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勇者の郷里に跳ばされて?  作者: 宮前タツアキ
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視点:志藤修二(H町地域振興課・課長)1

 抜けるような青空に、うろこ雲が浮かんでいる。適度に日がさえぎられ、運動にはいい秋の日よりだ。

 S市から二十キロほど離れたわが故郷、H町。駅前のバスターミナルに、ワゴン車を駐めてバスの到着を待つ。今日は甥の拓磨が、同居させているというホームステイの外人さんたちを連れて、遊びに来る予定だ。助手席の史子は、チラチラと時計を見ている。


「……落ち着けよ、バスなんて送れるのが当然なんだから」

「別にあわてていません。あなたこそ……」

「……なんだよ?」

「『実行委員長』なのに、こんな所で油を売ってていいの? 会場でやることは、いくらもあるでしょうに」


 ……何か、歳を重ねるごとに、妻のカンが鋭くなっていくような気がする。タクマの同居人たちの写真を見たとき、食いつきすぎたのが不覚だったか。いや、思わず飛びついちゃったのは認めるよ。でもね、いわゆるウワキとか、そういうのじゃないから。


「あのさ、フミコ。『ロコドル』って知ってるか?」

「はい、この前同じ話を聞きました。でもね、あなた。相手はあくまで『H町収穫祭』に遊びにくるお客さまよ? それを、お仕事をさせるような……」

「いや、お仕事って、そんな大層なものにはならないって。ただのゲームみたいなもんで……あ、来たきた。あれだろ」


 国道から駅前にバスが入ってきた。S市からの路線バスだ。

 いつもより、それなりに降りる客が多い中に、ひときわ目立つ集団がいた。黒髪、亜麻色、赤毛……おお! ナイスだ! 写真より実物のほうがいいじゃないか!


「拓磨ちゃーん、こっち、こっち」


 史子が車を降りて手を振っている。拓磨も気づいて、キャリーバッグを引きながら歩いてきた。……何となく、たくましくなったな……


「こんにちは、史子さん。今日はお招きありがとうございます」


 おお、アリエルちゃんだっけ? 正当派アイドルっても通じるぞ! 町の予算で呼んだら、五十万位はかかっちゃうんじゃないか!?


「こんちわー、史子さん。どうぞよろしくー」


 カレンさんだよな。これまた個性派だけど好きな人にはたまらないって感じ。スタイルがスゴイね! うぬぬ、水着を着てもらえないのが悔やまれる!


「はじめまして、なのじゃ! タクマの叔母御さま! 今日はよろしく、なのじゃ!」


 ゲルダちゃんか。赤毛が目立つねえ。目鼻立ちもくっきりしてて。これは衣装係の岩倉くんが喜びそうだ。

 オレもあいさつしなけりゃな、こほん。


「はじめまして、皆さん。H町収穫祭にようこそ。拓磨の叔父で、実行委員長の志藤修二といいます」


 互いにあいさつを交わしたあと、ワゴン車に乗せて会場に向かう。道すがら、今日出てもらいたい競技の説明をした。


「借り物競走に、障害物競走、仮装リレーの三種目、ですね?」

「そうそう。まあ役場の職員も出ることにはなってるんだけど、もう一声、参加者が欲しくて」(ついでに見た目の華もね!)

「ご免なさいねえ、せっかく遊びに来てくれたのに、まるでお仕事させるみたいで……」


 まだ言ってるよ、史子は。


「いやいや、面白そうじゃないっすか。フツーに来ても飛び入り参加してたと思いますよ。お祭りは参加した方が楽しいですって」

「ホーシューに食べ放題が付くなら、言うことなしなのじゃ!」


 おお、ノリがいいねえカレンさん。ありがたい。ゲルダちゃんもチョロ……ゲフンゲフン、扱いやすくていいねえ。


「会場についたら、こちらが用意したゼッケンの着用を頼みますね。あと、ゲルダちゃんは仮装リレーで着てもらう衣裳合わせを」

「はい、わかりました」

「了解っす」

「衣裳合わせ? どんなのじゃ?」

「それは着てみてのお楽しみで(ホントは俺も知らないんだけど)」


 会場の運動公園に着く。女性三人は本部席に移動してもらって、と。着用してもらうゼッケンには「H町収穫祭」のロゴがでかでかと印刷されている。むろん、職員も全員着用だ。


「じゃ、すまないけど、拓磨はキャンプ場の方を頼むわ」

「はいっ」

「ご免なさいねえ、拓磨ちゃん。裕太も引っ張り出されてるから、上手いこと協力してやって」


 隣接しているキャンプ場で収穫祭の目玉が進行中。ふっふっふっ、H町の町おこし事業に新たな一ページが加わるのだ!


 町長のあいさつがようやく終わって、H町収穫祭兼運動会が始まった。あんた、あいさつ長すぎだよ。実行委員長の俺が、あえてあいさつをカットしたのに。俺が町長の座についたら、各スピーチは五分以内に納めるね。

 人の集まりぐあいは、まずまずか……。来年以降は地元民以外の観光客を、もっともっとかき集めたいねぇ。そのためのアリエルちゃんたちだ。


「会場の町立運動公園には、たくさんの観客が集まっています。H町収穫祭は、毎年恒例の運動会と芋の子会が併せて行われるイベントで……」


 地味な感じのインタビュアーが、カメラに向かってしゃべってる。ふーむ、取材に来ている地元メディアはS市ケーブルテレビとSL新報に地元FM局か……N○Kに来てもらいたかったなあ。いや、確か最近「地元ケーブルテレビ」のコーナーがあるんだっけか。ならば間接的ながら、S市CATVが撮った場面が一般のTVで流れるな。うむ。


 借り物競走が始まった。参加メンバーは……飛び入りはナシ、か。仕方ない。H町も高齢化が進んでいるからなあ。来ている連中もほとんどは、運動会あとの芋の子汁のふるまいが目当てだろう。そこに一品ウリが付け加わるんだけどね。待っていなさい、ふっふっふっ。


 まずは借り物競走か。もうH町運動会の名物競技と言っていい、な。先輩たちの苦労のたまものだ。


パーーン


 きれいなスタートだ。おお、アリエルちゃん、速いじゃないか。フォームがきっちり陸上選手のソレだね! これはぶっちぎりで一位か? 表彰台最上段か? 願ってもない「絵」だね! 借り物のフダを取った。さあっ、ちゃちゃっと決めちゃってください! ……アレ? なんか……フダ見て困ってないか……? これはひょっとして?! ああ、後続が来ちゃったよ! 中村くん(町職員)空気よめって!


「胸パット! どなたか胸パットを貸してくださーい!」

「えっ? えっ?」


 アリエルちゃんが驚いてる。競技の説明役、これは「事前の仕込み」だって説明しておかなかったな! 大馬鹿もんがぁ!


「はい、シークレットシューズ! どなたかシークレットシューズ貸してください!」

「シ、シークレットって……」

「はいはーい! オレ持ってまーすっ!」

「えええ?!」


 観客は大笑いしてるけど、アリエルちゃんはまだ気づかないか。いや、だから、借り物のフダは最初から「コンプレックス・アイテム」ばっかで、持ってる連中も観客席にもぐり込んでいるんだって!


「はい、化けの皮! 化けの皮! 貸してちょうだい!」

「はいはーいっと!」

「ええええ! ……あっ!」


 ゴムマスクしてる職員見て、ようやく事情がわかったみたいだ。……ああ、顔まっ赤にして「ヅラ貸してください」ってゆうとるがな……。マジメな子なんだろうなあ。それが裏目にでたか……

 なんてこったい、アリエルちゃんは最下位か……。事前の打ち合わせミスだ。S市CATVが、一位の中村くんにインタビューしとる……。空しい光景だなあ……


 さて、障害物競走だけど、これは「仕込み」と呼べる部分はないからな。ある意味、ガチ勝負なんだけど……カレンさん、上位に入ってくれないかなぁ。


 ……きれいなスタートを切りました。先頭はゼッケン四番の住田くん(町職員)、続いて六番花山さん(飛び入り参加)、二番のカレンさん(お願い参加)と続いております。最初の障害は無難にハードルが一つ。無難は陸上競技にもあるという意味で、選手にとって無難とは限りません。ああ、今ひとつ運動不足ぎみの住田くん、案の定引っかかって転んでしまいました。続いて花山さん、ハードル倒しちゃったけど、そのまま進む。さらにカレンさん、長身を利用して一気に飛んだぁー! おおおっ! あたりからどよめきが起こりました! 揺れた! まこと小気味よいほどに弾けた! これは動画に撮っている人がうらやましい! 次の障害はアミくぐり。先頭に出ていたカレンさんが一気にもぐり込んだけど、後続の小学生七番菊田くん(飛び入り)に抜かれてしまった。さすがにこれは、体が小さい方が有利だった。続いては平均台。直線上に足をそろえて歩くのは、モデル・ウォークの基本だそうです。誰とは言わないけれども、大きなお尻がクイクイ揺れるのがたまらない! しかしやっぱり歩きづらかったみたいで、ちょっと遅れてしまったか? 最後のパン食いに向かう選手たち。先頭は菊田くん、二番手に花山さん、三番手に八幡くん(町職員)、カレンさんは四番手に落ちてしまった。挽回なるか? たこ糸につるされ、ゆれる一口あんパンに、飛びつく選手たち! 菊田くんはちょっと届かないか? 端っこのパンを、少し低くしてあげなさい! おおーっと! カレンさん、ここも長身を利して一気に食い取ったー! 着地の瞬間、揺れる! もうブルンブルン! そのままゴーール! やった! カレンさん一位! 表彰台獲得です! 単勝は二番、馬単は二─六、三連単は二─六─七でした!


 CATVのインタビューに、ガキ大将みたいな笑顔で答えるのが印象的だった。うむ、宣伝としては最高の絵だったな!

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