壱話目
◇◇◇◇◇◇◇◇◇←これで場面が変わります。
俺は、冷酷無比な殺し屋。
ん?プロじゃないのかって?俺以外に殺し屋見たことないのに誰がプロって認めんだよ。
でも、腕は一流だと思う。自信を持って言える。今まで失敗したことがないのだから。
今日も仕事。明日も予定が入ってる。
今もこのずっしりしたショルダーバッグの中には仕事道具がたくさん入ってる。
普通のリーマンが持ってそうな安いカッターナイフや、
誰でも一度は憧れただろう、スナイパーライフルまで入ってる。
いわゆる、ピンキリだ。
皆は、一体どういう服装を想像するだろうか?
黒い服?スーツ?全然違う。
大抵はユニクロで売ってるコーデで安定だ。
それに、帽子と伊達メガネを気まぐれでつけたりする。
でも、腕時計は「忘れたこと」がない。
いや「忘れてはならない」のだ。
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僕は、小学校からカズと一緒に帰ってきた。
カズの家とは、はす向かいだ。そのためじっくり話せるのだ。
今日も遊ぶ約束をした。基本は、カズの家で「wii」で「大乱闘スマッシュブラザーズ」をして遊ぶ。
カズの家を、一人の人間に例えよう。
そうした場合、僕の家は脊椎もボロボロ、内臓もところどころ傷がついている。
つまり、外見は大丈夫なのだが中身がダメだということだ。
お母さんはおしとやかな人だった。
お父さんは和服の時のお母さんに一目ぼれしたそうだ。
そして、お父さんは普通のサラリーマンをしている。
休日に酔っぱらうと常務まで上り詰めた時の話をよくしてくれた。
お母さんはお父さんの情熱なところにしだいに惹かれていったそうだ。
そんな普通な家庭だった。
でも、本当に些細なことで「普通の日々」が「普通に過ごせない日々」になった。
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ある日、学校の理科の授業で虫めがねの光を集める授業をした。
僕は黒い紙が香ばしい匂いを出しながら徐々に、徐々に消えていく様をうっとりと眺めていた。
何とも言えない、甘美な気持ちに浸れたのだ。
そして紙が燃え尽きると、その気持ちは薄れていった。
そのとき僕に少しの魔が差した。
そのまま、空色の半ズボンの右ポケットの中に虫めがねをにぎったまま右手を押し込んだ。
そして出した右手には虫めがねは握ってなかった。
とんでもない優越感にひたり、恋心とは違った素晴らしい気持ちになれた。
授業...いや、学校が早く終わって欲しかった。
今すぐにでも黒い紙が燃えていくのを見たかった。
でも現実は、そううまくいかないものだ。
そのとき授業はまだ、半分も終わってなかったのだ。
貴方は、何もせずににやけている子供がいたらどうだろうか。
多分そのときの先生は今の貴方と同じ気持ちだっただろう。
「海月くん?どうしたの?」
とにこやかに話しかけてきた。
そのとき僕は、現実に引き戻され突如に危険を察知して激しく動揺した。
軽い吐き気を覚え心臓が肋骨に激しく体当たりする。
先生もさすがに不審に思い、
「大丈夫?」
と目を細めながら聞いてきた。
「だ、だいじょうぶです。」
そう早口に言い終え、この窮地からノーリスクで脱出する道を幼稚な頭を振り絞り考える。
すぐ先生は、以上に気が付く。
「あれ、海月くん...虫めがねは?」
「いえ、あの、落としました。」
その嘘はとっさに口をついて出た。
だけど、ばれることは時間の問題だ。実際には落ちてないのだから。
そこから、僕の「普通」がほころびていった。
時は飛び、先生と一緒に別の教室に行くことになった。
生徒たちの間では、そこに連れ込まれるとどんな不良でも泣いて出てくるという
地獄の部屋と言われている。
そこで先生に説教されることとなった。
先生は、怒った素振りを見せずずっとやさしく接してくれた。
それが逆に心にくさびを深く深く打ち込んでくことになった。
僕が盗んだ理由をうやむやにしてしゃべらないため、お父さんを呼ぶことになった。
するとすぐにお父さんがきて、謝り僕を叱った。
お父さんは仕事を途中で放り出してきたそうだ。
僕は、その時
「僕のためにそこまで....」
と考えていた。
でももちろんそこで終わるわけがないのだ。
お父さんはその一日後仕事をクビになった。
理由は重大な会議を放り出して私事情でどこかに行ったからだそうだ。
その日からお父さんは酒を飲み、白いシャツを着て街に出てそこたら中で怒鳴り散らすようになった。
お父さんは、顔を腫らして帰ってきたり何日もいないことが多々あった。
でもお父さんは僕たちに暴力は振るわなかった。
お母さんにそう誓ったから、と哀しい笑顔を向けながらポツリと言っていた。
家の中ではとても優しいお父さんだった。
僕は、そんなお父さんが好きだった。
ある日、カズの家を5:30に出て暗い道を走り抜け、家についた。
ピンポーン
家の中にインターホンが響く。いつもならお母さんが笑顔で
「おかえり」
と言ってくれるのだが今日は、出てこなかった。
ピンポーン
インターホンがむなしく響く。
皆寝てるのかな?と思い気まぐれにドアに手を掛ける。
いつもはびくともしないのに
ガチャ
すんなりと開いた。不審に思いながらも玄関の中に入りドアが閉まった瞬間ガラリと雰囲気が変わった。
えらくひっそりしてる。
リビングに入るドアに手をかけると、なぜか香ばしい匂いが漂ってきた。
まるで揚げ物を揚げた時のような、そうあの時の紙を焼き焦がした時のような...
ドアを開けるとアカアカアカアカアカアカアカアカアカ....
真っ赤だった。お父さんと思われる人と、お母さんだったモノが床に無惨に横たわっていた。
その瞬間おなかを蹴り上げられたような感じがして、鈍い痛みが体中に走った。
目を覚ますとそこは、病院だった。
「あ?目が覚めたのね?そこの棚の上に丁度ご飯を置いたところよ。」
看護師の方が接待用の無機質な表情を僕に向けながら喋った。
「今、警察のお方が来てるわよ。入れてもいいかしら?」
僕が返事をする前に勢いよくその扉は開かれた。
看護師の方は退出し、四十代前半の警察官が入ってきた。
その警察官は、茶色のよれよれのスーツを着て、靴はアディダスの安物だった。
「気分はどうかね?」
そう麦茶を飲みながら言った。
「何が起きたのですか?」
単刀直入に聞く。警察官の表情が変わり、一瞬の沈黙が流れた。
警察官は、ついにその重い口を開いた。
「君の家族が何者かによって殺害された。」
ああ、やっぱりそうだったのか...
「これを..」
そう言いながら警察官はポケットに隠していた古い腕時計を取り出した。
素材はステンレスで、手巻き式のベルトに黒い革が使われている腕時計だ。
「なんですか?」
「君のお父さんが握っていた時計だよ..本当は証拠品として押収するはずだったんだけど..」
さすがに、もう検査したからいらないとは、面とむかっては言えないようだ。
自分の小さい手で自分には大きすぎる腕時計を右手に着けた。
「それじゃ、もう行かなくちゃ..」
そういいそそくさと荷物をまとめ出て行った。
別に僕にはどうでもよかったことだ。
腕時計を見ていると、手回し式のネジが押し込めることに気が付いた。
押し込んで適当に回してみる。
パカッ
ケースが開き、小さい黄色い紙が落ちてきた。
ベットから体を乗り出し紙を取る。
なんか文字が書いてある。読みにくいが、こう書かれている。
「ハンター×××れた。」
多分「ハンターにやられた。」だろう。
そして僕は、紙をもとに戻し腕時計も元に戻した。
すると、目の前がぼやけた。そしてポツポツと頬を伝って涙が零れ落ちた。
そして腕時計にこう誓った。
絶対復讐する、と
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