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ダンジョンのカギ貸します!  作者: サイミ・ヨージ
「ダンジョン体験しました。」
7/15

「I見銀山」④

・・・。



昼食後、アユム達一行はしばらく歩いていた。



彼らが今歩いているこの通路は通称『龍の背』と呼ばれている。



ミルクガラスのように半透明な翡翠色の道は十五メートルほどの幅がある。



そして中央がなだらかに盛り上がっており、どこか生き物の背中を思わせる。



(なるほど龍の背だ)



アユムは思った



しかし歩くには中央に向かって緩やかな勾配があってすこし足下が悪い。



これがしばらく続くというから正直アユムは閉口した。



ともあれ、このあたりになると別ルートで下ってきた先行者とまれにすれ違ったりする。



二人組、一人、三人組、さらには単独客にまじってツアーの一行も流れてくる。



「ここは共通エリアですからね」



人が増えた、というアユムの質問にヨコヤマは手をあげて挨拶をしながら答える。



ヨコヤマ挨拶に気づいた若い男のツアーガイドが手を挙げてきて返す。



同じように陽気に手をあげて応対しながらもアユムの顔色は冴えなかった。



(やばい)



体の中心で胃袋が振り子のように揺れているのをアユムは感じていた。



明らかに食い過ぎだった。



食べ過ぎてはいけないと注意しつつも「マンガ肉」に続いての「天ぷら」は実に旨かった。



さらに隣でよく食べていたセラもよろしくない。



そのあまりの食べっぷりに影響されて、ついアユムは理性を決壊させてしまったのだ。



昼食後、歩き始めた当初から重いなとは思っていたが、あげく無視して歩いていたら脇腹まで痛くなってくる始末だった。



足もまた乳酸が貯まっているのか、だる重い。



つい足取りも重くなり、徐々にアユムの並びは後方へとずれていった。



「アユム様、大丈夫ですか?」



気づけば横にいたセラが気遣うように声をかけてくる。



ついに限界を感じたアユムは足を止め、その場に屈み込んだ。



「えっ、ハヤミ君、どうかしたの?」



すぐ前にいたミキがふりむく。



長身をかがめて、白い顔がこちらを心配そうに見ている。



「腹と足がすこし痛くなってきて」



「食べ過ぎですね」



セラは笑った



理不尽な事にあれほど食べたというのにセラの体にはなにも影響がないようでけろっとしている。



「んーあともう少しで『剣の森』なんですけどね・・・休みますか?」



「どうする?ヨコヤマさん呼んでこようか」



セラの言葉にミキが質問をかぶせる。



「『剣の森』?」



アユムは自分の体調より、ふと口の端にのぼった『剣の森』の事が気になった。



そういえば、セラはチケットを買うときに行き先をそう言っていた。



「それは場所なんですか」



「うん、そうだよ、この下なんだけどね。すっごく綺麗だよねー」



ミキはセラと目をあわせてうなずきあう。



ミキの説明によると『剣の森』はこのダンジョンの最下層で、みんなそこを見て折り返して来ているのだという。



ミキの説明のあまりの詳しさにヨコヤマはふと気になって聞いてみた。



「ミキさんは前にも来たことがあるの?」



「・・・3回くらいかな」



指を折りながらミキは言う。



「3回も?ミキさん、・・ここ、結構値段するでしょ・・」



声を低くしてセラは問う。



「うん・・・」



なぜだろうか、ミキの声は先細ってそのまま黙り込んでしまった。



「よっ」



そのときだった、ふと何者かがアユムの肩を強く叩いた。



ふりむくとそこにはもじゃもじゃ頭のどこか見覚えのある汚い顔があった。



昨夜会った怪しい男、サキシマだった。



「えっと・・サ・・・サギシマさん?」



「サキシマだ、サキシマ・・・君なー・・」



しかめた表情のままサキシマは無言でセラを見てミキを見た。



だらしない顔がいっそう崩れて下品た笑いを浮かべる。



「・・・ええなあアユム君、女ふたりに心配されて・・看護プレイか」



「っいやっ、そんな」



アユムの顔に赤みがさす。



「すみませんバカがうつりますので黙っていていただけますか」



セラの声はすっかり冷え切った声をだした。



「えっ、誰、知り合いなんですか」



ミキ一人、事態が飲み込めないようだ。



「サキシマさん・・・なんでここにいるのですか」



抑えたつもりだがアユムの声はいらつきで震えていた。



「そうそう、酷いやん!アユやん・・昨日一緒に潜るって言ったやん」



「いやいや!そんなの言ってませんよ!」



「ええっ~」



サキヤマは大げさによろめきながら続ける。



「そうか・・・、先行ったかもと思って潜ってみたらいないし、やっとおった思ったら・・・」



フーとサキシマは息を一つ吐いた。



「まあええわ・・・なんやお邪魔みたいやから帰るわ・・・」



「ほなまたな、あゆやん」



サキヤマはきびすをかえすと、捨て台詞を残して薄暗い闇に消えていった。


「なんだったんですかね・・・」



ちょっとした寸劇を見せられたように毒気の抜けたアユムは現実に戻った。



「さあ」



セラはサキシマの去っていた後方を険しい顔で見つめている。



ミキはアユムの手をつかむと起こそうとした。



「ハヤミ君、立てる?」



「あれっさっきよりなんか体が軽い・・」



すこし休んだからか、さっきより胃袋の主張が収まった気がする。



「んしょ」



ミキに手を引かれ、アユムは立ち上がった。



「よかった」



「じゃ、少し遅れたのでおいかけましょうか」 


 

セラが前進をうながした。






・・・。



「遅いよー君たち」



すこし行った先でヨコヤマ達は待っていた。



「あーもうキツくなってきた」



「私もー」



やはり女の足ではきついののかヒロコとマナミはというと地面にへたり込んでいる。



「だらしないなー」



「ふふふ」



以外だったのはハルである。おさげに眼鏡のどこからどう見てもインドア風の外見に似合わず、スポーツ娘のチナツと軽口をたたき合っているくらい健在だった。



「ではあらためて行きましょうかね」



改めて隊列を組み直してアユム達は出発する。



それにしてもこの道、『龍の背』は長い、軽く3キロほどは歩いたのに道中はまだまだ長く続いている。



ずっと向こうに見える、まがりくねった奥は闇にのまれたまま見えない。



「あれアユムくん肩になんかついてるよ」



うしろにまわったミキが何か折り紙のような紙をつまむ。



「なにこれ・・・」



人型に切り取られた紙にはなにか呪文のような文字が書いているのだがアユムには読めない。



「『お守り』ですかね」



セラがつまむとふと風がどこかから吹いて来て紙を飛ばしていった。



「誰かの落としものかもしれませんね」



「ふーん」 


 

「まあ、よい『お守り』ならともかく『呪い』的なものもありますので自分の身のまわりには常に気をはらうようにしていて下さい」



アユムの目をみてセラは注意した。







・・・。



「この細くなっている所を抜けたら『剣の森』だからね」



ヨコヤマの一言にアユム達はほっとした。



あれから、かれこれ30分は歩いただろうか。



結局、アユムの体調は『剣の森』までもったが、ヒロコやマナミの足取りは重くなる一方だった。



「もうまじ無理」と座り込むのを何度もなだめすかしてアユム達はここまできた。



そして今、絞り込むように細くなって、3人ぐらいがすれ違うのがやっとの道をアユム達は歩いている。



ヨコヤマによるとここを抜けるといよいよ『剣の森』らしい



「じつは螺旋状に地下に潜ってたんですよ」



ヨコヤマは言う。



『龍の背』のカーブを曲がりながら、木の葉落としのように緩やかに下っていたのだ。



やがて産道をおもわせる細い道の終わりからもれている光が見えた。



「『剣の森』です」



となりでセラがつぶやいた。



口を抜けるとそれまでの薄暗闇から一転、アユム達は光に包まれた。



「うわ・・・きれいー・・!!」



叫び声と区別がつかない奇声をあげて、疲れのあまりさっきまで悪態をついていたヒロコが突然走り出す。



どこにこんな元気を隠していたのか。



「ほんとすごい」



「うわー」



ハルやチナツもあたりにひろがる光景に圧倒されたようだった。



アユムすら例外ではない。



野球のグランドいくつ分だろうか、左右、奥とも突き当たりが見えない空間にバラバラの間隔で銀色の柱が起立している。



よく見ると柱は水晶だった。



ただ普通の水晶と違って、なぜか表面が鏡のように照り返し、顔が写る。



「『マナ』が水晶に作用して『オリハルコン』に変異していると言われています」



ヨコヤマが解説する。



そこここから垂れ下がり、突き上げる銀色の柱はなるほど、どこか『剣』を思い起こさせる。



刃物を思わせる鏡面に洞内を照らす照明とアユム達が写り込み、それらが反射して万華鏡のように洞内全体に散りまかれている。



「すっげ・・・」



あまりの光景にアユムも絶句するしかなかった。




次に目の前にひろがる万華鏡の光景に慣れたアユムが気づいたのは人の多さだった。



アユム達と同じようなツアー客や個人の客らがちらほらと伺える。



「結構人がいるんですね」



「はい、ここがこのダンジョンのメインみたいなものですからね・・・・・ところでほら、アユムさん見てください」



今、すこし奥まできたアユム達の目の前はロープで区切られ、進入禁止になっている。



ヨコヤマはロープの向こう側の柱の根本をゆび指した。



そこには古く、今にもほどけそうなしめ縄があった。



「戦後の大規模な調査のときにはこの辺でもっともたくさんの青銅器が見つかりました」



「そのどれもが紀元前の前からと古いもので、この『剣の森』が古くから信仰の対象となってきたことを示しています」



貼られたロープのずっと向こうには無機質なプレハブとその窓からもれる明かりが見える。



「『極地研究所』ですよ」



あれはとのアユムの問にヨコヤマが続ける。



「ダンジョンにおける学術的研究と文化財の保護を担っている国の独立行政法人です」



「マナ濃度なども定期観測していて、このダンジョンの入洞許可なども決定したりするんですよ」



「へー」



極地研究所、・・・20年近く生きてきて、まだまだ知らないことはあるもんだなとアユムは思った。



思えばダンジョンという存在すらつい先日まで知らなかった。



「ところで・・・寒いですね」



アユムは少し震えた。



最下層だからなのか、あたりをとりまく空気は一層冷たさを増し、刺すような冷気が脛をこする。



アユムが女性陣を見ると、彼女たちはまだ互いに携帯を持ち出して、夢中になって写真を撮りあっている。



憮然とした表情でセラがたくさんのカメラを預けられて、さっきから写真を撮り続けている姿は滑稽だった。



「ははは、では最後にみんなで記念写真撮って出ますか」



ヨコヤマは彼のザックから一眼レフを取り出すと、集合をかけた。







・・・。



「はい、地上にでるまでが『冒険』ですよ」



『剣の森』を出るときにヨコヤマはそう言って一行は帰路についた。



帰りは地上に昇るエレベーターを利用するそうで、



『出口』と呼ばれる近代的に整備されたコンクリートの通路を一行は歩いている。



道路のトンネルを思わせる天井は高く、左右も開けている。



帰路の気安さか、誰の顔からも緊張は消え失せ、カメラを片手にさっきみた光景を話し合っていた。



「いやーすごかったねハル」



「うん」



ハルも興奮を隠しきれないようで、幼い顔に赤みがさし、おさげを振りながらはしゃいでいる。



「ミキちゃん、私また来たいかも 楽しかった。」



「うん」



ミキはどこか苦笑いをうかべながら相づちを打っている。



その横でアユムはセラと肩を並べて歩いていた。



「どうでしたか、アユム様」



「はい、面白かったです」



事実、今回のツアーは楽しかった。



初めて見る『魔法』のアトラクション、そして『ミミック』との戦闘、正直危険はないとは言い難いが、それよりも達成感のほうが大きい。



(うん、ぼくはできる)



自分のダンジョンがどうかは知らないが、相続した後の経営も自分なりに楽しめるのではと今回の冒険でアユムは自信を持った。



・・・異変が起こったのはそのときだった。



突然、まぶしい閃光が二度ほど走ると、破裂音と共に突然爆煙が巻き起こる。



あたり一面が青く染まり、鼻をくすぐる甘い匂いは嗅いだことがある。



そう『マナ』の臭いだ。



一気に広がった青白い煙は再び中心に集まり煙の柱を形作る。



「なんだよコレ!」



アユムは叫ぶ。



ふと前を見るとOL達と先頭にいたヨコヤマがこちらに走って来るのが見えた。



やがて静かに煙は実体化し、いつのまにか目の前に黒い壁が出来ていた。



いや人だった。



全長五メートル程、天井に頭を擦るくらい背が高い。



アユム達の目の前に巨人が立っていた。



全身を黒いブロックで形作られた石の巨人だ。



「・・オオオオオオ・・」



体の関節の隙間からのぞく内部では青い光が燃えているようにまぶしい。



「なによこれ・・」



いや、ミキはそれを知っていた。



見たことはなかったが、今まみえた瞬間に脳内に蘇る記憶があった。



「・・・ご・・・ごーれむ・・・」



以前倉庫を片付けていると見つかった父の手記にのっていたのだ。



手記には、絵と共に簡単な説明で「危険、逃げるしかない。こいつのせいで・・・」とだけ書かれていた。



ミキは恐怖のあまり腰から崩れ落ちた。



「ヨコヤマさん!」



ミキをかばうように前に立ち、アユムは叫んだ。



もちろんその足もすくんでいる。



あたりでは完全に精神の均整を失った女性陣が壊れたように叫び声を上げ続けている。






・・・。



「ヨコヤマさん!」



誰かが叫ぶ自分の名前は絶叫の嵐の中で、どこか遠い空でなる銃声の様に思えた。



ヨコヤマは今、混乱の極みにあった。



(じょっ、冗談じゃない・・・『ゴーレム』だと・・)



ヨコヤマ自身は『ゴーレム』を実際に見たことはなかった。



ただ、冒険仲間からいろいろと噂は聞いている。



(『9アビス』でもまれに最深部近くに出現する、漆黒の巨人。



その体は呪文の刻まれたブロックで構成されていて、岩のように屈強。



そしてその力、暴風の如し。過去、幾人もの冒険者が死亡、または再起不能に追い込まれているという。



毎年一桁の死者をだすダンジョンの主・・・・)



(こんな化け物、この『マナ』レベルで出現するはずがない・・・どうなってやがんだ!)



ガイドとしてヨコヤマはアユム達の前に割って入り、『ゴーレム』に対峙すべきかもしれない。



しかし彼はこの業界に浸りすぎていた。



かつての『冒険』で目の前で見た仲間の滑落死が思い起こされる。



ヨコヤマの足は今石化したように動かない。



それが『ゴーレム』の力かどうかは解らない。



「ヨコヤマさん!」



顔を向けるとアユムが狂気の表情で助けを求めている。



いつのまにかアユムの声色は連絡から絶望へとすっかりとかわっていた。



ヨコヤマは自分のいる世界が静かに色あせてくるのを感じていた。



「・・・ちが、違う!俺じゃない!俺が用意していたのはもっと弱い・・・」



思わず弁解の叫びが喉を突いて宙に躍り出た。



「用意・・・?」



恐慌をきたした世界のなかでセラ一人だけは何故か冷静だった。



「やはりあなたの班の『突発率』が異常に多かったのはそうだったのですね」



「あ・・・・」



セラから不意に質されて、ヨコヤマは自分の失策に気づいた。



「セラさん!」



うなだれるヨコヤマを尻目に、アユムとしては何がなにやら解らないが、とりあえず目の前の状況をどうにかして欲しかった。



『ゴーレム』は何故だろうか咆吼はあげるものの、まだ飛びかかってくる気配はない。



フー、と一息はくとセラは動き出した。



驚いた事にセラはツナギのボタンを開けるとふくらんだ胸元の隙間から小瓶を取り出した。



小瓶の中の無色透明な液体はセラが蓋を開け、周囲に振りまくと青く発光しながら霧状に散っていった。



甘い『マナ』の香りにまじって、脳髄をやく強い臭いを感じる。



アユムはどこかで嗅いだことがあるのを思い出していた。



これはアルコールの匂いだ。



「蒸留酒は『スピリッツ』と呼ばれております。そしてそのなかにまれに『ソーマ』と呼ばれ『マナ』を多量に含むようになったものがあります」



「セラさん・・・!」



「『ヴォイニッチ』の50年物はやはりいいですね」



セラはそうつぶやくとゆっくりとアユム達の前に立った。



前に『魔法』を使った時のようにいつのまにかアユム達のまわりが青く光る霧につつまれていた。



「さて・・・通常『ゴレーム』のような上級の『異界物』はこの濃度では自らの体を維持することはできません。自壊します」



「自壊しないということは・・・つまり・・・」



「・・・それが『偽物』だということです・・」



アユム達に向かって『講義』を続けながら、青いマナの逆光のなかセラは腰のベルトに手を掛け、はずした。



膨らむ腰周りと共にセラが手にもったベルトは驚いたことに硬質の破裂音を発すると刃のように直立した。



「そして『オリハルコン』の中にはマナ濃度に反応して『本来の機能』をあらわにするものもあります」



「このように」



「いけ、『鳥刺し』」



セラの手に起立する『ベルトだったもの』はその号令に起動するかのようにうねながらのびあがり、振り抜いたセラの腕を延長してゴーレムの体を紙のように突き破った。



「ギャワーン」



その巨体にふさわしくない甲高い鳴き声を発するとゴーレムは当初のようにその身を煙と化し、輪郭を崩し始めた。



アユム達があっけにとられているその前に突然毛玉のような生き物が現れ、こちらと目があうと猛スピードで逃げ出した。



「『ムジナ』ですよ」



「『ムジナ』?」



「はい、知らない人はタヌキと同じ生き物のように思っていますが実は違います



『タヌキ・ムジナ事件』の判例で示されたように、ムジナはタヌキとは近似種ではあるものの、生態においては全く違う生き物です。



別名ダンジョン・ラクーン、よくダンジョンにあらわれて人を化かす生き物として古来より親しまれています」



「つまり今回の『アレ』も『ムジナ』が化けた影だったのですよ」



そういうとセラはヨコヤマを射貫くように見た。



「ヨコヤマさん、『扉』の無断使用の件、近日中に法務部より通達を送らせていただきます。是非ご確認下さい」



びくっと手をついて崩れているヨコヤマの体が一瞬反応した後、静かに震えていた。



まだ青く輝き続けるマナの光を背中に背負って逆光のなかでセラはヨコヤマを睨みつづけている。



「と・・・『扉』?」



アユムとしてはなにがなにやらわからない。



「はい、『ゲート』とも呼ばれておりまして、爆発的な『マナ』を呼び水として、『こちら』と『あちら』をつなげるものです」



「人工的なものは流通していないのですが、ダンジョンで盗掘にあったものがまれに古物商を通して闇マーケットに売りにでたりするのですよ」



「その形は様々で、壺であったり、ランプであったりします。当然『重文』クラスは管理がされているのですが、最近の紛争で下級の物が流通しておりましてね、困ったことに」



「調査部から『遭遇率』がおかしい、様子を見てきてくれと要請を受けて視察を兼ねてこのダンヨンへ来たのですがどうやら見立ては正解だったようですね」



「ホントこまるんですよね、問題があると・・・ここのガイド仕事は当社の系列の『マーブル・ヒューマンリソース』で入札させて頂いてますので・・・」



「セラさん、あなたは一体・・」



恐怖で乾ききった喉を絞ってアユムは質問を投げる。



「私?」



セラは整った笑みを浮かべる。



その笑みは整いすぎてアユムに冷たく冴えた印象を残した。



「私は『ミカゲ・エステート』信託部門地下資産管理課、上級ダンジョンアドバイザー、および一級ダンジョンプランナーのユキカタ・セラです。」



管楽器をおもわせるセラの澄んだ声が静まりかえったダンジョンに響き渡る。



「そして今はあなたの相続のお手伝いをさせていただくパートナーでございます、アユム様」



『マナ』の光が散って、再び薄く陰った坑内を強い風が吹き抜けていった。

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