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古戸 晶の第三章 三日目

「んむぅ……」

 どうやら昨日は思ったより早く寝たようで、時計の針は八時を指していた。

 俺はまたしてもカーテンを閉め忘れ微妙な明るさの太陽に照らされた。

「……濃霧か」

 今日は本当に用事という用事がない。実に困ったもので、忙しければ暇が欲しく、暇になれば用事が欲しくなるものだ。「お勤め」中はそれどころではなかったが。

 さすがに、昨日一日を水と生ハムで過ごしたのには無理があったのか、腹が減っている。こうなっては少し手間をかけてでも飯を作るしかないだろう。

 俺は冷蔵庫の中身を見た。生ハムのほかに、お総菜コーナーのコロッケにレンジで温める用のご飯にその他諸々。

「……」

 朝ということもあるのか、頭も体も「お勤め」中のリズムから脱すると怠けるようだ。手のあまりかからない冷凍食品で済ましてしまおう。

 便利なもので、三十分もすれば朝食が出来上がる。手がそれほどかからずに。

 俺は解凍した朝食をとりながら、今日の予定を立てていた。まずは、……仕事か。

 本当は、その前に行かなくてはならい、場所があるのだが……俺が行ったところで逆効果になるだけだろう。

 俺は今日は仕事を探すことに時間を使うことにした。

 朝食を食べ終わり、容器を分別して捨てる。洗い物が少なくていいことだ。

「さてと……」

 昨日も、一昨日も風呂に入ってなかったな……。風呂掃除はしてあったはずだし、出かける前にスッキリと目を覚まして行こう。俺はそう思うと直ぐに風呂場へ向かい、水を入れ、沸かした。入れるようになるまで三十分ぐらいだろうか。

 その間に換気をしよう。まだ埃っぽさが完全には抜けていない。俺は窓を開けた。そして、風呂が沸くまでの三十分間、ソファに横になっていた。

 三十分後。風呂場へ行ってみるとちゃんと沸いているようで俺は安心した。俺は昨日洗濯して完全に乾いてるか心配だった洗濯ものを触ってみると、乾いているようなのでそれを手に取り、風呂場へ向かった。

 服を脱ぎ、下着も脱ぎ、風呂場へ入る。まずはシャワーを浴びる。「お勤め」中はそこまでしっかりとしたことはできなかったからな。できるだけ丁寧に。もういっそのこと洗ってしまおうか。

 俺は全身を洗い、浴槽へと入った。久々のゆっくりとした入浴……まさに身も心も洗われるようだった。

 だが、俺がそう思った瞬間に罪悪感も頭をよぎる。

「……十分だろう」

 俺は風呂を上がり、体を十分に拭き、着替えた。

 時計の針は十時半を指していた。ちょどいい。コンビニへ行って求人票でももらってくるとしよう。

 俺は、窓を閉め、一応財布を持ち、戸締りをしっかりとしてからコンビニへと向かった。まあ、よほどの奴じゃあなきゃあんな家に入ろうとは思わないだろう。……いや、吉瀬さんのような女子高生がいるぐらいだから気を付けておかねば。

 まあ、やられても別にいいのだが。

 そうこうして考えているうちにコンビニに着いた。なんとも、コンビニというのは改めて思うが便利なものだ。俺は無料の求人票を手に取り、そのままコンビニを物色した。昼も近いから同時に昼食も買ってしまおうと思ったのだ。その結果、鳥そぼろにぎり、というこれまた懐かしいものがあったので、それを手に取りレジへ向かい、会計を済ませ、コンビニを出た。

 帰りに改めて、町並みをよく見た。やはりしつこいようだが変わってしまった部分が多い。何とも言えないむなしさのようなものが襲ってくる。

 家に着き、玄関のかぎを開け、中に入る。別段変わったところはなく、さすがにこの短時間の間に泥棒には入られなかったようだ。

「さて……」

 俺は買ってきた鳥そぼろにぎりを片手に、無料配布の求人票に目を通していた。正社員は期待していないが、せめて日雇いの建設業関係の仕事……肉体労働やアルバイトでもいいからまずは働かなくてはと思っていた。

 ふと時計に目をやると午後の四時になっていた。ここで俺はある、見落としをしていた。

「履歴書買い忘れた」

 これは就職……アルバイトの仕事に就くのでさえ、必要になる場合がほとんどだろう。これなくして食話と言っても過言ではない。

 そして、これに書く内容で、俺は俺自身の首を絞める。

「……一応行ってみるか」

 最近のコンビニは何でもあるから、もしかしたら、履歴書も売ってるかもしれない。俺はそんな安易な考えで再びコンビニへ足を運ぶ。

 再びコンビニに訪れ、文房具やノートなどが陳列してある所をよく見てみる。

「……あった」

 正直俺は本当にあったことに驚きを隠せなかった。考えれば洗剤ですらあるのだからあっても不思議ではないのかもしれない。

 俺はそれを手に取り、レジへ向かった。別段変わったことはなく、普通に買って、帰るだけ。それだけだった。

 それでも、心のどこかで、頭のどこかで、俺は許されることなく殺されると思っている。

 そして帰る途中、吉瀬さんに会った。しかし、近くに吉瀬さんの友達とみられる人物もいたので、俺は気が付いてないふりをしようとした。

 にもかかわらず、吉瀬さんは俺に気が付いたようで、軽く会釈してきた。俺のことを両親に聞いてないのだろうか?

「……」

 俺も無言で会釈をし返す。そして、そのままお互いに違う方向へと帰っていった。

 気のせいか、二ツ橋の家の方向に向かっているように見えた。

 まあ、仮に向かって行ったとしても、俺に関係はないだろう。

 それよりも、帰って求人票を見直して履歴書を……書かなきゃならん。逃げることはできないだろうな。逃げようとも思わないが。

 日もだんだん沈んできた。俺は少し急いで帰った。

「ふぅ……」

 なんだか「お勤め」が終わってからというもの、疲れることが多くなったかもしれない。生活リズムが崩れたから?それとも怨念か。

 いずれにしろ、受け止めるだけ。

 気が付けば、太陽はもういなくなっている。電気の出番だ。

「探すか……仕事」

 こうして、求人票を見ながらその日は気が付けば眠ってしまっていた。



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