参話目
だるいな...
俺は、車の中で電子煙草を口につけては離しながらつぶやいた。
実は俺は、人が目の前で死ぬのは見たことがない。
いや、でも失敗はしてない。
ターゲットが死ぬときは大抵自分が帰路に着いた時なのだから。
正直言うとターゲットとは真っ向勝負になることなんてないし基本、不意打ちに終わる。
今は今回の依頼主からの報酬を受け取るために、サイゼル屋に向かう。
電子煙草を置き、扉から中に入り一番窓際の席に向かう。
淡い空色のポロシャツの男が座っている。
そして俺は男と向かい合うようにその席にゆっくりと腰掛ける。
「コーヒー飲むか?...」
男は瞳孔が開きっぱなしの眼でまじまじと舐めるように俺の事を見ながら言った。
コクリとうなずいたら、あらかじめ用意してあっただろうコーヒーを差し出された。
そこに俺は、知らされていた暗号の数の分だけ角砂糖を入れる。
男の顔が口の端だけが上がって不気味な笑みを浮かべる。
「終わったのか?」
「終わりましたよ..」
俺はスプーンでコーヒーの表面を撫でながら言った。
「そうか..」
机の上にプリッツの箱が置かれた。
「今回の分だ...あとこれはここのファミレスの分の代金だ。使ってくれや..」
そして現金三万を残し、颯爽とファミレスから出て行った。
俺は、プリッツの箱を開ける。
現金で五百万入っている。
まあ、こんなもんか..プリッツの箱を懐にしまう。
実は俺の平均月収は約六千万だ。普通の人はその金を遊びに使ったり、
家を大きい物に建て替えるのだろうが俺は殺し屋なのだ。
仕事道具、筋力を上げるための機器につかったり結構俺の生活は厳しいのだ。
基本の筋力トレーニングは欠かせない。
毎日どんなことがあろうが、
スクワット千回、腹筋千回、腕立て伏せ千回、縄跳び千回、ランニング二十キロ。
これだけやってると、さすがに筋肉はつくだろう。
そう思い始めたのだがあまり筋肉は使ってないな..今のところはな..
車に乗り込み、いつもの場所に向かう。
赤い屋根と、赤レンガ調の壁が特徴的な家、カズの家だ。
カズは今(金の巡りがいいというところもあるが)俺のために武器を作ってる。
もちろん他の暗殺者たちも御用達だろう。
インターホンを鳴らし、指ぱっちんを五回高らかに鳴らす。
ガチャッ
オートロック式の最新鋭の扉が開かれる。
「やあ」
玄関で待ってくれていたのは、カズ本人だ。多分カズは今も仕事に没頭していたのだろう。
ジャージのズボンを履き、白いTシャツをぎこちなく着て無精髭がよく似合う。
カズはその職人気質のせいで何回か依頼者の来客も無視するほどだ。
「あがれよ」
カズはそう言い、来客用のスリッパを前に差し出しながら廊下の奥に歩いていく。
俺は、靴を脱ぎスリッパに履き替える。
たくさんの段ボールが廊下のわきに寄せられている。
多分完成品だろう。
二階に向かい、粗末な応客間セットに腰掛け今回の依頼を言う。
「今日はスナイパーライフルを作って欲しい。」
カズは、髭を触りながら
「わかった。」
と即答した。それから俺は依頼するものの詳細を伝え、設計図を見せる。
カズはコーラを飲みながら言う。
「いつまでに必要だ?」
「三日後」
カズは窓の外をうっとりと眺めながら
「何とかやってみよう」
そう独り言のようにつぶやく。
「ありがとう。そういえば前に依頼したものはどうなった?」
カズはゆっくりと立ち上がり、クローゼットを開ける。
そこの都こんぶの段ボール箱をこっちに持ってきた。
「これでいいんだろ?」
段ボール箱を開くとクロスボウが入っている。
カズは目を光らせながらワクワクした様子で武器の説明を始める。
そのあと、カズと酒を飲むことになり夜まで語り明かした。
カズは寝ている。俺のスマートフォンにメールが入る。
ああ今日も仕事だ。テーブルの上にプリッツの箱を置いてカズの家を後にした。
朝のそよ風が気持ちいい
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