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吉瀬 友菜子の第一章 一日目 散歩

二〇一二年五月五日。私は地元と言えど知らない場所もあるということをTVの番組を見て感化されたので現在散歩に出ています。私は制服にお気に入りのマフラー、このマフラーは寒いからつけているというわけではありません。お気に入りなのです。それと今日は学校ではありません。制服もお気に入りの格好なのです。

 そんな散歩の途中ぼろぼろの家に入ろうとしている人を私は見かけました。

 その家は、ぼろぼろという表現では生ぬるいのかもしれません。何とも見るに堪えない様相でした。もしあれがデザインならば、よほど自虐的思想が強い人なのでしょう。まさに罵詈雑言の嵐です。

 入っていこうとしている人はどうやら男の人のようです。その男の人は、家の様相など気にせず家に入ろうとしているようでした。

 そんな家に入っていくとは、よほどの勇気の持ち主か、本人かです。

 私は、そんなしょうもなくどうしようもない好奇心から、その家へと近づいて行きました。

 さすがに、用もないのに正面から入るようなまねはしません。まずは、音を聞くべきなのです。様子をうかがわなければなりません。

 私は、家の外壁に耳を当てました。何も聞こえませんでした。そりゃそうか。

 次に、窓に近づきました。窓にも罵詈雑言の嵐です。なんだかかわいそうです。耳を近づけると。人の声が変り替わり聞こえてきました。

『この屑……郎!て……刑だ!』

『被害者……場になっ……みろ。許さ……るこ……ゃないだろう』

『お前は……れても文……は言えないぞ』

 どうやら、複数人いるわけではなく、留守電か何かを聞いているようです。

 それにしても、物騒な言葉が飛び交っているようです。恐ろしや。

 などと、まるで他人事のように考えていると、不意に窓があきました。反応できなかった私は、耳を当てていたので耳がすれ、体は傾き家へと倒れこみました。

「ふぎゅ!いったぁ……」

 倒れた痛さと耳の痛さに声を上げてしまいました。そして、ふと上を見上げると少しふけ気味の男性が立っていました。

「……俺になんか用か?殺しに来たのか」

 ……この人は何を言っているのでしょうか?私は、この十七年間出会い頭に殺しに来たのかと問われたことは初めてです。

 しかしまさか盗み聞きしていたなどとは到底言えません。

「いえ……その、この家に入っていくのが見えたので、つい興味本位で。すいません」

 私に言える事は本当のことだけでした。こんなことを言う人は危ない人に違いありません。ヤクザというやつかもしれないのです。

 私は恐怖と緊張で、言葉に詰まりました。

「そうか。まあこういう外観だからな。俺が好き好んでこういう風にしたんじゃあないがな」

 やはり、この罵詈雑言の嵐の外観は好きでやっているようではないようです。やたらと自虐的思想が強い人ではないようです。

「じゃあ、誰かのたちの悪いいたずらですか?」

 私は質問をぶつけた。単純にして最も気になる疑問。気が付けば声にしていた。

 立ってしょうがないじゃないですか。こんな外観ですし。

「当たり前だ。……いや、報いだろうな。きっと」

 やっぱり、危ない人かもしれません。報いということはそれ層を打のことをしなければ受けませんから。やっぱりヤクザかもしれません。

 そうと思うとこの倒れた態勢は危険かもしれません。少なくとも立っていなければ。

「よいしょっと」

 立ち上がり男性の方を見ると、男性もこちらを見ていました。目が合ったというよりも全身を見ているようでした。

「お前、歳はいくつだ」

 私はムッッとしました。恰好からしてもわかるように女子高校生です。女なのです。そんな私に お前、歳はいくつだ とは。レディにたいして聞くことではないですし、恰好からして大体の予想はつきそうなものですが。

 聞かれたからにはこたえるのが礼儀というモノでしょう。

「十七です。高校二年生です」

 ふと思いましたが、ムッとする権利は私にはないのです。

 不法侵入に盗み聞き……怒られてもおかしくないことではないでしょうか。今になって考えてみると、この男性がヤクザだった場合非常に危険ではないでしょうか。

 私はそんな身の危険を考慮していると、男性は拍車をかけるような言葉をかけてきました。

「そうか。ところで用はなくて本当に興味本位なのか?名字と名前は?それに、証明できるもの」

 これはヤクザであろうとなかろうと本格的に目をつけられてしまったのでしょうか。まあ、今までの行為を振り返れば当然のことですか。

吉瀬きせ 友菜子ゆなこです」

 私は、名前を言いつつ制服の内ポケットから学生証を取出し見せました。お気に入りの服が学生服でよかったのか、それともすぐに出せてしまった分、目をつけられやすくなって不幸なのか、今の私にはわかりません。

 男性は、私の学生証を手に取り、すぐに返してきました。

「で。興味はなくなったかな。吉瀬さん」

 男性は、私にまるで興味などないかのように言ってきました。

 私は興味本位で近づいてきたのですが、どうもそれどころではないような状況に陥ってしまって、興味がそがれてしまいました。

「はい。今日はすいませんでした。本当にごめんなさい」

 私はその言葉とともに頭を深々と下げました。

 こういう時には、素直に謝り倒すのがいいと何かの本に書いてありました。それでなくとも本当に興味本位とはいえ、あまりいいことはしていないので謝るのは当然でしょう。本音を言うと少し怖いのもあり、早く帰りたかったのだ。

 帰り際、何を言われることもなくスッと返された。その時、家の表札がちらりと目に入った。

「ふるど?……」

 落書きや傷などで見えづらいですが漢字で古戸とかいてありました。

 近所ではないということもありますが、珍しい名字です。帰ったら両親に聞いてみましょう。

 今日の散歩は、何ともスリリングでした。確かに地元と言えど知らない場所と人がありました。

 帰っている途中によく両親が祝い事の席などに持っていく、和菓子の店から何やら香ばしいいい匂いがしてきました。ここで私は、大人らしい対応の発想が浮かびました。

 ココの菓子をもって謝罪に改めていくというモノです。幸い、道は覚えていますし、近くまで行けばあの外観でわかるでしょうし。

 そうと決まれば即行動です。

「すいません」

「はい」

「三千円以内で買えて、なおかつ大きめの和菓子のセットを包装してください」

「かしこまりました。少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「はい。時間には余裕があるので大丈夫です」

「ありがとうございます。では、何種類かお持ちいたしますので、お選びください」

「はい」

 なんという。大人なやり取りだろう。もしかしたら周りの皆はこんなやり取り普通かもしれないけど、私は何だか一足先に大人になったような気がしました。

 目の前に並べられた菓子折りの中から無難な二千五百円のセットを選び、包装してもらい。私は再び帰路につきました。

 ヤクザだったらなおさら、きっちり謝らなきゃいけないでしょうし。

 そんなことを思いながら、日の落ちかけている路地を歩いて家へと変えるのです。

 三十分ほどして、自宅へ帰宅しました。私は靴を脱ぎリビングへ向かいました。

「ただいま」

「あら、おかえり」

「ん?その袋はなんだ?見たところ、あの和菓子屋のようだが」

「あ、食べちゃダメだよ絶対に。明日もってかなくちゃならないところがあるんだから」

「そうなの?」

「何処へ行くんだ?せっかくの休みなんだから、その制服ばかり来てないで違う普通の服を着て外出してみたらどうだ」

「いいの、私は制服が好きなの。あと三十着は変えある」

「ところでこれ本当に食べちゃダメなの?」

「絶対にダメだよ母さん」

 私は、家族と会話をそれとなくかわし、二階の自分の部屋へと登って行った。

 私は何かを忘れているようなもやもや感に駆られました。何を忘れているのだかすら忘れていそうで怖いです。

 とりあえず夕食ができるまで、寝てましょうか。私は自慢のふかふか羽毛布団ベッドへとダイブしました。ああ、心地いい。

 この心地よさで寝てしまう前に、着替えましょうか。私は、クローゼットの中から部屋着用の制服を取出し着替えました。ちなみにですが、私のクローゼットの中には十着の普段着用と、六着の学校用、それに四着の外行き用、五着の部屋着用、そして五着の寝巻用があります。今、私が来てるのは普段着用です。

 着替えが終わると、ベッドに着く暇もなくしたから、ご飯ができたとの報告がありました。

 私は階段を下り、リビングへと向かいました。

「さあ、食べましょう」

「私は、お肉が食べたかったです」

「悪かったな。何分安月給でな」

 皆でそんな話をしつつ、そろっていただきますもなしに、一斉に食卓に並んだものを食べ始めます。これが我が家流です。

「ところで明日はあんなものもって何処へ行くんだ」

「えーっとね……あれ?誰だっけ?」

「なに?わすれちゃったの?」

「違うの。思い出せないだけ」

「それを忘れたというんじゃないのか」

「うーん……あ、ところでさ」

「何?」

「なんだ?」

「このあたりじゃないんだけど、すごく落書きの酷い家知ってる?」

「落書き?」

「何それ?空き家なの?」

「ううん。人はいるよ」

「しらんなぁ」

「私も知らないわぁ」

「なんだそうなの。二人ともたまには散歩に出てみたら?いろんな発見があるよ」

「あなたもしかして、この間のテレビに感化されて今日とつぜん「散歩に行ってくる」とか言い出したんじゃないの?」

「……そんなことないもん。あ、しょうゆとって」

「自分でとれ」

「お父さん、そんなに気が利かないから安月給なんだよ」

「うるさい」

 こうして、夜は更けていきました。

 これで明日の用事は、あの家に謝罪しに行くことだけです。そのあとは自由です。フリーです。今日とは逆の方に散歩でも行きましょう。

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