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勇者の郷里に跳ばされて?  作者: 宮前タツアキ
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魔術管理協会2

 泣き止んだゲルダを居間に連れていき、挨拶し直させる。今度は無難な挨拶をすませた。

 今さらながら、叔母、史子に伝えていた「ホームステイ」は二人だったと気づくタクマ。ゲルダについて何か言われるかと思ったのだが、早苗は「あらあら、可愛い子だねえ」で済ませて、それ以上追求はなかった。早苗ばあちゃん、ボケてきてないだろうなあ……まあ助かったけど。

 早苗は、今日は泊まっていくと告げ、昼飯の支度を始めた。アリエルが手伝いながら、料理の細々とした事を教わっている。カレンはパソコンを置いてる部屋でウィンドウズ入門書など読み始め、タクマはテレビの前に陣取ってあれこれ説明を求めるゲルダの相手をしていた。

 ゲルダの質問に答えながら、何かタクマの脳裏から違和感が離れない。祖母の行動パターンが、いつもと違っているような……


 昼食は久しぶりの手打ちうどんだった。早苗も「もう歳だから」と、最近めったに作ってくれなくなった一品だった。ツルツルの喉ごしとモチモチした食感がたまらない。讃岐うどんのような強いコシではなく、ふうわりしてキュっと一本控えめなコシのある、そんなタイプだ。フォークを使って、一口含んだカレンとゲルダは、言葉少なに夢中で麺をかむ。アリエルは上達してきた箸使いで口に運び、単純なはずの作り方でなぜこんな違いが生まれるのかと、驚きの表情で早苗に尋ねていた。


 後片付けは、早苗を押し止めてアリエルが引き受けた。流し場に立つ亜麻色の髪の後ろ姿を、微笑みながら眺めていた早苗だったが


「タク坊、ちょっと手伝っておくれ」


とタクマを連れ出した。

 道場わきの部屋から鈴とテグスを持ち出してきた。勝手口から庭に出る。


「これをね、壁に沿って張っておくれ」


 早苗の指示で気づいたのだが、家を囲む板塀の柱には、ちょうど糸を結びつけられる「フック」があり、それを使うと手間なくテグスを張りめぐらせることができた。テグスに鈴を取り付ける。簡易な警報装置ができあがったわけだ。

 出来映えに満足げな早苗だったが、タクマは内心穏やかではない。自分の家に自分が知らない「機能」が隠されていた。それはまあ、昔、祖父と祖母が住んでいた家なのだから分かるけど、それを今、使わなければならない理由とは……?


「ばあちゃん、どういう事なんだろう? オレには言えない事情なの?」

「……うん、何もなければそれが一番なんだけどねえ。今日、ウチに古い友だちから電話があってね、用心なさいって警告されたの」

「警告って……ばあちゃんちの方じゃなくて、オレんちの方に何か起きるわけなの? 何でだよ?」


 タクマの問いに答えず、早苗は振り向いて勝手口に向かった。


「明日、そん人が訪ねてくるから。直接聞くといい」


 それだけ言って、家の中に入っていった。


 夕食後、早苗は疲れたからといい、早々と床に入った。居間に集まったタクマたち四人。夢中でテレビを見てる幼女をよそに、年長組が鳩首をそろえる。


「……何か、あるんでしょうか……」


 戸惑い気味のアリエル。夕飯の材料を買いに彼女が出かけようとしたら、早苗はやや食いぎみに、タクマについて行くよう言いつけた。荷物持ちにというより、ボディガードの役割だったように思える。


「塀の所に、なんか面白いものが仕掛けてあるし、何なんだろうね? タクマ、お前のおばあさん、こういう事をよくやるのかい?」

「いや、あんなばあちゃん、初めてみるよ……」


 カレンの問いに、答えるタクマも戸惑いの中。警告をよこした古い友人というのがキーパーソンらしいのだが……。考えて見ると、自分が祖母の若いころの事をほとんど知らないのに気づいた。


 夜九時を過ぎてゲルダがうとうとし出したころ


「…………」


三人は一斉に立ち上がった。家の周りを、人の気配が取り囲んでいる。


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが鳴った。


「オレが出る。みんなは奥の部屋に入って身を守ってくれ」

「はい」

「うい」

「ん? なんじゃ?」


 アリエルがむずがるゲルダをなだめて歩かせる。タクマは玄関に出て外灯をつけ、訪問者に尋ねた。


「どちらさまですか?」

「……夜分申し訳ありません、警察の者です」


 おや、非合法イリーガルなマネをするまえに警察が来ちゃったよ……自称がホントならば。


「身分証を見せて頂けますか?」


 引き戸を少し開けて相手の顔をのぞく。……強行突入してくるかと思ったが、目つきの鋭い男が警察手帳を掲げている。身につけてるのは警察の制服。

 タクマは口の中ですばやく詠唱し『鑑定ジャッジメント』の魔法を使った。警察手帳は……偽物。


「……ウソツキは泥棒の始まりですよ」

「……何を言っているのかね。協力したまえ。さもないと」


 皆まで言わせずに、タクマはポケットから携帯を取り出してダイヤルした。──正確にはダイヤルするふりをした。


「もしもし、警察ですか」


 タクマのブラフに相手は強硬手段に出た。引き戸を力尽くで開けて突っ込み、タクマのみぞおちに突きを入れてきた。明らかに武術の心得を感じる攻撃だったが


「あがっ!」

「ニセ警官が踏み込んで来たんですが、ちょっと来てくれませんか?」


タクマは突きを片手でいなし、手首の関節をねじり止めた。そのまま狂言通報を続けてみたが、信じるかどうかは相手次第だ。


「ガキがぁっ!」


 タクマに手首を極められた男が、左手でスタンガンを取り出した。そのまま突きつけてくる。極めていた右手を一度引き、関節が伸びきった所を押し込んだ。男は戸口から外に放り出される。

 その瞬間、異常事態が起こった。スタンガンからほとばしった電流が、三メートルほども伸びてタクマの体を貫いた。


「ウッ!」

「はは! バカが!」


 大きくよろめいたが転倒を免れた男は、あざけりを吐いて再び突っ込んでくる。相手が既に死に体だと確信した動きだったが


「フッ!」

「ゴェッ!」


タクマの痛烈な反撃を受けて悶絶した。男の目にはタクマの攻撃が見えなかったろう。驚いたもので手加減がおろそかになっていた。一撃で意識を飛ばした男を受け止め、土間に転がす。

 電光に一瞬動きを止めたかに見えたタクマだったが、ダメージ自体は大した事はない。驚いただけだ。何に驚いたかといえば、スタンガンから三メートルほども電流が伸びてきたのもそうなのだが、身に受けた衝撃がよく知っているものだったからだ。それは異世界で何度も体験した「雷魔法」の感触だった。そしてタクマの魔法防御力は、現在でも常人の十倍は超えている。

 表にはまだ頭数がそろっている。玄関前だけで五人はいるか。


「……抵抗はやめて協力してください。我々は政府の機関の者です」


 ひとりが説得を試みてくる。タクマの手並みを見て、方針を変えたものか。どうするか? 狂言通報に突っかかってきたという事は、警察と顔を合わせたくない連中と思われるが……


「警官と身分を偽ったのは謝罪します。しかし管轄が違うだけで政府のために働いている事には変わりありません」


 迷うタクマ。「陸幕二課」とか「内調」とか、そんなワードが脳裏をよぎる。相手の言い分もうなずけない事はないが……しかし……このやり方と、何より「魔法」らしい攻撃を使うとは……?

 その時、表の街路に車が走り込んで来た。かん高いブレーキ音をたてて駐まる。


「チッ! 退け!」


 説得を試みていた男が舌打ちし、全員が身を翻して撤収に転じた。おいおい、こいつどうすんだよ……、足元の男を見るタクマ。見捨てられるとは哀れだが、こっちとしては迷惑でしかない。


「グッ!」

「ゲァッ!」


 門の外では戦闘の気配。スタンガンの電光らしい光が瞬く。思わず飛び出して門を出ると、黒いリムジンを囲むように立ったスーツ姿の三人が、襲撃メンバーらしい連中と相対していた。

 警官の制服を着た連中が、スタンガンと短い杖を振るっている。スタンガンからは雷光が、杖からは炎の玉が放たれる。しかしスーツ姿の男たちが短杖を掲げると、命中する前に消滅してしまった。明らかに、攻撃も防御も確立されている類いの魔法戦闘だった。


「ちくしょう!」


 追いつめられたニセ警官側が、拳銃を抜いた。本気か! タクマは身体強化魔法を使って介入しようとしたが、


火薬不活性パウダー・イナクティヴ!」


スーツ男の一人が、聞き慣れない呪文を唱えた。カチッ、カチッ……拳銃の撃鉄が空しく響く。


「く……」


 ニセ警官が拳銃を取り落とす。その時、リムジンの後部座席から女の声響いた。かすかにしわがれているがよく通る声だ。


「協議結果に背いて拉致に踏みきり、そして私たちに銃まで向けた。それが佐田理事の命令と解釈しますが、よろしいですね?」


 ニセ警官側が動揺している。声の主を恐れているようだ。


「この場は退きなさい。処分は追って下します。言うまでもありませんが、自分らのやった事が、逃げて済むようなマネだったと思わない事です」


 夜目にも青ざめた顔で、襲撃者たちが退いていく。立てない者に肩を貸し、おおわらわで。


「おい、こいつ連れて行けよ!」


 背後からの大声に振り返ると、カレンが玄関で気絶していた男を運び出していた。逡巡するニセ警官たちだったが


「沢村さん、彼を受けとって車まで運んで。面倒だけど、よろしくね」


リムジンからの指示に、スーツ姿のひとりが無言で近寄ってきて、カレンからニセ警官を受けとった。カミソリのような目つきの威丈夫である。片腕を肩に回し、つま先を引きずりながら、男一人を軽々と運んでいく。

 後部座席のドアが開いた。降りてきたのは、品の良い小柄な老婦人。男たちに付き添われ、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「お久しぶりですねぇ、和代先輩。お元気そうでなによりです」


 声に驚いて振り向くタクマ。早苗が門まで出てきていた。


「早苗さんもお元気そうで。何年ぶりになりますかしらねえ。」


 来訪者もうれしそうな声で挨拶をかえし、老女二人は肩を抱き合って再会を喜んだ。

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