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プロローグ
在るよく晴れた朝、パカラッパカラッと馬に乗り早駆けを行う武士が居た。
”でででーんでっでっでっでーん”
その名も暴れん坊将軍、徳川八代目将軍吉宗その人である。
彼の愛馬白帝号は南蛮より輸入した体高7尺(2m10cm)を超える巨大な馬だが、乗っている将軍もそれに違わぬ身の丈六尺の偉丈夫であった。
彼の朝は鏡の前でのポージングから始まる。
「ぬん!」
良い笑顔を浮かべ自分の筋肉に満足する吉宗。
「うむ、我ながら惚れ惚れする筋肉よな」
そして朝食でたっぷりの豆乳をゴキュゴキュ飲み干すのが日課だ。
江戸城での武士の挨拶もお互いにポージングをして筋肉を称え合うことになっていた。
「うむ、老中殿の上腕二頭筋は誠に素晴らしい」
「いやいや、若年寄の僧帽筋も見事であるぞ」
そして、江戸幕府の八代将軍・徳川吉宗が、町火消“め組”に居候する貧乏旗本の三男坊・徳田新之助に姿を変え、市井の江戸町民と交流しながら、世にはびこる悪を斬るようになったのには多分わけがある…と思う。