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古戸 晶の第五章 五日目 変るところもなければ、変わるところもある


『ワン!ワンワンワン!ワオォォォォォオン!』

 俺は、心当たりのない犬の鳴き声で起こされた。

「なんだ……」

 目をこすりながら、体を起こすとまだ、薄明りな空だった。

「おはようございます。すいません。私のアラームです」

 声の方向を見ると、学生服の吉瀬さんが立っていた。そうか、今日は平日だ。昨日のことは別として時間は止まらない。吉瀬さんは学校があるのか。

「いやいいんだ……すまん。これから朝食を用意する」

 そういって俺がソファから立ち上がろうとすると

「あ、いえ。朝食は勝手ですけど、冷蔵庫の中のものを使って、作らせてもらいました……ダメでしたか?」

 そんなに食材がなかったはずだが……、テーブルの上には見事な料理が並んでいる。

「すごいな……。すまないな、これから学校だろうに」

 それにしても、吉瀬さんを目にすると昨日のことが、本当のことだったのだと実感する。なんだかなぁ……。

 ちなみに昨日はあの後、防水加工スーツを干し、吉瀬さんをソファで寝かせるわけにはいかないので、俺の体にはあまりなじまなかったふかふかの布団を取り出してきて、それを茶の間に引き、寝てもらった。

「はい。じゅり……二ツ橋の娘で同級生の子と、先生にだけは今回のことは話しておこうかなと思うんですけど……どうでしょうか?」

 二ツ橋の娘か……話を聞く限りは、信用できる娘のようだからいいとして、問題は先生だ。

「いや、その二ツ橋の娘には伝えてもいいと思うが、先生には聞かれるまで何も言わないほうがいい」

 下手に、先生を介入させると余計に話がよじれるかもしれない。

「……そうですか。分かりました」

「すまないな。せめて、俺が職に就くまでは、吉瀬さんからは言わないほうが、いいと思う」

 昨日のことは、俺と、吉瀬さん一家だけの問題、つまり吉瀬さんはある程度の正式な手順を踏むまでは、ただの家で女子高生ということになってしまう。それを先生に行ったら容赦のない介入があるだろう。

「分かりました。でも、一人だけで気負わないでくださいね。少なくとも、……晶さんの理解者は三人はいるんですから」

 俺は、理解者を思い浮かべた。

 二ツ橋、その娘、そして吉瀬 友菜子。

 こんな俺にしては十分すぎる人たちだ。

「ああ、分かっているよ……友菜子さん」

 俺は、名前で呼ばれたので、同じく名前で呼び返した。理由が理由だが、一つ屋根の下の共同生活、そういうのも悪くないと思った。

「ふふ……さんは取ってくれないのですか?」

「とっていいのか?」

「ぜひ!その方が親子のようですし、さんを付けて呼ばれると、どうもむず痒いというか……」

「そうか、分かった。そういうならこれから呼び捨てにしよう。俺のことは呼び捨てにしないのか?」

「私がしたくないのです」

「……そうか」

 その後、友菜子と朝食らしい朝食を食べた。友菜子曰く、ここからの方が学校にも近く、二ツ橋の娘の家にも近いのでいろいろと登校は楽だとのことだ。

「じゃあ行ってきます。晶さん」

「ああ、いってらっしゃい。友菜子」

 俺は自分の世間体など忘れて、外まで出て、友菜子の姿が見えなくなるまで見送っていた。

 そのあと、俺は家に入るとき改めて外観を見た。

「……こうなった以上、このままって訳にもいかんな」

 俺はこの日の予定を就活と、外装の塗装工事発注にした。

 

 なんだか今日はさわやかだった。

 太陽も俺を認めたかのようにさんさんと輝いていた。

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