ある夏の日
まっすぐ続く畦道の向こうには隙間なく入道雲が広がっている。
眩しすぎる陽射しは、私の手を引いて歩く母が持つ日傘が遮ってくれた。
私と母、二人きり。
母の歩く速度から、ただの散歩ではないことには幼い私でも気づいていた。
「ねぇ、おかーさん?」
「…なあに?」
「おとーさんは?どうしたの?」
先程から繰り返されるこの質問に母は答えない。
いや、幼い私に答えられなかったのだろう。
困った顔をしていたことをはっきりと記憶している。
それでも私は、同じような質問をし続けた。
母の答えをどうしても聞きたかった。
「沙月、疲れたでしょう?」
母は突然、そう言って屈んだ。
私は無言で背中にしがみつく。
母はそのまま立ち上がり、おんぶして歩きはじめた。
蝉時雨のせいで消えてしまいそうな小さい声で、母が何度も繰り返していた。
「結局みんな一人で生きていくものなのよ。振り返らない…」
あれはどういう意味だったのか、今でもはっきりしない。
響く遠雷は伝えるのは、夕立の予感。
あれからの私たち母子を占っているような天気にも気づかず。
無邪気で何も知らない幼い私は、母に負ぶわれ、いつのまにか寝ていた。
泣きもしないで。