動承認オフにしてないか、もしくは新人を入れたのか……』


遊木風は独り言ちながら「雲外蒼天」立ち上げの時と、デイリン、トンチの2名と初めて出会った時の事を思い出していた。


そして、デイリンが苦労しながらも色々努力をしているんだろうと想像を巡らしつつ、遊木風が身を置いていた雲外蒼天という「絆の輪」の事を回想していた。


「いいなぁ……」


「絆の輪」に居た時の温かい感覚を包まれた遊木風は、ビールの酔いも手伝い恍惚とした。そして無意識に本音を呟いた。


遊木風の心は今、散らばった「傷の欠片」の引力に引っ張られ続けていた。


スマホゲームというサイバースペースであっても、其処に共有出来る目的が有り、仲間が居れば「絆の輪」を創り上げる事は可能だ。

それは悔しさや喜びを仲間と分かち合った分だけは太く強くなってゆく。



遊木風は、先程から余り減らない「もんじゃ焼き」を小さなヘラでこそいで口に運び、少し温くなったビールで流し込んだ。


それから暫くの間、もんじゃ焼き屋の壁に張られている大正時代の “モガ” (モダンガール)が描かれている干からびたポスターに目を移しボーっとそれを眺めていた。


遊木風は何やら逡巡を重ねた後、ほんの少しだけ首を傾げ、くすりと苦笑しながらデイリンのプロフィール画面にある「挨拶ボタン」に手をかけ溜息まじりに呟いた……



「参戦率0.5でも大丈夫かなぁ……」 (完)




友情は、この世でもっとも説明しづらいものだ。それは学校で教えてくれる知識じゃない。でもその意味を知らなければ、実際何ひとつ知らないのと同じだ


Friendship is the hardest thing in the world to explain. It’s not something you learn in school. But if you haven’t learned the meaning of friendship, you really haven’t learned anything


Muhammad Ali(1942 – 2016)米 boxer




スマホゲームというサイバースペースであっても、其処に共有出来る目的が有り、仲間が居れば「絆の輪」を創り上げる事は可能……そんな事を考えながら本話を書きました。


顔も素性も分からない赤の他人とのコミュニティ(サイバースペース)で、人との濃密なリレーションシップを構築出来るならば本当に素敵な事だと思います。


戦力よりも絆力、勝利よりも友情、少し青臭く気恥ずかしい感じですが、アンリアルの中だから恥ずかしがらずに行きましょう^ ^ ありがとうございました。


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