肩の話
駅の休憩所。
バスの座席。
病院の待合室。
そんな場所で交わされる、些細な会話でもきっかけになるんです。
そういう『ものごと』は。
何か、話ってないですか?
いえ、折角ですから。暇なんです、私。
アナタもそうなんでしょう?
あ、そんなつれないこと言わないで下さいよ。
……じゃあ、他にすることあるんです?
あ、やっと話す気になってくれました?
いえね、私こうして一人で暇なんですよ、だから私もすることなくて。えぇ、どんなつまんないことでも。
……え、肩凝りですか? あぁ、肩凝りがヒドいと。
それはホントにつまんない話ですね。
あ、いえ、何でもないですよ? で、その肩凝りが?
……あぁ、肩凝りがヒドいって話ですか。
でも、あれですよ?
ホラ、そんな重い荷物背負ってたら。
え、これは今日だけ? 肩凝りは毎日。
そうですか……お辛いでしょうに。
ちょっといいですか、肩?
んー……そんなに凝ってない気がしますけど……あ、もしかしたら骨じゃないですか? 姿勢とかで骨の形って変わるもんですよ。
……それは背骨ですか。
で、どう凝ってるんです?
あぁ、重い。重い感じですか。痛いじゃなくて。
……疲れじゃないですかね。乳酸ですよ、乳酸溜まってんですよ。
え? それだけじゃなくて肩の辺りが冷える、と。
やぁだなぁ、それ冷え性じゃないですか? 指先足先じゃないですが。
えっ、それだけでもない?
耳鳴り……耳元がざわつきます、と。
……耳鳴りですよ。耳鳴り。神経の疲れも来るんですよ、肩凝りって。
マッサージしてもらった方がいいですよ。あ、いいえ、私はマッサージ屋じゃないですよ?
……はぁ。ただの肩凝りじゃない気がするから、マッサージ屋でも駄目じゃないか、と。
どうしてです……?
……肩凝りが。右肩だけ、と。
病院ですね。病院行った方がいいですよ。些細な肩凝りでも、病気の兆しだとか……あぁ、あの番組見てます? たけしの。あれでやりませんでしたかね……。
まぁ、大丈夫ですよ! 病も気からって言いますからね? 意外と気を強く持ったら治ったり良くなったり……なんて。
……やっぱり私にはどうにもできない。
見ちゃったから声かけたけど。
アナタの右肩に、血まみれの生首が乗ってます、なんて。
言えないわよ。




