将軍様の孤独(きんにく)の美食(グルメ)
いつものように町に出かけた余は腹が減っていた。
「うむ、腹が減って死にそうである」
しかし、なかなか入りたくなるような店が見つからない。
しまいにはにわか雨がザーッと降り出したので仕方なく適当な店にとびこむことにした。
中居に居たのは頑固そうで無愛想な店主だけ。
「ここはなんの店だい?」
余の問いに愛想のない頑固そうな店主が答えた。
「ああ、うちは豆腐料理だよ」
豆腐料理屋か、ふむ、では適当に注文してみよう。
「ではこの店のおすすめを適当に」
やはり愛想のない店主は奥に引っ込んでいった。
「あいよ」
やがて膳が運ばれてきた。
運ばれてきた献立だが
・豆腐と油揚げの味噌汁
・雉焼田楽豆腐
・湯葉刺し
・あんかけ豆腐
・豆乳
・モヤシのお浸し
・豆乳の茶碗蒸し
・奈良茶飯
であった。
「うーむ大豆と大豆と大豆と大豆と大豆と
大豆と大豆と大豆がかぶってしまった。
この店は味噌汁と飯だけで十分なのだな。
適当にではなく一つと飯というべきであったか」
まあ、出てきたものを残すのは勿体無い、早速食べるとしよう。
私は雉焼田楽豆腐を口へ運んだ
”はふはふ”
「あつつつ」
うん、これはうまい、実に良い大豆を使っている。
紀州の大豆を思い出すぞ。
雉焼きのタレも絶品だ。
”チュルルン
チュルルン”
うむ、湯葉刺しの喉ごしのよさは癖になりそうであるな。
”ずずず”
豆腐と油揚げの味噌汁も実によいな。
木綿の豆腐は適度に歯ごたえがあり、油揚げはそれに華を添えている。
さらにあんかけ豆腐をさじですくう。
”ぱく”
うむ、口に中でふわりととろけるような豆腐にしつこくない餡の味が絶妙だ。
”ごくごく”
豆乳も豆が良いためにとてもうまい。
”しゃくしゃく”
生臭くなく、かつ、歯応えを失わない絶妙な湯通し加減。
己を主張し過ぎず、モヤシの旨味を最大限に引き立てる胡麻の風味。
まさに、匠の域と言えよう。
”がつがつ”
あっという間に奈良茶飯も食べ尽くしてしまった。
「ふふふ、では本命と行くか」
最後に残していたのは湯豆腐。
”ふうふう”
熱々の豆腐をさじですくい、たれにサッと浸して口に運ぶ。
うむ、まさに絶品。
「うーまーいーぞー!」
思わず目と口からうまいぞビームが出てしまった。
そして最後に口直しの茶碗蒸しを口にする。
”すっ”
豆乳の茶碗蒸しも最高だった。
「うむ、この店に入ったのは正解だった。
親父勘定をしてくれ」
相変わらず愛想のない店主は淡々と勘定を済ませる。
「へい」
余は腹いっぱい食べると店からでた。
うむ、今度は爺や大岡、老中ったちもつれてきてやろう。
きっと彼らも喜ぶであろうからな。
後日この愛想のない頑固な豆腐料理店はマッチョな男のたむろする店として有名になったそうだ。